久しぶりだな。できれば二度と会いたくなかったよ
「久しぶりだな。できれば二度と会いたくなかったよ」
こちらに気付いて睨んでくるマテーヌを見下すようにして俺は言った。
マテーヌはいまにもこちらに飛び掛かりそうにしているがマハに押さえられて動けないでいる。マテーヌとマハの後ろには他の事務員達も同じように取り押さえられているのが見えていた。
「あなたが黒幕なのね!? 私達を捕まえてどうするつもりよ!?」
状況がわかっていない様子なので俺はヒステリックになっているマテーヌにもわかるように説明した。話を聞いたマテーヌは再度喚き散らす。
「その女が勝ってに怪我しただけじゃないのよ! 私には関係ないことだわ! 忙しいのにこんなところに連れてこられて迷惑よ! 誰か衛兵を呼んで頂戴!!」
その言葉に大きく騒ぎ始める冒険者たち、その声に事務員達は顔を青くして震えている。当のマテーヌも冒険者からの罵詈雑言に少し怯んだ様子を見せたがそれでもその態度を止めることはなかった。
「私の叔父はこの街の領主よ!? その私をこんな目に合わせてただで済むと思っているの!? 騎士団だって出てくるの、あなた達なんかラオルの魔剣でみんな死んじゃうわよ!」
マテーヌの叫びを聞いて冒険者の声が小さくなっていく。さすがに騎士団、しかも魔剣持ちまで出てくると脅されればそうなるだろう。
マテーヌも勝ち誇った表情になり、事務員達もホッとしているようだ。
「今私を解放すれば叔父様には言わないであげるわ、そこの辞めた二人も頭をついて謝れば商会にもどしてあげてもいいのよ」
自分の勘違いに気付かず優位になったつもりで話始めたのを聞いて俺は笑いが堪えられなくなった。
「もーだめもーだめ、お腹痛いやめてやめてお願い許してー、これ以上笑わせないでー。この状況で権力振りかざしたらこの場で殺されるだけじゃん、勘違いしてドヤ顔とかまじでやめてー」
俺の爆笑をみて唖然としていたマテーヌが俺の言った言葉を徐々に理解していったようで焦ったように騒ぎ出した。
「違う! 違うのよ、嘘じゃないわ! 今解放してくれたら絶対にあなた達のことを叔父様に言ったりしないわ、それどころか騎士団に推薦してあげてもいいのよ」
そう言いながら回りを見渡したマテーヌには殺気立って武器を取り出している数名の冒険者が見えていた。
マテーヌは真っ青になりながらこちらを向くと俺とナコすがるような目で見ている。
「リーシェさん、ナコさん。商会に戻してあげるからこの状況をなんとかしなさい! 私はカリファー様の婚約者なのよ?」
その言葉を聞いて俺とナコは顔を見合わせて笑った。そして声が揃うように二人で「せーの」と合図をしてマテーヌに向けていった。
「「お断りだ(します)」」
更にナコが続ける。
「婚約者って言ってもカリファー様が忙しくなる前に籍を入れようと言ったのを何度も拒んだ婚約者ですよね? 噂通り商会を乗っ取るつもりだったんじゃないんですか?」
マテーヌが「それは……」と否定しようにも言葉がでないようで黙り込んでしまう。
俺は1度マハを見てそれからマテーヌの方に向きなおす。
「そもそも俺達と冒険者は関係ないぞ。俺はそいつらも怪我したっていう子も全く知らないんだからな」
マテーヌはそれを聞くと自分を捕まえている冒険者の方を見る。目のあったマハは「関係ないな」と言う。
「な、ならお金を払うわ! どんな怪我かは知らないけど首都から治癒魔法師を連れてきてその代金もすべて払うわ! その子だけじゃない、ウチが売った武器が原因で怪我したものすべてに賠償金を払うわ」
マテーヌは冒険者達に聞こえるように大声でそう宣言した。俺はそれ対してに疑問を言い放つ。
「そんな金どこにあるんだ? カリファーの借金は俺とナコが返済したから商会としての借金はできないぞ? 偉ーいお前の叔父様は今いないんだろ? まさかこれだけ言っておいて後払いなんて言わないんだろ?」
それを聞いて1度俺を睨んだマテーヌは、俺を鼻で笑う。
「この店を売るわ! どうせ売れない店よ、必要ないわ!」
マテーヌがそう言った。
それと同時にナコは店の外に走り出した。
「ナコ! 気を付けて行って来いよ!」
俺はナコを送り出すとマテーヌの不思議そうな顔をみる。どうやら本当に知らないようだ。
俺はカリファーの机にあるはずの書類をマハから受け取るとそれをマテーヌに見せつける。
「カリファーはな、自分の馬鹿で俺とナコを振り回すことは止めようとしなかった。だが商会が大きくなると迷惑がかかるのは俺達だけではないわけだ。だから俺とナコでカリファーを戒めるためにこういったものを作ったんだが」
商人ギルドの印が大きく押されたその書類には――
代表の過度の負債により商会の運営が滞る状況になった場合、代表の身を持ってその負債を返済することとする。
それまででもこれを主張できたが絶対に言い逃れのできない言葉を俺は待っていた。そして発生した負債の為に店舗を手放すという宣言は完全に言い逃れのできないものだ。
書類を見たマテーヌが大きく震えはじめたのがわかる。身を持ってということがどういうことか。代表がいない今、その役はだれなのか。それに気付いたようだ。
震えが抑えられず膝から崩れ落ちるマテーヌを見降ろしながら俺はマテーヌに言った。
「ナコが商人ギルドにロココって担当を呼びに行ってる、その後は……。まぁ領主が戻ってくるまで売れ残ることを祈るんだな」
そして冒険者達を向いて俺は言った。
「誰か怪我をしたというあんたらの大切な人にこのことを伝えに行ってくれないか? 治癒魔法師の手配は商人ギルドがちゃんとやってくれるだろう」
俺の言葉を聞いて複数の冒険者達がどこかへ走って行った。
見えなくなるまでその背中を目で追ったあとで再度マテーヌに目をやると、震えながら「ごめんなさい」と小声で繰り返していた。
「最初に謝れば変わってたかもしれないのにな」
俺の呟いた言葉は誰に聞かれることもなく、冒険者達の喜びの声と事務員達の泣く声、マテーヌの呟く声にかき消された。




