50 ユーリとルナの確執 Side 黒川愛梨
朝日と共に私たちはホイロス城砦へと馬車を走らせた。クルニ村で聞いたヤギの眼をした悪魔の話、その悪魔は赦さないと言っていたらしい。ユーリさんに尋ねてみてもヤギの眼をした種族は今まで見たことが無いようだ。もっとも全ての種族を把握している訳ではないので、そのような種族も居てもおかしくはないとユーリさんは言っていた。
ユーリさんによるとホイロス城砦がその悪魔に恨みを買ったのだとしたのならば、考えられることは2つあるそうだ。ヴェルタニア王国の法律ではいかなる理由があっても魔族を身の回りに置くことは許されていない。それなのにパラミデスさんは魔族売買をしていたらしい。
まず1つ目はパラミデスに買われた魔族の仲間の復讐が考えられる。ルークさん達は魔族売買の証拠を探していたが、妖狐王ルナ=ブルズアイの配下から購入しているようだったので中々尻尾を掴めなかったようだ。
クイナさんもホイロス城砦に侵入を何度か試みたが、パラミデス家に代々受け継がれている魔道具のせいでホイロス城砦に潜入することが出来なかったようだ。その為クイナさんは別の方法で魔族売買の証拠を集めていたそうだ。
2つ目はルナさんがパラミデウスさんを裏切り、その悪魔を使ってホイロス城砦を落としたことが考えられる。パラミデスと懇意にしていたルナさんならホイロス城砦の内部から攻撃できる。竜族が攻めてきても破壊されない堅固な城壁を持つホイロス城砦でも、内部から攻撃したのであれば陥落する可能性はあるみたい。
「パラミデウス卿は少し前に他の勇者達をホイロス城砦に招いていたと情報が入ってある。そのことでルナの逆鱗にパラミデスが触れたのだとすると……」
「ほかの勇者もホイロス城砦に行っていたんですか?カスミンもおキクもヴェルタニアから離れているから、あの3勇者辺りか………奴らなら何かやらかしていても不思議じゃねぇな…」
「ルナの力はそこが知れない。私が逃げる判断を下したときは君たちは必ず従ってほしい。ルナも逃げるアリをわざわざ踏み潰すような真似はしまい」
「私は戦いますよ…もしそのルナさんが居たとしても。四葉君を助けるためなら!!」
「ダメだ!!ルナを甘く見てはだめだ……君も私の妹のように………」
「ユーリさんの妹さんと魔王の間に何かあったんですか?俺も魔王と戦う覚悟はあるけど…勝てない相手にケンカを売るほど馬鹿じゃないですよ」
ユーリさんの妹、アテナはモルドレイ家が始まって以来の天才だったらしい。親戚のガラート家に養子として迎え入れようとされたが、アテナさんは頑なに拒否したのだそうだ。
その時のユーリさんは職業にも恵まれなくて、只の剣士だったみたい。それに比べてアテナさんは剣神の職業だったみたいで、騎士団の中でも敵は無かったようだ。
ある日、魔族が国境を越えてきているとの情報を掴み。騎士団長達を含む少数精鋭で向かったが、アテナさんだけは帰ってこなかった。騎士団長達の話によると魔族による罠だったらしく、大量の魔物が発生したので直ぐに退却したそうだ。
アテナさんは他の皆を逃がすために大量の魔物を防ぐ盾になったそうだ。数日後に戻ってきた騎士団長達も無傷とは行かなかった。ほとんど部下も残ってはおらず騎士団長達も大怪我を負って帰ってきたそうだ。
「大量の魔物程度なら私の妹なら問題ないはずだった。だがその魔物を操っていたのはルナだと後に知った」
「そのアテナさんを罠に嵌めたのが、あのパラミデスと組んで立って言うルナか…」
「奴は狡猾で残忍だ…金の為なら同族だって裏切る悪辣さだ……奴は欲しいものはどの様な手を使ってでも手に入れる。私の妹の事もどこで知ったのか奴の目に留まってしまったらしい」
「すごく強い剣神のアテナさんでも魔王には勝てなかったって事ですか?」
「私も妹が負けるとは思いもしなかった。だがその戦いの後、妹の行方は途絶えた…」
そこからユーリさんは妹の情報を掴むために国中を駆け回ったそうだ。魔族の出現情報が出れば駆けつけて魔族を捕まえてアテナさんの情報を聞き出すが、魔族の口からは何も出なかったようだ。
何年かその暮らしをしていたらいつの間にか剣鬼になっていて、周りには助けた村や町からついてきた仲間が出来たようだ。ある日、捕らえた魔族からルナさんの隠れ家の情報を聞きつけて向かうと、そこには魂の抜け殻のようになっていたアテナさんが閉じ込められていたそうだ。
「妹は自分では立つことも出来ない酷い状態で放置されていた……」
「それでもアテナさんは生きていたんですよね?俺たちの世界と違ってこの世界には魔法があるし、エルクさんみたいな治癒術師が居ればどんなケガだって治せますよね?」
「身体は魔法で治すことは出来た……だが心はそうはならなかった……」
「それで……そのアテナさんは今どこにいるんですか?心の方は時間がたてば……」
私は聞かずにはいられなかった。魔王のルナさんとパラミデスさんは繋がっていた。ホイロス城砦は悪魔の手により陥落してしまったが、四葉君はもしかしたらアテナさんのように魔王のルナさんに捕らえられているかもしれない。
言葉にしたくないような残酷なことが行われていて、アテナさんの様になっていたらと思うと胸が張り裂けそうになる。今すぐにでも私がユーリさんのように助けてあげたいと思った。でも……ユーリさんの表情を見ていると質問をした事を後悔しそうになる。
「私の妹………アテナは………私がこの手で殺した……」
「そんな………」
アテナさんの心は戻っては来なかったようだ。いつもは魂の抜けたような感じなのだが、ふとした瞬間に何かを思い出し叫び苦しみだす。毎日がその繰り返しだったようだ。その様子を毎日見続けたユーリさんはユーリさん自身の手で終わらせたのだそうだ。
「だからルナが現れた時は私を置いて逃げるんだ……私は死んでも奴を始末する」
「ユーリさん俺たちだって少しでも手伝…」
「君たちでは足手まといになるだけだ!!大人しく僕の言う事を聞いてくれ!」
願いにも聞こえるそのユーリさんの叫びに私たちはただ頷くことしかできなかった。そして、私たちは遂にホイロス城砦の前まで到着した。正門は激しく壊されて城壁も崩れ去っている。中に入ると血の匂いが充満していた。
チム子です。しばらく暗い話が続きます。すみません
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