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新しい日々の前に

「お願いします、この通りです」


 俺はロノリアに土下座して懇願していた。


 カリファーが戻り、新たな仲間が増え、明日から商会の再始動という日の夜。俺はロノリアの部屋にもどってエディを簡単に紹介してからエディと2人で家に帰ったのだが――


「あの子と二人っきりになると怖いんです。何かと俺の世話をしたがったり、気がつけば捧げる準備は出来てるとか言って脱ぎ始めるし、なにより怖いのは何もしてこない時はずっと俺に祈りを捧げてるんです」


 エディの事情を知っているロノリアも俺の話に若干引き気味だった。


「聖女様っていうのはそこまで狂信的じゃないとなれないものなのかしらね……それで私にどうして欲しいの?」


「しばらくうちに泊まってください! エディがまともになるようにこれから教えていくので、それまでの間ぜひお願いします」


 するとロノリアは笑顔で土下座の姿勢を取る俺の前にしゃがみ込むと――


「無理ね、ごめんなさい」


 何日も家を空けられない、エディがそう簡単に良くなると思えない、そもそも敬虔な信徒が苦手などの理由でロノリアに断られた。


「どうすればいいんだ……」


「ナコちゃんはダメなの?」


「ナコはマテーヌを連れて商会の2階に戻って寝て起きたらすぐ仕事できる体制で溜まった仕事を片付けるらしいんです」


 過去のこともあってナコはマテーヌを付きっ切りで使い潰す気でいるらしい。カリファーが「ほどほどにな」とナコを諭してはいたがナコの邪悪な笑顔は完全にヤル気にしか見えなかった。


 話を聞いたロノリアは少し考えるような素振りをした後、突然両手をパンッと合わせる。


「それじゃあ私が何とかしてあげる。でもすぐには無理だから最低今夜は自分でなんとかすること」


 そう言いながら俺に人差し指を突き付け自信ありげな表情をするロノリア。


「最低ってことは最大どれくらいなんとかすればいいんですか……?」


 俺がそう言うとロノリアは表情をそのままに露骨に視線を逸らした。

 それを見て色々察した俺はなにも言わず門を通って家に戻った。


(大丈夫、リアさんならきっと何とかしてくれる。だから今夜一晩が勝負だ)


 俺は決意を胸に自宅の扉を開くと――


(お前それだれに聞いたんだよ……)


 妙にピカピカになった玄関に裸にエプロンの姿で両膝を付いて深々を頭を下げている。

 エプロンは出かける前について来ようとしたエディに掃除を頼んだ時に汚れてもいいようにこれを着てくれと渡したものだ。


「おかえりなさいませリーシェ様。あなた様がお帰りになるのを今か今かと心よりお待ちしておりました」


 相変わらず長い前髪で顔はよくわからないが口元から見るにきっと満面の笑みなのだろう。


「ただいまエディ。なんで裸にエプロンなんだ? 俺言ったよな、服が汚れないように服の上から着るものだって」


「リーシェ様から頂いたお召し物を汚れた服の上から着るなんてとんでもないことです。綺麗とは言えませんがお風呂で洗わせていただいき清められたこの身体ならばこれを身に着けるに値すると思い素肌に纏わせていただきました」


 俺はエプロンからはみ出る手や足の透き通るような白い肌をみて「十分綺麗だ」と言いかけたがその言葉を飲み込んだ。


「エディ。女の子がみだりに肌を見せちゃいけない」


「みだりに見せているわけではございません! 聖女の祈りの間という神の世界にもっとも近いとされる場所では異物である服など身に着けてはいけないのです! 使徒様であるリーシェ様にも本来であればそのようにして接しなければいけないわけでして――」


「それでもこの家のルールは俺だ。ここでは服を着て生活をしてくれ、お願いだから」


 凹凸は少ないとはいえ女の子が布1枚で目の前にいるのは色々ヤバい。

 俺の言葉にシュンとなったエディが「申し訳ございませんでした」とまた深々と頭を下げてから行く前に決めた部屋にトボトボと戻って行った。


(いや奴隷に手を出すとか嫌だし、あんな純粋に俺を崇めてる子に手を出すようなことなってはいけないわけだから。俺がヘタレとか度胸なしとかタマなしってわけじゃないからマジホント)


 玄関で一人自分に言い訳をした俺は一気にきた精神的疲労でそのまま自室にもどってベットに沈み込んだ。


(俺の力で胃薬って作れないかな)


 意識が途切れる直前、俺はそんなことを考えていた。


 目が覚めるとベットの脇の椅子に座ったエディがこちらに祈りを捧げていた。当たり前のことだが服は着ていた。


(なにこの状況……)


 まだエディは俺が目覚めたことに気付いてはいないようで祈りが続けられている。


(起きていいのか? ダメなのか?)


 謎の駆け引きは俺が朝の尿意の限界を迎えるまで行われた。ちなみにエディ曰く起きたらやめるつもりでいたそうだ。


 洗顔の時、鏡で見た自分の顔は1日でこうなるかと思うほど疲れ切っていた。でも大丈夫一晩は超えた、あとはロノリアがなんとかしてくれるはず。俺はその思いを胸に朝の支度を済ませてエディと共に家を出て門を通った。


 門を出た先、ロノリアの部屋にはロノリアともう一人知っている顔があった。


「おはようございますリアさん、ヨールさんも」


「おはようリーシェくん。昨日の件だけど話はついたわ、ヨーちゃんが今日からあなたの家に泊まってくれるわ――」


「本当ですか! ヨールさんありがとうございます」


 飛びつくようにヨールの手をとって大きく上下に振る俺にヨールはすこし戸惑いつつも「よろしくお願いします」と言ってくれた。


 これで家でもエディは俺を崇拝できない。俺は安堵のため息を漏らして今日の仕事に出かけることができた。この時の俺は作業部屋で結局エディと二人きりになることを完全に失念していた。

 


インフルは治りましたがインフルからの腸炎コンボでまだしばらく更新が遅くなります。

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