はじめてばかり
「…ついた」
屋敷を抜け出してやってきた街は記憶にある姿と比べると幾分違って見えた。以前馬車で通った道のりは以外と長く、自分の足で歩いて来てみると日頃の運動不足もあって少し疲れた。また馬車の上から見る景色は窓に切り取られたもので面白みが少なかったが自分で地に足をつけてみる景色は本当に異世界のようである。
それでも活気ある街並み、広く取られた石畳の街道には多くの馬車や荷車が通っている。さらには飴売りや靴磨きの子供など幅広い年齢層の人たちがいる。貴族の普通とは違った普通がある街は私を興奮させた。
なんて素晴らしいの!私が読んでいた小説は貴族向けに描かれたわけでないものもあったから、描かれていた平民の暮らしや描写はわかりにくいことも多々あった。そうか、人がこんなに多いから目を離したら恋人同士ははぐれてしまうのか…!夜だったら更にわからないだろうし、なんと心細いこと…!でもそんな中はぐれた恋人に手を掴まれたらそれは更にのめり込むに決まってるわね…!!!そう自分の世界にのめり込んで自分を納得させる。いいわ!やっぱり自ら体験することは大切ね。屋敷にこもって読んでいるだけじゃわからないこともこうすんなりと理解することができる。なんと素晴らしいことか!
「おい、坊主」
…坊主?周りに年頃の男の子は見えず、辺りを見回す。
「お前だよ、きょろきょろしてるお前。」
私?…そうだった、流石に女の子の姿では危なく動きにくいだろうと思ったから男の子の格好をしているのだった。
「なっなんだい?わた…僕になんか用?」
「これだよこれ!この隙間に車輪の留め具が引っかかっちまってよぉ、手伝ってくれねぇか?駄賃もやるからよ」
図体の大きな男は馬車の前に立ち、石畳と普通の住宅の間を指差す。たしかに外れた金具は子供の手でないと入らない隙間に挟まっていた。断る必要もないので手を小さな狭間に入れて、小さな部品を掴んで取り出す。
「これでいい?」
「おう、ありがとな!」
そう言って男は銅貨と紙に包まれた飴をくれた。金具をはめると男は馬車に乗り込んで去っていく。…結構よい馬車だった。侯爵家が乗るものに比べると少しは劣るが、それでも貴族が乗っていておかしくないものだった。加えてあの声をかけてきた男…どこかで見た気がする。………考えても仕方ないか。まだたくさん見たいものがあるし、本来の目的は本なのだから早く行こう。そう思ってその場を後にした。




