ふぅ・・・ようやくできたぁ・・
「ふぅ・・・ようやくできたぁ・・」
空にはすでに太陽が昇っていた。
あの後で家に帰った俺は元の世界の家のものがここにきているならアレもあるはずと家の中を探し、見つけたソレをまず水浸して1刻、それから蒸して3刻そしてそこからは時間も忘れて必要以上にそれを木の棒で潰してひっくり返して水をつけてを繰り返した。
今俺の目の前にはなんでもくっつけてどんなことがあっても剥がれないと念を送って祈りながら、ものすごく時間と手間暇をかけた万能接着材がある。
それはつややかで純白、それでいてなんともめでたさを感じる1品だった。
(まぁただの餅だけどな)
粘着性、固まる力を鍛冶神の霊格で高めさらに魔道具になるようにイメージを必死にこめたに餅。
(ダメ元なんだ、当たって砕けろ)
俺は出来上がった餅を持って急いでカリー商店に向かった。
いつもよりかなり早い時間に店についた俺はまだ鍵のかかる裏口をあけて中に入った。
どうやらまだナコは起きてないようだ。
俺は作業部屋に入り魔剣の断面に隙間ができないようにたっぷりと餅を付けて折れた魔剣を1つにつないだ。
しばらくすると階段を下りる音が聞こえてきた、そしてその足音が裏口に向かうと、次は走って店スペースに向かって行った。
(泥棒と思ったのかな?まぁ狙われてるって思った次の日だしな)
そんなことを考えていると作業部屋の扉が勢いよくバタンと開いた。
そこには店の商品である槍を持ったナコがおびえてるような顔でそこに立っていた。
「おはようナコ」
俺は笑顔でいつものように挨拶をする。
「その声、リーシェさん・・なんですか・・?でもその顔・・」
(ん?顔?・・・・)
「あ・・・」
変装をし忘れていた。餅で魔剣を直すことしか考えてなかった。
「ナコ、これには事情がある。頼むから誰にも言わないでくれ!」
俺はそう言いながら門をその場に開いて中に駆け込んだ。
「消えた・・?」
俺は魔剣のことを伝え忘れたと思い門の方に振り返った、するとナコがこちらに向かって恐る恐る手を伸ばしていた。
(許可しないと見えないんだったな・・)
俺が門から頭だけ出すとナコは驚いたように後ろに飛んだ。
「俺が戻るまで魔剣に触れるなよ、絶対だぞ、振りじゃないぞ」
ナコは「振り?」と首を傾げていたが無視して俺は変装しに戻った。
変装して作業部屋に戻るとナコはまだ混乱しているようだった。
仕方ないと思った俺は呪いは一時的に治ることがあるがすぐまた効果が現れるために包帯が常に必要と説明し、消えたのは自分が亜空間系のスキルのホルダーだと話した。
「そうだったんですね。それじゃあ私がリーシェさんの顔を見れたのってすごく貴重な瞬間だったんですね」
「ハハッ・・ハハハハッ・・ソウイウコトニナルノカナ」
「そうですよ。なんだか今日はいいことがありそうです」
(俺の顔みただけでいいことあったら俺は幸せな異世界生活を楽しめてるはずなのにな・・)
ナコが店の掃除をするといい部屋を出ようとしたので、絶対に誰にも言わないようにと俺が必至念を押したところ「大丈夫ですよ」と笑顔で作業部屋を出て行った。
(ナコなら大丈夫だろう)
俺はナコに素顔を見られたことを頭の隅の追いやると餅でくっつけた魔剣に目を向ける。
溢れ出ている餅は固まっている様子だったが中まではわからない、俺はもっと時間を置くことにして通常の修理の作業を始めた。
しばらくする店の前が騒がしくなってきた、いつもの買い直しの列だろう。
(残念でしたー、昨日の買取分の修理はまだでーす)
店が開店するとやはり自分の武器がないと言った声が聞こえてきたがナコがうまく対応しているようだった。
(さすナコ)
毎朝の喧騒が鳴り止んだ頃、俺は魔剣を再び見た。餅が完全に固まっている、しかし魔剣がくっついているかはまだわからない。
俺はそっと作業用のナイフではみ出している餅の部分を削ろうとした。
ナイフがボロボロになった。
(これは予想外だったな・・ならば・・)
ポケットから石ナイフを取り出した。偶然だと思うようにしていたが恐らく魔剣を折ったのは初代石ナイフだろうと魔剣を実際触ってみてから考えていた。なら石ナイフなら餅が切れるかもしれない、しかし同時に少しでも手元が狂えば魔剣に傷をつけることになるかもしれない。
試しに石ナイフを餅に入れてみた、少し力はいるが刃を通すことができた。
俺はスーッと大きく息を吸い込みそのまま全神経を集中して急がないようにゆっくり丁寧に魔剣に沿って石ナイフを滑らせた。
どれくらい時間が立ったのだろう、俺がその作業を終えて一息つくと後ろにナコとカリファーがいた。
「うわっびっくりした! カリファーいつの間にきたんだよ」
「いつの間にではない、俺はずっと声をかけていたぞ」
「そうか、そんなに集中してたのか」
「それでどうなんですか?」
ナコが心配そうに俺に聞いてくる。
「使ってみないとわかんないなー」
「となるとラオル様でなければダメか」
「試しに持っていって直ってませんでしたってのは無理だろうな」
直ったのか確認する手段がないことも考えていなかった。
黙って魔剣を見つめていると、カリファーが声をあげた。
「責任は俺が全部取る! リー、それを渡してくれ」
「カリファー、いいのか? まだ直ったかもわからないんだぞ」
ナコがカリファーを心配そうな目で見ている。俺も包帯の下ではそんな表情をしていたかもしれない。
「いいんだ、これは俺が受けた依頼だ、俺が決める。そしてこれは俺がいつものように馬鹿なことして勝手に持っていく」
そういうとカリファーは奪うように魔剣を俺から受け取って作業部屋を出ていく。
「なぁナコ、今日は午後休みにしないか?」
「そうですね、店長様を待ちましょう」
俺達は仕事もせずただ店の中でカリファーを待った。
夕方、買い直し目当ての冒険者たちが店の前にきて閉まっているのをみると引き返しって行った。
まだカリファーは戻らない。
外は真っ暗になった。ナコは嫌な想像をしはじめたようで、何度も顔を洗いにいったりしていた。
それからしばらくして店の扉が開く音がした。カリファーが帰ってきた。
ナコは潤んだ瞳でカリファーをみて「おかえりなさい」と言っている。
安心した俺もカリファーに話しかけようとするとカリファーが先に声を上げた。
「リー、ナコ、俺結婚することになった」
「「へっ?」」
俺とナコの声が店内に響いた。




