いいえ人違いですね
「いいえ人違いですね」
目の前で俺を崇める少女に事務的に答えた。
「いいえ私にはわかります。私に神託を下さるときの神々しくて凛々しくどこか妖しいそんなオーラがあなた様からは溢れ出ているのですから違うなんてことはないのです。ああ思えば私とあなた様との最後の神託の時、あなた様は自分が神として、してはいけないことをしてしまい創造神様に消されてしまうと私にお告げくださいました。それからすぐにこの世界の鍛冶は衰退し、あなた様の作品である魔剣の全てが力を大きく失ってまって、私は罪深いことにあなた様が消えてしまったことを信じてしまいました。神に見捨てられた聖女として奴隷になった私はあなた様がいない世界など興味もなくただ死に向かうために生きる日々を過ごしていたのです。ですがあなた様が私の為に使いに出して下さったカリファー様からあなた様の気配を、匂いを、オーラを感じたとき私はなんと愚かだったのだろうと――」
俺はドン引きしながらエディリシの一人舞台を10分静聴すると息を切らしながらなおも俺に祈りを捧げてくるエディリシの肩に手をやる。
「あのな? 俺は本当に神様ではないんだ」
なだめる様に語り掛けてみたが「鍛冶神様に触れていただけるなんて」と涙を浮かばせて喜んでいて話は聞こえていないようだ。
(女の子に強くの言うは気が引けるんだけどな)
「おいエディリシ!」
「私のことはどうぞエディとお呼びくださいませ」
「お、おう」
ペースが握れない。ロノリアとは違う方向で苦手だ。
「なあエディ、本当に神様とかじゃないんだ。俺は創造神エリーエリー様の使徒なんだよ」
俺の言葉を聞くとエディは「ヒィッ」と声をあげてガタガタと震え出した。
「エリーエリー様。創造神様は鍛冶神様を。鍛冶神様を」
(こええええええええええ)
あまりの狂信者っぷりにどう対応していいかわからない。俺はただ茫然とエディの様子を見ていることしかできなかった。
しばらくするとエディが突然静かになる。するとこちらに向きなおして。
「鍛冶神様、いいえリーシェ様。私わかってしまったのです、創造神様は鍛冶神様を消してしまわれたのではなくあなた様に変えてこの下界に降ろして下さったんですね!」
このあとエディのエリーエリー様への感謝と俺に会えたことへの喜びを20分聞かされた俺はもう反論する気持ちも消え失せてしまっていた。
ここで鍛冶神の霊格の説明をするのは更に面倒だったのでここでの仕事は特殊なスキルを使って行っていると大雑把に説明し、2人の時はその扱いでいいから他に人がいるときは信仰心など持ち出さないように強く念を押した。
「リーシェ様が大変な思いをなさるような真似はこの命に代えてもいたしません」
いちいち重い発言をするエディに俺はもういいやと若干自棄になっていると表の扉の開く音が聞こえた。カリファー達が帰ってきたのだろう。
俺はエディに更に念を押してから2人で裏口から出て表に回り扉を開いた、そこにはカリファーとナコ、そしてマテーヌがいた。
「なんでいるんだ?」
俺の問いにカリファーが答えた。
「事務員の募集はしたんだがすぐ働き手が欲しいだろ?だからすぐ働ける奴隷を買うことにしたんだ」
「いや確かにすぐ働けるけど」
呆れた顔で俺がカリファーを見るとカリファーは真剣な顔を向けてくる。
「彼女のやったことは俺だって許せない。けれど今、商会は失った信用を取り戻し更なる飛躍の為に頑張らなければいけない時なんだ選り好みをしている場合ではない」
「ナコ? お前はよかったのか?」
俺がナコの方に目をやるとナコは頷いた。
「私もカリファー様があの人を買うと言い出した時は複雑な気持ちでした。でもカリファー様のすることですし諦めました」
最後笑顔で話すナコに俺も1度頷いてからカリファーを見る。
「会長の決めたことだもんなー、奴隷代と商会の信用を失墜させた分しっかり働かせろよ」
以前の強気な態度はなく何かに怯える小動物のようになったマテーヌは俺と目が合うとカリファーの後ろに隠れてそれでもこちらの様子を見ている。
「あれ? リーシェさん奴隷買ってまた借金増やしたカリファー様になにも言わないんですか?」
ナコがそう言うとカリファーがナコの口をふさぐようにする。
「あぁ……なんか今日もう疲れた」
そういうとナコとカリファーが驚いた顔になって俺の額に手を置いたり水と薬を出してきたりと大騒ぎし始めた。エディも一緒になって俺を来客用の椅子に寝かせたりと騒ぎはじめ、マテーヌは呆然とその様子を見ている。
(このメンバーで商会立て直していくのかあああ)
俺は頭を痛がる振りで額に手を当てると誰にも見えないように笑った。




