思ってた以上にヤバそうになってるな
「思ってた以上にヤバそうになってるな」
カリファーの借金を完済した日から6日後、俺とナコが商会を辞めてから10日経った日、俺達はカリー商店の様子を見に来ていた。
今カリー商店の前には大勢の冒険者が集まっている。それは買い物に来たという雰囲気ではなく、元の世界でいうデモのようなものに近い雰囲気だった。
「なぁナコ、あれどういうことだと思う?」
ナコに問いかけるが答えが出てこないようで、「うーん」と言いながら首を傾げている。
あまり近くに行って店の人に気付かれるのも気まずいと思った俺とナコはその集まりがなんなのかわからないまま遠くから店を眺めていた。
「あ、あのぉ……店長……」
しばらくその場で眺めていた俺達の背後から突然声がした。
声の方に振り返ると知らない女の子が怯えるようにしてこちらを見ている。
「ミニニさん?」
ナコが返事をした。店長と呼んだことを考えるとカリー商店の店員なんだと思う。
ナコの反応を見るなりミニニという子が「すみませんでした」と言って勢いよく頭を下げてくる。
この場で目立つのも気が引けた俺達はミニニを連れて少し離れた場所にある飲食店に入った。
「本当にすみませんでした」
席に着いてからも謝ってばかりいるミニニをどうにか落ち着かせたナコは、優しい口調で何があったのかを聞いていた。
少女同士のそのやり取りを真剣に眺めていた俺は2人の会話を聞いている余裕などなかった。
しばらくするとナコがこちらを向いてなにか言っているのがわかった。
「リーシェさん聞いてましたか?」
「いや、でも大丈夫だ。ちゃんと脳内に保存してある」
不思議そうな顔をしながらも話が通じていないと悟ったナコは俺に丁寧に説明してくる――
突然店の武器の質が悪くなったと冒険者が騒ぎ出した。
売れ行きが一気に減った商会に代表代理が受けていたという俺の関与していない取引で粗悪な武器が送られてきたという理由で突然多額の賠償金が発生してしまう。金庫のお金でその賠償金を払ったが今度は工場の材料などが切れ始める。
騒がれている商店での収入はほとんどなく、代表代理が商人ギルドに金を借りに行ったがカリファーの借金が完済されているために商会として借金ができなかった。すぐさま叔父である領主の元へ行くも領主は不在、仕方なく私財を使って材料などの費用にあてることになったらしい。
そして昨日、代表代理が商店に来て「売れない店にこんなに店員はいらない」などと喚き散らして新しい店長だけ残して店員全員を解雇ということになっているそうだ。
「見事に転がり落ちたな、評判は落ちても商会自体は大丈夫だと思ってたんだけどなー」
予想外にも商会は潰れそうになっているらしい、原因はマテーヌが俺を通さなかった取引でやらかしたせいなのでこちらに非がないにしてもなんだか悪いことした気がしてしまう。
「それで追い打ちもあったわけか……」
説明には続きがあり、それが最初の疑問の答えだった。
街の冒険者でアイドル的存在の子が粗悪品の剣で大けがをしてしまったらしい。それも戦闘中ではなく、粗悪品かもしれないという噂があったの手入れをしようとして自分で砥ごうとしたところ力を入れたら剣が折れ、折れた刃が目に刺さったということだ。
(どんな作り方したらそんな剣になるんだよ! それともそのアイドルってゴリラ並みの腕力なのか!?)
つまりさっき見た店に集まる冒険者達は、粗悪品では済まないような剣を売った店に対して怒りをぶつけに来たアイドルのファンということだ。
ちなみに冒険者達は俺とナコが辞めたことは知っているらしく、カリファーがいない間にマテーヌが商会を乗っ取った結果こんなことが起きたと大声でひろめているそうだ。
「リーシェさん、どうしましょうか」
ナコが困った顔をしている。俺もナコもカリファーの商会を潰すつもりなどなく、マテーヌやそれに同調したやつらが少し懲りたらいいな、くらいの気持ちだったためにここまで大事になると罪悪感すら感じる。
「でも今更俺達がなんとかしたところで怪我した冒険者には何もしてあげられないぞ?」
すると今まで俺達の会話を黙って聞いていたミニニが俺に深く頭を下げてきた。
「お願いします、お店を助けてください! 今の店長は私の婚約者で、私も彼も代表代理に騙されてたんです! お給料だって店長が会長の借金の為に受け取っていなかったなんて知らなかったんです」
俺は真剣にその子を見て答える。
「俺が助けたいのは商会だ」
そういうと少し明るい顔でミニニが顔を上げた、どうやら勘違いしたのだろう。だから俺は続けた。
「つまり利害は不一致だ。わかるか? 俺は俺とナコを追い出したやつらのことなんてどうでもいい。カリファーとナコと俺の3人で立ち上げた商会、それだけしか助ける気なんてない」
俺の言葉にミニニは言葉を失う。
ナコは少し困った顔で俺を見る。言いたいことはわかるけどハッキリ言い過ぎだ、そう言いたいような顔だ。
俺はナコから顔を逸らす。
「怪我の方は知らんが武器の方はすぐ対応できるな」
「そうですね、となるとまずはお店ですか」
俺の言葉にすぐにナコが返してくる。
「呆けてないでお前もこいよ? 俺達は俺達の為にしか動かないんだからな」
「自分の為に動けるのは自分だけだよ、ミニニさん」
そう言われて慌てて立ち上がるミニニ。
そして会計を済ませて3人で店を出た。
「そういえば俺、新店舗初めて入るな」
「すごく広いですよ、とても一人では回らないくらいに」
ナコは悪い笑顔になっていた。
俺はその顔に気付かない振りをしながらカリー商店に向かって歩いて行った。




