2 黒歴史
過去の記憶…皆もそうだったと思うけれど小さい頃は自分の可能性は無限にあって何でもなれるって信じていた。僕の場合はちょっと変な方向に突き進んでいた。きっかけはもう忘れてしまったけれど、多分アニメか漫画の影響だと思う。そのせいで小さい頃は勇者や英雄になりたいと本気で思っていた。
そういえばその時にオリジナルの勇者やヒーローの技とか考えていたり秘密の特訓と称して山とか川で謎の訓練をしたりしていた。今やれって言われても絶対に恥ずかしくて出来ない、でもあの頃が一番世界が輝いて見えていたと思う。今の僕には世界はそんなに輝いて見えてなかった。
本気で勇者になりたかった、だから小さな頃の僕は行動した、困ってる人が居たら声を掛けて助けたり。率先して手伝いをしたり、そう言った小さな善行をしていれば本当に勇者になれると思っていた、かなり痛い子供だった。
だけどあの頃は何もかもがキラキラしていて、夢や希望そして自分の可能性を信じていた。早すぎるが間違いなく人生の最高潮だった。勇者や英雄に僕はなりたかった。弱い者を助けて強大な悪を倒すたとえそれが自らの命と引き換えだとしても。だからこそ僕は強く憧れたそして自分もたとえ強大な悪が目の前に現れたとしても逃げずに戦うと小さな頃の僕はそう決めていた。
ある日の小学校の帰り、約束をしていた訳では無かったのだが、黒川さんがいつもの待ち合わせ場所には
居なかった、小学生の頃は黒川さんと二人で帰る事が日課になっていた。この日も黒川さんに何か用事があったのだろうと思っていたが、少し待つことにした。
5分…10分、待ってみたけどくる気配はなかった。しびれを切らして帰ろうと思って上履きから履き替えているときょろきょろ辺りを見渡している涼宮檜人に声を掛けた。
「ミヤっち、ラブリちゃん見なかった?」
幼少期の僕はミナトが付けたこの渾名が気に入って黒川さんの事を恥ずかしげもなくこの渾名で呼んでいた。こちらに気が付くと花のように笑ってこちらに近づいて来た、この時の涼宮はクラスの中でも小さくて可愛かったんだけど今はと言えば……
「僕もカナちゃんを探してたんだ、ラブリちゃんにいつもの公園で待ってるって伝えてって言われたけど
なんか僕は今日は来ちゃダメだってひどいよね」
「何だろう先に行ってないで俺と一緒に公園に行けば良いのに…まぁ良いか分かった、ミヤっちありがとう。今度また一緒に秘密の特訓しようぜ」
「約束だよ絶対だからね本当に絶対だよ!!」
嬉しそうに笑う涼宮に手を振り僕は公園に向かった。
いつもの公園が見えて来た、何やら聞き覚えのある女の子の鳴き声が聞こえて来る。僕は何事かと思い、その声がする方へ駆けつけた。
「返してよ、何で意地悪するの」
黒川さんが中学生くらいの男の子に向かって泣きながら何やらお願いをしている。その姿を見て僕はその時に、生まれて初めて本気で激怒した。この時には黒川さんの事が好きだったんだろう。その思いを寄せている相手が訳の分からない男の子に泣かされている状況に我慢が出来なかった。
「アイリちゃんに何やってんだよ」
僕はは吼える、そこで初めてしっかりと相手の男の子の姿を見た。相手は僕よりもかなり身体が大きい。もしかしたら中学生の中でも大きい方だったかもしれない。
心の中では怖い、逃げたいと心臓の鼓動が警笛を鳴らしている。勇者だの英雄だの憧れてはいたが、ケンカをした事など勿論なかったので心臓どころか恐怖で手足が震えている。相手が不機嫌そうにこちらに向かってきた。
「何だよお前、こいつの友達かぁ良いもん持ってたからよぉ使ってやろうと思ってな」
そいつの手には銀色のリングに紐をとしてあるペンダントが握られていた。
怖い怖い怖い…体が震える。でも愛理ちゃんが泣いている、何とかして助けないといけない。カッコ悪い所を見せる訳にはいかない。それにこんな時勇者なら、英雄ならきっと逃げだしたりしない。
唾を飲み込み、震える体を気合で誤魔化し、お腹に力を入れる。今こそ修行や特訓の成果を見せる時だなんて当時の僕は思っていた。漫画やアニメならクライマックスのシーンでテーマソングか何か鳴り出すんだろうけど。客観的に見ればこの時の僕はただ震えるだけで虚勢を張るくらいしか出来ていない。
「俺は絶対にアイリちゃんを泣かせたお前許さない」
相手の目を見据えて僕は叫んだ腕をぶんぶん振り回し相手に近づいていく。この時の僕を褒めてあげたい。今の僕ならこんな奴が目の前に現れたら愛想笑いして何とかこの嵐が過ぎ去っていくのを待っていただろう。まぁこの時は捕らわれの姫っていうバフが掛っていたんだろうけど。
結果だけを言うともちろんボロ負けだった。完膚なきまでにやられた。拳を叩き込んでも大きな体にはビクともしなかったし、相手の攻撃は全弾クリティカルで心が折れるには時間は掛からなかった。好きな人の目の前で理不尽な暴力にやられてしまうその事実は僕の心に重くのしかかる。
こんな時勇者なら、英雄ならピンチを力に変えて倒すのだろうけど。どうしようもなく現実だった、逆境に立っても新たな力は覚醒しなかったし、別の勇者や英雄が現れることもなかった。
相手が飽きるまで理不尽な暴力が終わることがなかった。
ようやく飽きたころに頭を踏み付け声を荒げる。
「調子に乗るなよ、次調子に乗ったことしたら殺すからな分かったなぁ!!!」
返事の催促を強要される、僕は泣きながら、震えながら情けなく返事をした。
「はい…わかりました…ごめんなさい」
額を地面に擦り付け繰り返し謝り続ける、震えて固まっている彼女の存在なんて忘れていた。
ようやく解放されたし後も暫くはは動けずにいた。
上の方から温かな雨が降ってくる殴られて腫れている瞼をゆっくりと開けると黒川さんが
泣いていた。僕はその涙を拭おうと手を上げようとするがそんな気力は尽きていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
繰り返し彼女の口からでる謝罪の言葉、そんな言葉は聞きたくなかった。
本当なら悪い奴から救って感謝の言葉が聞きたかった。
「アイリちゃん…ごめ…」
僕も謝罪の言葉を言おうとしたが彼女に遮られる。
「大丈夫だからカナちゃん、ペンダントはまた買えばいいから、それよりも早く病院に行かないと」
相手に心配を掛けないように気丈に振る舞い、ケガをしている自分にどこが痛い?と声を掛けて
ケガの手当てをする彼女を見て情けなくて、悔しくて。消えてなくなりたかった。
ヒロインを救えなくて、救えなかったヒロインに気を使われる勇者っていないだろう。
ゆっくりと折れて行った心がここで完全に折れて粉々になってしまった。
涙が溢れてくる、情けなくて悔しくてこの日の記憶はここまでしか覚えていない。病院からどう帰ってきたのかも思い出せない。自宅で我に返った時には強く握りしめていた拳にはいつの間にかペンダントが入っていた。
チム子です。
初めての作品なので誤字やら脱字やらあると思いますので申し訳ありません。
少しでも心に何か残せたら嬉しいかな。。。




