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無職でも英雄や勇者になれますか?  作者: チム子


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37 階層主ダヴラス・ホーンの最期



ダヴラス・ホーンは凶悪な笑みをしながら飛翔斬を放ってくる、作戦を遂行させるにはヤツを激怒させて僕を追いかけて貰わないといけない。罠の場所に誘い込むにはこの攻撃を止めなければ、だが奴は新しく手に入れたこの飛翔斬と言う玩具をかなり気に入っているようだ。


あの場所から動かずに飛翔斬を放ち続けられれば、作戦どころではない。飛翔斬を放っているのは4本腕の中の剣を持っている右上の腕だけだ、あれさえ何とかすれば活路は見える。カタカタ振るえる手足を気合と根性でねじ伏せて突貫する。



「うわぁああああああああああああ!!!」


悲鳴に似た叫びを上げながら、飛翔斬の嵐を搔い潜って肉薄する。ダヴラス・ホーンも先程覚えた技のせいか精度はあまり良くなかった。何よりもダンジョンのモンスターたちは基本的に人間を舐め切っている、それが功を奏したようだ。近距離の間合いなのにあくまで飛翔斬を放とうとし、カウンターでゴブリンの小刀を右上の腕に突き刺し腱をねじり切った。



「ブルルルルルアアアアアアアアア!!!!」


痛みのあまりか咆哮する。腱を断ち切られた腕がだらんと下がり掴んでいた剣も地面に落とす。怯んでいるうちに早く逃げなければいけない。残りの3本の腕に捕まる前に、ダヴラス・ホーンは二度目の咆哮をした。痛みのための咆哮ではなく僕の動きを止めるための咆哮だった。


「グルルアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


「ま…まずい身体が動かな…い……」


ダヴラス・ホーンは両刃の斧を天高く掲げている、鼻息を荒くし目の前の僕を両断するために振り下ろした余りの恐怖に目を瞑ると体全体に衝撃が走った、凄まじい勢いの水流で吹き飛ばされたようだった。天清さんにまた助けられたようだ、体が水で濡れているがダメージは少ない。


「大丈夫?!!カナタ!!うんと威力を下げたけどこのままじゃ危ないって思って!!早く逃げて!!」


「ありがとう天清さん助かったよ!!」


ダヴラス・ホーンは空を切った両刃斧を見つめ完全に我を失う、瞳の色が深紅に染まった。僕に向かってくると思い身構えるが、敵視はご馳走を奪った天清さんの方へ向かっていた。両刃斧を再び天に掲げる天清さんとの距離はかなり開いている当たるはずはないと思うが冷汗が止まらない。


まさか両刃斧でも飛翔斬を放てるのか?剣であの威力なのだとしたら両刃斧だと凄まじい威力になるのでは……止めなければ天清さんが殺されてしまう。ゴブリンのナイフも尽きてしまった。あとはこの黒剣しかない。怒りのあまり存在を忘れている今なら一太刀入れられるかもしれない。



「グルオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


「何こっち見てんのよヤバくない?!『アイス・ウォール』!!『アイス・ウォーール』!!『アイス・ウォーーール』!!!」


「うおおおおおおおおおおお!!間に合えええええええええええええ!!!」


ダヴラス・ホーンの両刃斧を振り下ろし伸びきった腕の中でも一番細い部分の手首に向かって、全力で黒剣を振り下ろす。断ち切られ両刃斧諸共吹き飛んでいく。間に合わなかった……振り下ろす前に攻撃しないといけなかったのに。飛翔斬の何十倍いや何百倍かの威力に曝された『アイス・ウォール』は3枚共に断ち切られていた頭が真っ白になる。目が熱いノイズが次第に大きくなり声も明瞭に聞こえてくる「俺の名前を言え俺の名は……



「あっぶなーい!!マジムカつく!!服も汚れたし、攻撃を逸らしてくれたおかげで助かったよ!!カナタありがとー」


本当に良かった。技を防ぐことは出来なかったが逸らすことには成功していたようだ。ダヴラス・ホーンは真紅の双眸をこちらに向けている。残りの武器を捨て、折れて片方になってしまった己自身の角で仕留めようと腰を低くし四本の足で駆ける、尋常じゃないスピードで向かってくる。僕の背には階層主の部屋の壁がありこれ以上後ろに下がることはできない。だがこれでいい、この場所がダヴラス・ホーンの死地だ。



「ブモォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


片方の角は折れているので、この攻撃を躱すには折れてしまっている角の方に避ければいい。奴も頭に血が上って僕にその角で穿つことしか頭にないはずだ。あとはこの作戦が上手く行く事を願うしかない。この後にもしダヴラス・ホーンが生き残ることが出来たら僕にはもう手立てはない。


凄まじい勢いのまま突っ込んでくるダヴラス・ホーンを避け壁に角が突き刺さる。僕はダヴラス・ホーンの懐に潜り込み無防備な腹に黒剣を突き立てるが致命傷には至らない。真紅の瞳のままだが口元ははっきりと弧を描いた、僕の力だけではやはり届かなかったようだ。空気を出来るだけ肺に送り込み叫ぶ。



「アイリーー!!!!!今だああああああああああああ!!!」


「お願い四葉君を助けて!!!『グラビティ・アトモスフィア』!!」


僕とダヴラス・ホーンは黒川さんの幾何学的な文字が描かれている黒い球体に包み込まれる。この球体の中では重力が倍増する、腹に突き立てた剣も僕に覆いかぶさるように倒れて来るダヴラス・ホーンの自重で深く突き刺さっていく。さらに予め黒川さんの『エオーリシ』の魔法で浮かせていたモンスターからドロップしていた武器も雨のように降らし背中に無数のナイフや剣が突き刺さる。流石のダヴラス・ホーンも上下からの攻撃に耐えきれないのか、断末魔を上げて力を失い項垂れた。



「ラブリちゃんもういいよこのままだと相棒まで煎餅みたいにぺしゃんこになっちまう」


「分かった解除するね。四葉くん!!大丈夫?!」


ダヴラス・ホーンの覆いかぶさる身体から這いずるようにして抜け出す。目の前には涙ぐむ黒川さんと心配そうにしている天清さん、強敵に勝てたのを全身で喜んでいる涼宮。何度も死んだと思ったが勝てることが出来て良かった。あの3バカ勇者には思う事は多々あるが助けられてよかった。みんなの所へ向かおう体力の全てを使ってしまったのか足がもつれてしまう。数歩歩いたところで全身に悪寒が駆け回る。



「ギュオオオ大オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


世界が制止するダヴラス・ホーンはまだ倒されてはいなかった。振り返るとボロボロのダヴラス・ホーンが拳を振り上げている。その赤黒い双眸には死んでしまう前にお前も道連れにしてやるとの固い決意が見て取れた。耳鳴りがするみんなの声が遠くに聞こえる。


天清さんは魔法陣を展開しているが恐らく間に合わないだろう、涼宮もかなりのダメージがあるのに飛翔斬をするが今の体力では届かない。こうなるんだったら黒川さんに告白をすればよかった……ダヴラス・ホーンの拳が眼前まで迫ってくる。



「『フォス・ブレード』!!!四葉君!!大丈夫かい?」


あの時のデジャヴなのか光の剣でダヴラス・ホーンの身体が両断される。また狛井君に助けられた。僕が女子なら恋に落ちまくっていただろうに…だが僕は男だキラキラした横顔に感謝の気持ちは勿論ありまくるが何故だか一抹の嫉妬心がある、沈まれい僕の悪しき心。


千切れた身体が光の粒子になってダンジョンに吸収されていく。崩れ落ちる僕の身体を狛井君が抱きかかえてくれる。クラスメイトの女子たちに見られると嫉妬やら妬みの感情で裏で何を言われるかわからない。何とか自身の力で立ち上がろうとするが両足に力が入らない「大丈夫だから」と耳元でささやかれお姫様抱っこされる。



「こ…狛井君……ありがとう………」


「助けるの遅くなってごめん、入口の仕掛けを壊すのに時間が掛って」


申し訳なさそうにしているが、天清さんの強力な魔法でもビクともしなかったあのバリアを破ったなんて大体ゲームとかだとあのタイミングで作動するバリアなんて破壊不可なんじゃないかと思うのだが。流石は白の勇者という事なんだろう。



「お~い相棒!!!かなり素敵な状況で羨まし~いカスミン俺も抱っこして!!」


「……あれ?何で……私……狛井君に……嫉妬してる………」


「カナタ!大丈夫じゃないよね?『ウォータ・ヒール』効き目が弱いから応急処置くらいしかならないけれどポーションも飲んで」


「他の皆は?こんな状態だと階層主の攻略どころじゃないと思うけど」


「騎士団のシキさんって方がダンジョンの異常事態を知らせてくれたから他の皆は避難済みだよ。階層主が脱出不可のバリアを張るなんて前代未聞だからね。」


「カスミンは何でこのダンジョンに?もうこの階層主は攻略しちゃったんだろう?まぁめちゃくちゃ助かったけどよ!!ありがとな!!」


「僕は話せば長くなるんだが聖女様と共に行動することになってね。その聖女様のレベル上げと連携の確認のためにこのダンジョンに来ていたんだ。そこでシキさんがこの状況を伝えてくれたので慌てて来たと言う訳さ」


何はともあれその聖女様のおかげで僕たちは助かったと言う訳だな。この世界の女神さまには会ったことは無いのだが感謝しないと、狛井君が来てくれなければ少なくとも僕はやられていただろう。入口の方から鎧の擦れる音が聞こえる結構な人数だ僕達を助けに来てくれたのだろうか。



「おや?騎士団の方々が来てくれたようだよ。あれは第6騎士団のリオンさんかな?」


「カスミン知り合いなの?なんかマサヨシがいじめられたって言ってたけど」


「まぁ…そうだね。会うたびに騎士団に強く勧誘されたけど断っているんだ、出来れば会いたくなかったけれど…」


「これはこれは狛井殿!!騎士団の入隊の話を前向きに考えてくれましたか?」


「前にも言ったのですが僕はどこにも属すつもりはありません。聖女の件も皆の為だからと言われたからであって、これ以上は受け入れるつもりはありません」


「まぁ今回は諦めましょう……このために遥々私たちが来たわけじゃありませんから。君は誰だっけ?…あぁそうそう四葉奏多《よつばかなた》殿だね。君を国家反逆罪で逮捕する」


僕が国家反逆罪で逮捕されるの?あれだけの死闘を繰り広げた後にこの仕打ちは無いでしょう。物理的なダメージに加えて精神的なダメージも加わり、今度こそ僕はこの世界から意識を手放した。



チム子です。

初めてのダンジョン攻略編はこれにて終了です!!

次回からまた新しい話が始まるのでもしかしたら更新が毎日から少し遅くなるかもしれません。。。


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