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無職でも英雄や勇者になれますか?  作者: チム子


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18/65

18 無職と黄色



張り詰めた空気が一向に収まる気配は無かった。人々の悪意の持った視線が黒川さんに突き刺さる。「あの忌まわしい黒の…」「裏切りの…」「また人族に牙を…」エルクさんが言っていた裏切りの勇者。この世界の人々の敵意が増大し続ければ黒川さんに何かあるかも知れない。黒川さんは今まで受けた事が無いだろう敵意に足が震え後ろへ下がろうとするが逃げ場は無かった。



「あ、あのーー僕まだ采配の儀式終わってないんですけどーー!!まだやってますか!!」


自分史上最大の声量を出したが声が裏返ったりして格好が付かなかったけれど逆に良かったようだ。クスクス笑う声が聞こえて来る。殺伐とした空気を変えることに成功したのだがめちゃくちゃ恥ずかしい。



「君が最後の一人ですね。もしかしたら君が8人目の勇者なのかもしれませんな。あのモルドレイ様が見定め、己が所有する武器まで下賜された傑物。きっと人族にとって素晴らしい結果になるであろう」


武器を貰ったのは少し前で誰にも言っていない筈なのに何故か知っている。情報源の出所が怖い所だが人々はその神官の言葉で白の勇者誕生までいかないが熱気を取り戻していった。


水晶の目の前に立ち手をかざしてみる。近くで見てみると思ったより水晶が大きくて迫力に尻込みするが、憧れていた勇者や英雄にはなれるかもしれないと思い、心臓の鼓動が大きく跳ね上がってくるのが分かる。しかし水晶に何も反応がない。黒川さんとか狛井君がかざした時はわりとすぐに反応していた気がするが……とても嫌な予感がする、親友の笑顔が脳裏にチラつく。



「あれぇ……おかしいなぁ…はぁぁぁあああああああああああ!!」


手に力を入れてみても声を出しても水晶は何も反応しなかった。そういえば僕も涼宮も女神さまに会ってない。という事は異世界召喚あるあるの女神の加護やらなんやらが無いので自ずと導き出される答えは…



「これはこれは……まことに残念ながら賑やかな彼と同じく無職ですな……ですがステータスは高めですよ、まぁ新兵よりも少しといったところですが……むむぅ魔法防御はかなり高いようですな…後は……」


恰幅の良い神官様はお優しい、手をかざした時はキラキラした目で今は絶望に打ちひしがれている少年を前にめちゃくちゃ言葉を選んでフォローしてくれている。まだだ、まだあきらめるには早い。涼宮も謎スキルがあったんだ、僕にも希望の謎スキルがあるかも知れない。



「スキルはありますか?僕にも効果が分からない前代未聞なスキルが…」


「もう一人の無職の少年の事ですね確かに彼もステータスが高めでスキルがありましたね。私の力が及ばず効果も名も解らなかったのでので申し訳ないことをした。」


今度は大きいルーペのようなもので僕の頭の方を覗いてみる、ギョッとした表情をしたと思うと何やら悩んでいるような考え事をしているような…もしかして僕にも正体不明な謎スキルが…


「一つスキルが見つかりましたよ」


「どのようなスキルですか!!もしかしてもう一人の無職と同じく正体不明のスキルとか」


涼宮に自分が言った言葉だが正体不明ならもしかしたら勇者よりもすごいスキルの可能性があるかも知れない、雑魚スキルの可能性は今は考えないで置こうまだ希望はあるはず。



「むむぅ……スキル名は……解からない」


「って事は前代未聞の謎スキルですか?!」


「名は解らないが効果は見える、レア率上昇、経験値上昇、人族の全ステータス減少と見える……」


RPGのラストダンジョンと付近とかで落ちているラッキーアイテムみたいな効果だった。人々は喜んでいいのか落胆するのが良いのか分からない微妙な表情をしていた。その微妙な雰囲気のまま采配の儀式は終わりを告げた。



「いつまでそうしてるんだよ相棒」


采配の儀式が終わって1時間くらい体育座りをして落ち込んでいる。立場が入れ替わり今度は涼宮が声を掛けてくれているが、頭を撫でてくれる櫛枝さんのような存在が居ないのがより虚しさを増大させる。また一人、僕を心配してなのだろうか近づく足音が聞こえて来る。異世界に来て何かが変わると思っていたが何も変わらなかった。僕は涼宮と違いスキルの効果が判明しており、逆転の要素は無い。いつまでもこうしている訳にはいかないことは理解しているのだが体が動かない。


「だぁーはははははは!!!心友《しんゆう》よ落ち込むのではなーい!!それに好敵手《マブダチ》もここからは私に任せてくれ」


この声に心当たりがあり過ぎる。廣瀬菊次郎《ひろせきくじろう》黄の勇者に選ばれた今一番会いたくない煩すぎる奴が現れた。顔を上げると白い歯がキラキラしている一見優男に見えるが熱すぎる男がガシッと肩を掴んでくる。力の加減が出来ないのか、いつも物凄く痛い。顔を顰めるともう片方の肩もガシッと掴む。



「痛てぇよ廣瀬、何しに来たんだ」


「心友が落ち込んでいると聞いて居てもたっても居られなくて来たのだよ。カナタよ!この世界で命の危機が訪れようものなら私が助けに向かうぞ!!たとえ無職で誰とも必要とされない存在でもな!!」


「こら!おキクただでさえスキルの効果がラッキーアイテムで落ち込んでいるのにこれ以上相棒を追い詰めるんじゃない!!」


二人の言葉が心にダイレクトアタックしてくる、ライフはもう残り少ない。それに掴まれている両肩に力が入り物理的にもダメージが蓄積されている。



「ありがとよ…廣瀬、お前の気持ちは痛いほど伝わったよ…後半の言葉には涙が溢れそうになったが今は一人にしてくれないか、涼宮もすぐに立ち直るから心配するな」


「これだけは忘れてくれるな心友よ!!たとえ世界の全ての人が敵に回ろうとも廣瀬菊次郎!!私は何が何でも味方で居るぞ!!!だーはははははー」


僕の言葉に満足したのか一人でうんうんと頷き颯爽と去っていく、素直で良い奴なのだが歯に着せぬ物言いがたまにと言うか結構心に来る時がある。出会った時から心友呼びで最初は心の距離の詰め方に驚きはしたが、今となってはそれが廣瀬の長所という事が分かる。廣瀬が何かを思い出したかのように立ち止まり振り返った。



「そういえばこの国のえら~い人に聞いたのだが、スキルと職業は変化したり進化することがあるようだ。さらばだ心友よ!!」


「おい!!ちょっと待てその話を詳し……」


黄の勇者に選ばれたからなのだろうか、とんでもないスピードで走っていった。廣瀬はスキルや職業は変化や進化をするという気になる一言を残していった。



「聞いたかよ俺たち無職から何かに成れる可能性がまだあるってよ」


「そうだな他の職業になれば別のスキルを取得出来たりするかも知れないしな」


「そうと決まれば今日はゆっくり休んで明日は戦闘職に選ばれた者たちは訓練だそうだ!!」


休むって言ってもどこに行けばいいのだろうか、采配の儀式の結果にショックを受けすぎてクラスメイト達の動向が分からない、この城のどこかで部屋を割り振られているのだろうか?



「他の皆はどこに行ったんだ、もう城の中で明日に備えているのか?」


「生産職に選ばれた者たちは各職業の寮みたいな所で、勇者たちは城の一番いい部屋だそうだ。他の戦闘職のクラスメイトも城の空いてある部屋で休んでいるみたいだぜ」


「じゃあ俺たちは一応ステータス的には戦闘職なのかな?他の戦闘職と同じ部屋とは行かないんだろうがこの城なら最低な部屋でもそれなりに期待できるか?」


「相棒よ……俺たちだけは違うんだ…とりあえず付いて来てくれ…」


涼宮の案内に従い付いていくと采配の儀式の前に見かけた騎士団の訓練場が目に入った。日も落ちてきたからか、先程魔法や剣戟を放っていた兵士たちはいなくなっていた。もし居ればスキルや職業の事聞きたかったのだが仕方がない。しかし城から結構距離があるここまで来るとは思わなかったな。



「よし着いたぞここが俺たちのこの世界のマイスイートホームだ」


案内された場所に愕然とした、訓練場の端に建てられているその家は一見廃墟にしか見えないのだが本当にここで会っているのだろうかと涼宮の方を見ると満面の笑みだが目には光がなかった。



チム子です。

初めての作品なので誤字やら脱字やらあると思いますので申し訳ありません。

少しでも心に何か残せたら嬉しいかな。。。

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