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忘れていたのは

なるほど葉を腐らせるだけでは養分とならないのね、そして同じ作物をずっと育てていると収穫高が減っていく現象がみられる…だからあの物語は飢饉が始まったのね。えっと…この焼物があそこの国から運び込まれたのは作物の種と交換したから!じゃあこれが食糧増産に…あれ?なんか読みづらくなってきたわ!眼鏡だってかけてるし…目が疲れてきたのかしら…


久しぶりに顔を上げて眉間を揉む。ふー絶対に読んだことのないジャンルでも何かしら物語に繋がってる。古典だってちゃんと背景を読むことが出来ればとても面白いものだと気づくことができた。これだけでも生まれ変わった価値はあったわ!!!…何か忘れている気がするけれど…ふふふ、さあ次はこの濃紺の表紙のやつを、…濃紺?いや棚から持ってきた本は鮮やかなブルーだったはず…


あっ!周りを見渡してみればすっかり暗くなっていた。慌てて繊細な細工が施された窓に近寄ると空は夕日で染まりつつあった。私、屋敷を抜け出して来たんだ…!夢中になり過ぎて忘れていた。まずいまずいこんな長時間留守にするつもりはなかったし、抜け出したことがばれてやしないだろうか!?もしかしたら大騒ぎになってる…?それに一応夕食の席にはつかなきゃいけない!


紅潮していた頰はさーっと血の気が引いていく。とっとりあえず帰らなきゃ!積んでいた本を慌てて戻す。しっかり買った本を抱えて本棚の隙間を通り抜けていく。あれ、これはここの棚じゃない!隣だ!私は駆け足で隣の列に進む…人気を全く感じなくて忘れていたけれどここは王立の図書館であって公共の施設。他の利用者がいる可能性なんて全く考えなかったのだ。


どんっと人にぶつかり、そうだったと気づきつつも体が傾いていく。あーやってしまった…急ぎすぎたわ…本を抱きしめて衝撃に備えて目を閉じるとどすんっと相手に抱きつくように倒れてしまう。『嫁入り前の貴族の令嬢とは思えません!』なんてカエティの声が聞こえて来る気がする…とりあえず謝ろうと頭をあげる。


「ごめんなさ…」


思わず目が吸い寄せられる。私がぶつかった人は見事な赤い髪をしていた。みつめる目は煌々としていて鋭くてともすれば厳しそうな印象を与える。けれど私は知っているんだ、優しく笑う彼を…でも最後の方は苦しそうな彼の姿しか見ることができなかった。






















「…大丈夫だ」


ぶつかった彼は、私の婚約者になるはずだったキース殿下だった。


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