早すぎない? 大丈夫なの?
「早すぎない? 大丈夫なの?」
俺とカリファー、ナコの3人は新カリー商店の前に来ていた。
完成まで約20日。あまりにも早すぎる。
(物理的に潰れたりしないよな?)
「領主様が職人を沢山雇って急がせてくれたんだ」
「それも全部コチラ持ちですけどね・・」
ナコは請求書の束を抱えて真っ白になっている。
ちなみに俺はすでに考えることを辞めている。
「ところでリー、なぜ鍛冶職人達を仕切るのを止めたのだ?」
「俺は感覚で仕事してるからちゃんとした職人とは話がそもそもできない。だから向こうで代表を決めさせただけだ」
「カリー商会としてそれでは困るのだが・・」
「大丈夫だ、作られた武器は元の店舗の作業部屋に来てそれを俺が確認してから店に送るようになってる。向こうもこんな呪われた人間と一緒は嫌だろうしちょうどいいだろ」
「まぁちゃんと確認や手直しをしてくれるならいいが・・」
納得しきれていないようでカリファーが眉を寄せている。
俺は話題を逸らすためにもっと頭を抱えてるナコに話しかけた。
「それよりナコ、新人の調子はどうだ?」
話を振られたナコは力なく振り返り返事をした。
「え・・? あっはい。接客は全員できまるようになりました、買取の判断できる目のいい方も数人いるのですぐにでもお店は回せます。」
「おぉ、さすが店長だな」
「て、店長・・・」
プレッシャーもあるのかナコはまた真っ白になって遠くを見た。
「もうお前の奴隷じゃないんだからあんまり酷使してやるなよ?」
「わかっている、仕事仲間として頼ってしまっているだけだ」
「ならそれは借りだ、早く返してやれよ?」
カリファーは頷くと店の中に入って行き、ナコもそれに重い足取りで続いていった。
俺も見に行きたいが開店を明後日に控えているため作業部屋で商品のチェックをしなくてはならない。
(チェックというか撫でて砥ぎつつ恩恵を与えるだけの簡単な作業だけどな、魔力の使い方覚えてほんと良かった)
俺は魔力さえ続けば普通に手で砥いだ時の3倍の仕事ができるようになっていた。
実際に砥ぐより恩恵は下がるが今回は新品、それならば問題はないだろう。
元カリー商店ことカリー商会事務所についた俺は裏口に回って中に入った。
裏口に回る理由は事務所にカリファーの婚約者となった領主の姪マテーヌがいるからだ。彼女には初対面の時から嫌われている。カリファーは俺を辞めさせるように何度か言われたそうだ。
カリファーに説得されたもののいまだに納得できず、呪いのこともあって俺を遠ざけたかったマテーヌは改装の際もと店スペースを事務所に変えて、作業部屋と2階へは裏口からしか移動できなくしてしまった。
(まぁヒス女には俺も会いたくないからちょうどいいわー)
俺は手早く開店初日分の商品をチェックするとそれを小分けに抱えて裏庭に新たにできた木箱スペースの検閲済みマークの書かれた木箱に入れていく。
この木箱に入れたものを担当が店に運んでくれることになっている。
(ボッチどころか誰にも会えないシステム・・・助手雇おうかな・・)
夕方になると事務所の方が騒がしくなる、カリファーとナコが帰ってきたようだ。
店の方で従業員への挨拶と激励が終わって次はここというわけだ。
カリファーはナコに俺を呼んでくるようにいうがマテーヌがそれを止めているのが聞こえた。
直接的には言わないが他の事務所にいる面々も「カリー商会の創設メンバー3人が集まるのは恐れ多い」などとマテーヌの意見に賛成していく。
(異世界でイジメに遭うとは思わなかったけどな)
ロノリアとレソートは俺の素顔が最初だった。ヨールは包帯でしかあったことないがロノリアをかなり信用していることもあって俺のことを不審には思っていないようだ。カリファーは人を見た目で判断しないのが信条らしいし、ナコは元々カリファーの奴隷で主人の友人として接してきた。
しかし大きくなった商会のメンバーはそうではない。婚約者の友人が呪われていた。魔剣を直したものすごい商会に入ったら不気味なやつがいた。傘下に入る商会におかしいやつがいるらしい。
(いままでが特殊だったってことなんだろうな・・)
そんなことを思いながらいじけていると壁の向こうから「「オーッ!」」と気合を入れる声が聞こえた。
少し遅れたが俺も小声で真似しながら小さく拳をあげた。
それからしばらくすると裏口が開く音がした、足音は2つ。
作業部屋の扉が開いた。
「リー聞こえていたのだろう? 本当にすまない」
「リーシェさんごめんなさい、私なにも言えなくて」
「大丈夫だ、慣れてるって言っただろ? それに2人が謝ることでもないさ」
俺は全力で恰好付けた。
カリファーは察してくれたようで一つ咳をすると話し始めた。
「明日新しくなったカリー商店が開店するわけだが・・・。ダメだなこのメンバーだと会長らしく話などできん」
カリファーがそういうと俺とナコは顔見合わせて笑った。
「カリファー、メンツを気にするとまた借金増えるぞ」
「そうですよ、カリファー様。お店の前で言ってくれたじゃないですか? 私たちは従業員でも会員でもありません、仕事仲間です」
カリファーは少し難しい顔したがすぐに戻すとまた一つ咳をして話し始めた。
「リー、ナコ。俺達がカリー商店を開いた前の日に力を合わせてこのカリー商店を大きくしていこうと言ったのを覚えているな」
「一月くらいしかたってないじゃねぇかよ、忘れか!」
「茶々を入れるな。まぁそうだな一月だ、たった一月で実現してしまった。つまり俺達は最高の仕事仲間ってことだ。だからな? 言いたいことが多すぎて言葉にならないんだ。でも・・・わかるだろ?」
「ああ」
「はい」
カリファーは俺とナコをそれぞれ見る。俺達はそれに合わせて1つだけ頷いた。
「やるぞ!」
「「おー!!」」
小さな作業部屋に俺達の声が響いた。
(また最初の目標はカリファーの借金返済だな・・)
あの時も同じことを考えた。でもあの時と違って今は――
(悪くない)
心からそう思った




