42 プアア達との戦い
目が覚めると頭の上に何か柔らかな感触がある。目の前に何かあるのか少し息苦しい、規則的に動いているその物体に触れるとビクッとした反応をしてまた寝息が聞こえて来る。途中から何となく察していたが昨日に引き続きまた僕の寝床に侵入してきている。
「ランカさん!!いい加減に……」
「うるさいなあ、シンラもう少し寝かせてよ!」
寝ぼけて弟と間違えているのか抱き枕の代わりにしていたのだろう僕の頭を抱えるように締め付けられる。レベルのせいなのか種族のせいなのかわからないけれど物凄く力が強い。頭の柔らかな感触も先程よりもはっきり感じ取れるので全神経を頭頂部に集中させて感じているが、ランカさんの締め付ける力に比例して首も締まっているので気を失いそうになる。
「ランふぁさん!!しんでしまい……ぐぇえ!!」
「ふぁあ……カナタ?目を開けながら寝てるなんて変わった寝方をしているね。いつまで寝ているんだ!おーい起きろ仕事だぞ!!」
ぺちぺちランカさんに頬を叩かれて強制的な二度寝から目が覚めると、ランカさんは呆れた表情で仕事の準備に取り掛かっていた。寝坊しかけていたのはランカさんのはずなのに納得いかない。頭の感触の為に我慢し過ぎた邪な僕も悪いのだが、ランカさんが僕の寝床に侵入しなければこんな事にはならなかった、一言文句言わなくては気が済まない。
「ランカさんは何で僕の部屋で寝ているんですか?自分の部屋で寝てくださいよ」
「別にいいじゃん!シンラみたいな事言わなくてさ!弟に似ているから、ついつい揶揄いたくなっちゃうの!!そういえばまだ見せた事なかったよねシンラの事、写真持っているから見せてあげようか?」
「いいえ結構です!!早く仕事に入りましょうランカさん」
頬を膨らませながら残念そうに胸元のペンダントをしまってトボトボと集光石の回収に向かうランカさん。ちょっと悪いことをしたかもと罪悪感が芽生えるが集光石の仕事を終えてプアア小屋に入ると絶好調のランカさんが待っていた。
「カナタ!!遅かったわね、今日はあたいじゃなくてカナタがプアアの相手をする事!!構えと技は昨日見せたから見様見真似でいいから戦ってみる事!!プアアが襲い掛かってこなくなったら合格!!」
「分かりました、何とかやってみます」
ランカさんから短剣を2本借りてプアアの柵に入ると1頭のプアアが目の前に立ちはだかる。昨日ランカさんに聞いて分かったことがあるのだが、プアアは野生でも群れで暮らす魔物らしく、その中には序列があるらしい。群れの中で一番弱いプアアから襲い掛かって来るみたいだ、敵の体力を削って最後にプアアの中でも一番強い個体と最後に戦わせて勝つのがプアアの生存戦略なのだそうだ。もっともどう足掻いても勝てない相手には群れごと逃げるらしいのだが。
プアアの突進を躱して一太刀を入れるがランカさんの言った通り僕の力ではプアアに浅い傷しかつけられない、プアアの攻撃は単純な突進しかないので直線の攻撃に対応出来れば簡単に躱すことが出来るが。何回も躱して攻撃を繰り返していれば、体力が尽きていずれ当たってしまう。案の定プアアの突進に回避が追い付かなくて吹き飛ばされてしまう。野生のプアアと違い牙は切り落とされているので致命傷には至らない。
「カナタ!大丈夫?!今日は終わりにしようか?」
「大丈夫です……あと少しで何か掴めそうな気がするのでもう少しやらせてください」
プアアが立ち上がったに再び吹き飛ばすために突進をしてくる。今度は避けてプアアの腹部に攻撃を加えるが浅い傷が増えていくばかりだった。だがここで初めてプアアが苦しそうな鳴き声を放った。よく見ると僕が攻撃した傷の重なっている所から血が滲み出てきている。怒りでプアアの目が血の色に染まる。地面を踏み鳴らしその勢いのまま突進してくる。怒りのせいか早くなったがダヴラス・ホーンと比べれば全然遅い、軽々躱し右手でもう一太刀浴びせて左手でも同じ個所を切り付ける。
「ブヒィイイイイイイイイイイイ!!!」
「やったね!!カナタ。この子はもうカナタの事は襲わないと思う。次が来るよ頑張って!!」
「えっ嘘おおおおおおお!!さっきのでもう体力尽きてしまっ……」
2番手のプアアに突進されてそのまま吹き飛ばされてしまう。そしてこの世界の何度目かの気絶をしてしまった。目が覚めるとプアア小屋の地面の床は新しいものに変わっていた、ランカさんが僕が気絶をしている間に仕事を終えていたのだろう。僕が目が覚めた事に気が付くとランカさんは歯を見せて笑っている。
「2回目吹き飛ばされたときのカナタの顔、凄い顔してたよこんな風な!!次は勝てると良いね!あたいも手伝うからさ!」
「ランカさんは何で人族の僕にこんなに優しくしてくれるのですか?弟に似ているから?」
「まぁ弟に似ているのもあるけど何かほっとけないんだよね!なんでだろうな……」
「僕も感謝してますよこんな所に入れられて落ち込んでいましたから。それにここに来るまで魔族の人は全員悪者だって言われていたので勘違いしていました」
「人族も魔族も良い奴だって悪い奴だっているってあたいの死んだお祖母さんが言ってたからね。あたいのお祖母さんはさ、黒の巫女に助けられたって言ってた感謝してもしきれないって。それにあたいがここに来たのも同族に売られたわけだしさ、それを唆した商人もあのクソ狐の商団だし何か言ってて腹が立ってきた!!」
人族も魔族にもいい人はいる。だったら魔王はどうなんだろう?この世界に来て知らない事がまだまだ多すぎる。言葉が通じて感情を共有し合える魔族と僕は戦うことが出来るのか?エルクさんが言っていた魔族が敵なのは歴史が証明していると言っていた。まだ会ったことがある魔族はランカさんだけなのだが、もしランカさんのような考えを持つ魔族が大勢いるのなら、処刑されてしまったメアリーさんのように手を取り合う未来を僕も見てしまうかもしれない。
それから仕事の度にプアアと戦い続けた、そしてついにこのホイロス城砦のプアア小屋のボスが目の前に現れた。立ち姿と言い面構えと言いこれまでに戦ってきたプアアとは全く違うように思える。剣を構える手のひらに汗が滲む。1番最初に出て来たプアアの3倍くらいの巨体だが突進の速さは同じかそれ以上に思える。
「ブルゥウウウウウウウウウ!!!」
「何とか避けられたけど攻撃する隙が無い……」
ボスプアアは横に大きいのもあって左右に避けるにもいつもより大きく動かなくてはいけないので、攻撃するにはプアアが突進する直前に直感で左右どちらかに避けないと攻撃できなさそうだ。だが間違えてしまったらあの巨体が真正面からぶつかる事になる、そうなればいくら牙のないプアアでも大怪我は避けられない。左右が無理ならばそこしかないだろう。
「ブヒィイイイイイイイアアアアアアア!!!!」
「カナタ!!何しているの?早く避けないと!!」
プアアの突進が僕の眼前まで迫って来るのに避けるそぶりが無かったので、ランカさんは慌てて僕とプアアの前に割り込もうとするが間に合わないだろう。プアアも自身の攻撃の衝撃に備えて顎を引いた、その瞬間に僕はジャンプし2本の短剣で背中を切り付けた。自身の突進の威力もありプアアに浅くない傷をつけることが出来たが倒すまで至らなかったようだ。再び相対するがプアアから急に殺気が消える。さらにプアアは座り込み腹を見せてくる。
「やったねカナタ!!冷や冷やしたけれどボスにも認められたみたいよ!!」
「……………………」
僕自身も体力が尽きて倒れこんでしまう。心配そうに歴代戦ったプアア達が寄って来て。頬や体をべろべろ舐めて来た。一瞬食べに来たのかと思ったが違うようだボスのプアアも寄ってきてくれて互いの健闘を称えるかのように僕の顔面を大きな舌でひと舐めした。初めてかわいく思えたプアア達とひとしきりに戯れた後に仕事を終わらせ、自分たちの部屋に返ろうとするがホイロス城砦が騒がしい。騎士団の方に何があったのか聞いてみる。
「ホイロス城砦の近くにダンジョンが現れたんだよ!!これは忙しくなるぜ!!今日はパラミデス様から雑用でもお祝いの物か報奨金か分からないけど出るみたいだぜ!!」
ダンジョンはお金になる。ダンジョンから出たアイテムや魔石はこの土地を治める貴族に何割か貰えるのだそうだ。そのためホイロス城砦がこんなにも騒がしくなっていた。今の僕には関係ないが、お祝いかお金を貰えると良いな。黒剣は牢獄に入れられたタイミングで恐らく没収されてしまったので、ランカさんと同じような短剣を2本買うのも良いかも知れない。ランカさんと僕の部屋で待機していると先程の騎士団員の方が現れた。
「報奨金ではないが中々お目に掛かれない物が食べられるぜ!!ホイロス城砦で一番育っていたパラミデス様の一番の大好物を振舞ってくれるそうだ!!」
目の前には分厚いステーキが二枚並べられていた。ランカさんに視線を向けると少し悲しい顔で横に首を振るが食欲には勝てなかったのだろうステーキが乗せられた皿を一つ取り目を輝かせて食べている。僕ももう一つの皿に視線を落として噛みしめながら食べていく。
「泣くほど旨いんだな!!新入り!!パラミデス様も喜んでいるよ!!」
この世界に来て初めて食べた肉のステーキだった…塩味が効いて残念ながらめちゃくちゃ美味しかった……
チム子です。
初めての作品なので誤字やら脱字やらあると思いますので申し訳ありません。
少しでも心に何か残せたら嬉しいかな。。。




