今日もまた武器を撫でるお仕事が始まるよ・・・
「今日もまた武器を撫でるお仕事が始まるよ・・・」
新カリー商店が開店して2カ月たった。
忙しくて直接は見に行くことはできないがかなりの盛況ぶりらしい。ナコ曰く噂が街の外にまで広がっているらしく遠い街からわざわざ訪ねてくる冒険者もいるようだ。
それでも今回は商売の規模が大きい為カリファーの借金はまだ完済できていない。ナコ曰くは今のペースのままなら3カ月後には払い終わるらしい。
俺は毎日一人で作業部屋で魔力を手に込めて武器を撫でている。商品チェックと手直しという名目で恩恵を武器に与える作業だ。
壁の向こうの事務所スペースからは時折笑い声なんかが聞こえてくるとすごく羨ましい。
1日の俺の楽しみは俺が帰るときに入れ替わりでこの建物に帰ってくるナコとの少しの会話とロノリアが客を取らない日に一緒に過ごす時間くらいだ。
(病んでるなー、人恋しすぎる。今レソちゃん師匠に迫られたら結婚しちゃうなー)
以前、助手を雇う話をカリファーにしてみたがマテーヌに必要ないと一蹴されたらしい。
マテーヌからすると商品をここに一度運んできて俺が確認手直しすることすら必要ないのに人員を増やすなんてできないむしろ俺もいらない、ということだ。
カリファーも商談で忙しいらしく最近はほとんど店にも事務所にいれないからほとんど商会のことはマテーヌに任せていることもあってあまり強く言えなかったみたいだ。
奴隷を買おうとも思ったが金がない。
ナコと俺はカリー商会が新体制になってからカリファーが借金を完済するまでは最低限の生活できる分だけの給料しかもらっていない。従業員の4分の1の給料とよくナコと笑い話にしている。
(鬱になる・・)
そう考えながら俺は送られてきた武器を撫で続ける。
その日の夜、作業部屋を出て裏口に向かうと扉が目の前に開いた。
そこにはナコの姿があった、しかしなぜか表情がおかしい。ナコのこんな顔はみたことがない、それは怒りの表情だった。
「ナコお疲れ、どうしたんだそんな怖い顔して」
「リーシェさん! 私もうあの人にはついていけません!」
あまりの剣幕に俺が1歩足を引くとナコはそのまま中に入り扉をバタンと音が鳴るほど乱暴にしめた。
「怒ってるナコなんて初めて見たよ・・。なにがあったんだ?」
俺は少しなだめるように優しめの口調で話した。
「私はあの人が許せません! カリファー様の婚約者であり領主様の姪御様だから言うことを聞いてきましたが今度ばかりは許せないんです!」
「あの人ってマテーヌか? あいつがなにをしたんだ?」
「あの人はリーシェさんを辞めさせる為に使い込みや店の売上の横領の捏造資料を作っていたんです!そして私や従業員のみんなにも口裏を合わせるように指示してきました」
(まじかー、そこまでやるかー)
「明日の会議でそれを発表するそうです」
「従業員はなんて?」
「リーシェさんは作業部屋に籠ってサボってるだけ、リーシェさんがいなくなれば仕事も効率化するし売上もあがって給料も上げれるとあの人に言われていたみたいで私以外はみんなあの人の計画に乗るみたいです」
(まぁそうなるか・・・)
「私は反対したんですが、あの人はそれも予想通りだったようで・・・」
次第にナコの声が震えていく
「従業員の1人をすでに店長として教育してあるから私もいらない、古株でみんなより何倍も給料を多く貰ってる私がいなくなれば他のみんなに渡せるって・・」
本当のことを言ったとしても伝わらない、人間とは欲深い生き物だから。
きっとナコは何も言い返せず、仲間だと思ってた人達からの痛い視線に耐えられず逃げてきたんだろう。長い付き合いでもないがこの子のことはよくわかる。
話の途中で泣き崩れた少女を俺は抱きしめて頭を撫でてやることしかできなかった。
しばらくそうしているとナコが落ち着いてきたのがわかった。
俺は優しくナコに問いかけた。
「ナコ、カリファーの予定ってわかるか?」
「たしか商談で首都に行ってます、あと1ヵ月は戻ってこないかと」
(せめてカリファーがもっと早く帰ってくるなら別の手段もあったんだけどな)
カリファーも忙しい、それは理解できる。しかしこの状況は俺達だけでどうこうできるものじゃない。
しかし手段はある。
「ナコ、俺カリファーにどれくらい貸しがあると思う?」
俺の質問にナコがきょとんした顔になる。
「え?えぇと・・ちょっとやそっとではないでしょうね・・」
「ナコもカリファーに貸しあるよな」
「え?でも私は元奴隷で解放してもらった恩も・・」
口ごもるナコに俺は「あるよな!」と言葉の圧力をかけて首を縦に振らせた。
「ナコ、商会を辞めるぞ。今すぐに正規の手順でな。俺が話付けてくるからナコは上で自分の荷物まとめとけ」
ナコの返事を聞かずに俺は裏口から飛び出して表の扉に走った。
表の扉を蹴って開けると予想以上に大きな音を響いた。
「なにごとですか!」
すぐさまマテーヌが飛び出してきた、後ろには他の事務員たちもいる。
「濡れ衣着せられて首にされそうになったらしいから辞めに来たわ、ナコと2人な」
そういうと最初は呆けた顔したマテーヌが次第に笑顔になっていく。
「そうですかそうですか、それは商会としてもありがたいことです、ではいつ頃――」
「すぐにだ、あと知ってるだろうけど俺とナコは給料のほとんどをカリファーへの貸しして受け取っていない。それと正規の手順で辞めに来たんだ、退職金も合わせてすぐ耳を揃えて渡してもらおうか」
俺が早口で要求を並べると眉間にしわを寄せながらマテーヌが答えた。
「呪われた穀潰しごときが偉そうですわね? でもまぁ払って差し上げるわ?そんなはした金3日で稼げるもの」
そう言って部下みたいなやつに2つの袋を用意させた。
俺はそれを乱暴に受け取るってマテーヌに言った。
「ナコはすぐに連れて出る。カリファーにはいずれ挨拶にでもくるさ」
「結構よ! カリファー様はお忙しいもの。あなた方なんかの為に時間を作る暇なんてないのよ」
「そうかわかったよ、じゃあな二度と会うことがないと願っているよ」
俺はそういうとまた扉を蹴って開き裏口に走った。
裏口から入ると事務所スペースから高笑いが聞こえてくる。部下みたいなやつらからも弾んだ声が聞こえた。よほどうれしいようで今夜みんなで飲みにいくらしい。
俺は作業部屋の自前の道具をすべて自宅倉庫に転送する。
作業部屋は初めて来たときのように作業台があるだけの広い空間になった。
2階にあがると元休憩室だった場所にナコが荷物をまとめていた。
そう多い荷物ではなかったが、俺はあとで説明するといってナコの荷物を転送した。
驚いて言葉も出ない様子のナコを連れて裏口から出るとそのままいつもの通勤ルートでロノリアの店に向かった。
あまりのことに驚きすぎているナコを連れてロノリアの部屋に入った俺を待っていたのは訳知り顔のロノリアだった。
「ナコ、この人はリアさんと言ってこの店の代表者だ」
「え?ええ、えっと初めましてナコと言います」
「はじめましてナコちゃん」
ロノリアはそう挨拶すると少し悲しそうな顔で俺を見る。
「やっぱりそうなったのね、残念だわ・・」
ロノリアの言葉にナコが困惑しながら「やっぱりって?」と呟いていた。この人の説明も面倒だから後でにしよう。
「とにかくナコに色々説明することもあるので1度帰ります」
ロノリアが「ええ」と頷くのを見て、俺はナコを連れていくイメージで門を開いた。
「なにもないところが開いた・・これが異空間スキル・・」
驚き半分感動半分といったような反応のナコを抱えて俺は門を通った。




