26 新しい同居人たち
気になっていた水球は、青魔法のスキル『アクア・ヒール』というものらしく、水で覆ったところが回復するという回復系魔法みたいだ。ガライさんは全体的に負傷していたし、おっさんを担いでいくのも嫌だったので、魔法の水球で全身を取り込んでここまで連れてきたようだ。
鎖に縛られたマサヨシは身動きが取れないまま、意識を取り戻し吹っ飛ばされる前より元気になったガライさんに担がれてクイナさんと共に訓練場から去っていった。マサヨシは捨てられた子犬のような目をしていたが誰一人同情するものは居なかった。
「櫛枝さんもまだ目を覚まさないし、このまま僕たちの宿舎で休ませようか」
「そうだな!!俺っち心配だけど、クイナ先輩は怪我もないし魔力が切れただけだから、すぐ目を覚ますって言ってたからな、暗くなってきたし寮に戻ってとにかくクルミちゃんを休ませようぜ」
「私たちも付いていくよ。あんた達クルミに何するかわかったもんじゃないからねアイリも行くよね?」
「私も付いてく……絶対に!!絶対に!!!」
天清さんはともかく黒川さんまで語気を強くなるなんて……信用がなさすぎるのは悲しすぎるのだが……
確かに男三人の住処に幼気な女子を一人連れて行くのは問題あるのはその通りなので特に反論もせずに騎士団宿舎に歩みを進める、涼宮は櫛枝さんを背負い騎士団寮に着くと空いてある部屋のベットに寝かせた。
「建物は結構古い感じだけどわりとキレイにしてんじゃん、騎士団寮って聞いていたからもっと汚いのかと思っていたわ」
「俺っちと相棒が頑張ったのよ!昨日はもうこの辺りはそれはそれは悲惨な状態で…」
涼宮はすぐに飽きて休んでいたから、殆ど僕とシキさんで掃除をしていたんだけど…まあ少しは手伝ってくれていたから目を瞑るとして、みんなの事紹介したいけど、シキさんは帰ってきていないようだ、いつもなら既に帰ってきているはずなんだけれど。
「だいたいカナタが掃除したんでしょ、あんたが掃除してるところなんて想像つかないし」
「ぎくっ…何故それを?!もしかしてアマちんって心読める人?」
何故だか黒川さんが誇らしげにしているのは謎なのだが、机に何かの書置きがあるのが視界に入った。皆に断りを入れてから読んでみると、やはりシキさんからだった。
この世界にきて相変わらず不思議なのだが見たことのない文字なのに意味が分かる、読んでみると王命で勇者パーティーに加わることになったのでしばらく家に帰れないとのことが書かれてあった。
「シキさん暫らく家に帰れないのか…残念だな皆に紹介したかったのに」
「勇者パーティーね…わたし初日から訓練抜け出していたから何も聞いてない。アイリは何か聞いている?」
「私も知らないよ。黒の魔法の訓練に第5騎士団にずっと居たから何も聞いてないよ」
二人が聞いていないってことは他の勇者のパーティーに加わるってことなのかな?狛井くんや性格はあれだが廣瀬はともかく、他の勇者に選ばれた奴のパーティーに入るってなると少し心配だな。
「今日は遅いしクルミも休ませたいしこの寮に泊まっていくわ、明日はあんた達も休みでしょ、城下町を案内してあげる。だいぶ道とか覚えてきたしお店とか案内できるよ」
「私も明日は予定無いし今日はここで止まろうかしら櫛枝さんの事心配だし…それに…」
ちらっと僕の方を見たのは気のせいなのだろうか?気のせいに違いない!!勘違いしてはいけない…冷静になれ僕の脳の灰色細胞…気になる子とお泊り会イベントが発生して、ちょっと目が合ったからって僕の事好きなのかもと勘違いしてはいけない!!修学旅行とかの初日の朝に告白して玉砕し後の時間が地獄と化した先達を何人も見てきたではないか!!!沈まれ僕のパトスぅ…
「明日のために今日は早く休もう、部屋は空いてあるところを使っていいと思うよ」
「ラブリちゃん…愛しのカナカナの左隣の部屋が空いていますぜ!ちなみに俺っちは右隣ねそこはラブリちゃんに上目遣いで頼まれたとしても譲れない!!譲ってたまるものか!!欲しければ俺っちの屍を超えていけ!」
「えっ何言って……でも……隣か…………」
涼宮の小学生から変わらないノリに黒川さんは顔を赤くして頭から蒸気が出ている。眼鏡も熱で曇っているようだ。つられて僕も顔を赤くなりそうになる3人幼馴染で互いの家でお泊り会をしたこともあったけど、この年になると何か気恥ずかしくなるな。
「何馬鹿言ってんのよ、アイリもいちいち反応していたらあのバカに遊ばれるだけだから無視しなさい」
「アマちん辛辣……俺っち泣いちゃうかもよ!!」
「涼宮…これ以上馬鹿なことを言うと晩御飯抜きにするぞ…」
「相棒それだけは勘弁してくれい!!今日は色々あったからいつも以上にお腹空いてんのよ」
本気で泣きべそをかいていたので許すことにした。今日は涼宮も頑張っていたしな、夕飯を作るとしよう。食材も残り少なくなっていたが明日城下町に行ったら買い足そう。天清さんと黒川さんが手伝うと言ってくれたが、黒川さんはともかく天清さんに台所に立たせるわけにはいかない。
部活の打ち上げを行った時にとんでもないダークマターを生成して振舞ってくれたことがある。本人的にはちょっと失敗しちゃったとの事だった。マサヨシは一口食べたら寝てしまったので、ほとんど僕がありがたく食べた。なので黒川さんには天清さんと櫛枝さんのいつ目が覚めてもいいように看病するように強くお願いした。
「よしそろそろ出来るかな、涼宮は皆を呼んできてくれるか?」
「よっしゃー皆を呼んでくる俺っちのは超特盛でお願い!!」
涼宮が皆を呼びに行くと櫛枝さんも目を覚ましていたようでみんなと一緒に降りてきた。スキルを唱えた後の記憶は曖昧になっているようなので何が起きたかを説明した。
「四葉君、あまり覚えてないけど酷いことしようとしたのは覚えている。なんか四葉君の事が許せなくなって…ごめんなさい」
「大丈夫だよ櫛枝さん。いざとなったら涼宮を盾にして逃げるから気にしないで」
「そりゃないって相棒!!むしろ今以上に気にしろ!!でもクルミちゃんの攻撃なら全部受け止めてやらあ!!!」
「馬鹿言ってないで、夕飯にしましょうせっかく作ってくれたのに冷めちゃうでしょ」
今日の献立は異世界の食材を使ったシチューにした。異世界の食材って言っても名前は違うがほとんどは僕たちのいた世界のものと同じようなので、多分うまくできていると思う。この世界のパンは長期保存するためなのかすごく固めなので一緒に食べると多少はましになるだろう。
「いただきます。美味しいじゃんやるねカナタ!」
「うん、久しぶりに四葉君の料理食べたけどやっぱり美味しいわ」
「アマちんとラブリちゃんの胃袋を掴んだようですぜ旦那ぁ!」
「本当にすご~く美味しいよ四葉君」
料理の評判を聞いて安心した。黒川さんも昔に料理を振舞ったことを覚えていてくれたようで何だか気恥ずかしい。皆のお腹も膨れたようなので明日の予定の確認でもしようかな。この世界にきてまだ日が浅いが戦闘やら訓練やらで制服もボロボロになってきているしクイナさんからもらったお金で装備を整えよう。
「いやぁ本当に美味しかったよ、ごちそうさまカナタ!!今度は私が料理を作ってあげるね!」
「ま……まぁすご~くすご~く気長に待つよ」
「居心地良いし部屋が余っているならここにずっと居ようかな…何かさ城の人って怖いんだよね。魔族が居るのは分かるんだけどピリピリして余裕がない感じ。それに他のクラスメイトもいい職業に選ばれた奴が何か偉くなったと勘違いして気持ち悪いし。特に3クズ勇者」
「俺っちは大歓迎だけど、アマちんが言う3バカって雪待と緑谷に炭崎か?」
「そうだよ。私が言えたことじゃないけど、もともと性格終わっているのに勇者だからって、この国の人が何でも言うこと聞いちゃうから、更に磨きかかって手に負えない感じになっていたよ。その中でも緑谷の変わりようって言ったら……ダンジョンに向かうなら嫌でも3クズに会うから見てみて」
あの雪待が更にパワーアップしたのかと想像するだけで気が滅入りそうになるのだが、いずれ会うから覚悟だけしておこう。それにしてもいよいよダンジョンか、飛翔斬は獲得できなかったけれどレベルが上がれば何かが変わるかもしれない。そのためには明日準備をしなくちゃいけない。
「私からも良いですか……」
「………………」
黒川さんが何かを言いたげにこちらを見ている。その後ろで櫛枝さんも無言の圧力を放っている。何かこの会話で気に障ることがあったのだろうか。この2人は絶対に敵に回したくない人たちだから特に黒川さんは精神的にそして櫛枝さんは物理的に額から嫌な汗が頬に伝う。
「私もこの寮に住んでもいいですか?」
「私も……」
「なんで?城の方が設備は良いと思うんだけど……勇者なら尚更…」
「女性が1人だけここにいるのは良くないからです!!何かあったら大変だから絶対にここに住みます!!」
櫛枝さんのときといい黒川さんの僕への信頼度が低すぎて悲しくなってくる。櫛枝さんんも後ろの方で「そうだそうだ」と言っている気がする。2人の猛攻で心が折れたので天清さんを含めて3人入寮する事を事後報告にはなるのだがシキさんに伝えよう。今日の所は早く布団に入ってふて寝をすることにしよう。
チム子です。
初めての作品なので誤字やら脱字やらあると思いますので申し訳ありません。
少しでも心に何か残せたら嬉しいかな。。。




