36 階層主の本気
ダウラス・ホーンの殺意に満ちた双眸で緑谷を射止める。怯えて震えているそのあまりにも小さな存在に気が付くと、凶悪な笑みを浮かびながら突進してくる。小さな悲鳴を上げ逃げようとするが、脅威は眼前に迫っている。先程の攻撃で魔力が尽きた緑谷は腰に携えていた剣を抜き振り回す。ゴブリンなどであれば振り回すだけでも怯んで近づかない事もあるかもしれないが、目の前にいるのは階層主だ構わず緑谷に向かって突進してきた。
「ひっひぃ~ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさぁあああああああああ」
ぶんぶん振り回していた最後の頼みの綱が緑谷の手からすっぽ抜ける、勢いよくダウラス・ホーンの元へ向かう流石の階層主でもこの攻撃は予測付かなかったのだろう。ここにきて初めて防御姿勢をとった。その刃を己の腕で受け止めると切り口から薄く血が滴る。
「グォォオオオオオオオオオオオオ!!」
ダヴラス・ホーンは初めて自身が傷つけられ怒り狂った、地団駄を踏み我を忘れている。緑谷は必死に地団駄に巻き込まれないように逃げ回っているがこれも時間の問題であろう。我に返ったら確実に緑谷は始末されてしまうだろう。
あれだけの魔法でも無傷だったダヴラス・ホーンが、あのお粗末にも程がある緑谷の攻撃で傷付けることが出来た…もしかすると魔力を使わない攻撃ならダメージを与えられるかもしれない。緑谷には悪いがこの我を忘れている時間で皆に作戦を伝える。
「分かったぜ相棒!!あいつらは気に食わないけど、一応クラスメイトだしな!寛大な心で救ってやるか!!」
「まずは陽動だ、涼宮の飛翔斬であいつの意識をこちらに向けよう。その隙にシキさんは緑谷と炭崎の回収をお願いします。」
「分かりました」
「私たちはどうしたらいい?」
「天清さんは僕たちのどちらかがやられそうになったら魔法で援護して、奴には効かなくても目眩ましにはなると思う」
「おっけーあんた達も無理しないでよ」
「あのバカ共を回収してさっさと逃げるのが最善だけど、逃げられない状況になったら黒川さんの力を頼るからその時はお願いするよ」
「……死なないでね四葉君………」
作戦を伝えてから僕達は配置に着く、本当は黒川さんや天清さんは階層主の部屋の外に待機してもらうのが良いのだけれど、外からではダヴラス・ホーンに魔法での干渉は出来ないようなので出来るだけ出口に近い所で待機してもらう。何か異常事態が起これば階層主の部屋から出れば奴も追っては来れない。
「飛翔斬!!!!もういっちょおらぁあああ!!」
飛翔斬を後頭部に2発受けたダヴラス・ホーンは我に返り。放った涼宮の方向に視線を向ける。涼宮はその挑発はモンスターに効くのか分からないが中指を立てて煽り散らしている。この煽りにダヴラス・ホーンは額に青筋を立てて咆哮した、階層主の部屋全体が震えたような錯覚を起こすほど激しい。
涼宮の煽りがかなり効いたようだ。八つ当たりをするかのように近くにいた震えている緑谷を丸太のように太い腕で吹き飛ばした。かなりのダメージがあったようで生きてはいるようだが力なく項垂れている。回収するときにパニック状態で暴れだしたりしないので好都合だろう。
「牛ちゃ~ん俺の飛翔斬効いちゃっているのぉ~だったらもういっちょ飛翔斬!!」
「ブヒィィイイイイイイイ」
「牛ちゃんかと思ったら豚さんになっちゃったかぁオマケの飛翔斬!!!!」
相手の攻撃に逃げながら器用に攻撃をしていく。涼宮の攻撃はやはり火力は弱いのだが仮説の通り、魔力の通さない攻撃にはダメージがあるようでかなり嫌がっている。しかし倒しきるほどのダメージはなさそうだし、階層主なだけあって両刃斧を使って飛翔斬を器用に受け流ししたり学習も早い。
「あ、相棒おおううう助けてくれ!!体力が尽きそう!!ぎゃあああああ追いつかれる!!!」
「分かった!今代わるよ、シキさん緑谷と炭崎はどうなっている?」
「緑谷殿は回収できたが、炭崎殿が重すぎてもう少し時間が掛りそうです」
ダヴラス・ホーンの背後からゴブリンからドロップしたナイフを投擲する。何本か背中に刺さるとダヴラス・ホーンが初めて苦悶の声を上げたやはり普通の武器ならダメージが通る。完全に敵視が僕に移った。鬱陶しそうに刺さったナイフを抜き今度は僕に向かって突進をしてくる。
「ブモォォォオオオ!!!」
両刃斧を投げ捨て体を低くして自身の最大の武器の大角で攻撃しようと突進する。想定外の攻撃で慌てて逃げるが武器を捨てたことによりスピードが上がり追いつかれる。寸前の所でダヴラス・ホーンの足元に青色の魔法陣が広がった。
「お願い間に合って!!『アイシクル・バインド』!」
ダヴラス・ホーンの片足が氷に捕らわれ地面に縫い留められる。猛スピードで突進していたのでバランスを崩し地面に頭から激突する。魔力は通っていても妨害魔法なら効くのか。危なかったあのまま突っ込まれていたら、あの大きな角で貫かれていたかもしれない。その自慢の大角も地面に激突した拍子に片方が折れてしまっている。
「グルルルルブモォォォオオオアアアアアアアア」
「相棒よヤバくないかアイツの身体赤くなってるぞ…」
「四葉殿!!!!涼宮殿おおおお!勇者さまの回収完了しましたぞ!!!早く脱出を!!」
ダヴラス・ホーンの様子もおかしいし早く脱出をした方が良さそうだ。黒川さんと天清さんに早く出るように指示をする。この階層主の部屋から出さえすれば攻撃されることは無いのだが出口付近で何か戸惑っているようだ。
「四葉君だめ…何かに遮られて出ていけない」
「アイリ少し離れてて『アイシクル・ランス』!!だめ攻撃しても弾かれてまう」
「マジかよ!どうすんのよ相棒!!外にいるシキさんも入って来れないみたいだぜ」
「黒川さん!!ダメだった時の作戦でいこう、準備している間は僕達で時間を稼ぐ!!」
「作戦って何?俺っち何も聞いてないけど!!!」
「とにかく散開して危なくなったらお互い助けるってことで」
ダヴラス・ホーンは再び雄たけびを上げると背中から2本の腕が生えて来る。地面を踏みしめると両刃斧に加えて違う種類の武器が生えてきた。脳内の危険信号が鳴りやまない。死が迫ってくると聞こえて来る謎のノイズ交じりの声「俺…の…名前…………言え……」危険な戦いのたびに聞こえてきて、徐々に明瞭になってきている。だが今はそれどころではない、目の前の化け物を何とかしなければ僕だけじゃなく黒川さんや皆の命が危ない。
「真正面に立ったら危険だ!あの4本腕の餌食になるぞ、左右に分かれて攻撃をするんだ!!」
「おっけい相棒!!危なくなったらアマちん助けてね!!」
「どうしようかな……でもあんたが居なくなったらクルミが悲しむから助けてあげる」
ダヴラス・ホーンは器用に涼宮から飛翔斬と僕のゴブリンナイフを4本の腕で防いでいる。このまま時間を稼ぐことが出来ればいいのだが、先に僕のナイフが尽きてしまいそうだ。ダヴラス・ホーンも学習したのか防戦一方だったが、片側で攻撃を防ぎつつ距離を詰めて攻撃をしてくるようになった。当たれば無職の僕や涼宮は一撃でやられてしまう。
「相棒~俺っちの方ばかりに牛野郎来てない?!このままじゃあ俺っち体力の方が先にっておおおおおおおお!!あの野郎ぉお!!俺っちの技まで真似してくるようになったぞ!!ひぃ~~助けてぇえ!!」
「飛翔斬までつかって来るなんて、うわぁああああ!!こっちにまでやって来た涼宮あ!!もうちょっと頑張ってくれよ!!飛翔斬も使ってくるなんて卑怯だろ~ひぃ助けて!!!天清さ~ん」
「あんた達!!情けない声ださないでよ!!すぐに助けるから!作戦の準備が出来たから、あとは頑張んなさいよカナタ!!『アイシクル・ウォール』!!」
ようやく準備が整ったようだ、天清さんの新たな魔法によって涼宮とダヴラス・ホーンの間に氷の壁が築かれる。奴の目の前には僕しかいない。ダヴラス・ホーンは邪魔者が一人いなくなって嬉しいようだ、凶悪な笑みを浮かべて鼻息も荒くなっている。最悪の状況だがヤツを倒すしか僕たちに生き残るすべはない。涼宮の奮闘のおかげで僕の体力も余っている、この作戦に全てをかける。
チム子です。
初めての作品なので誤字やら脱字やらあると思いますので申し訳ありません。
少しでも心に何か残せたら嬉しいかな。。。




