ナンノコトカワカリマセンネ
「ナンノコトカワカリマセンネ」
レソートの話を簡単に纏めると「店長ずるい私も綺麗になりたい」だそうだ。
昨日、ロノリアに艶々で香りのいい髪を店の女の子全員が自慢されたそうだ。理由を聞くと「それは言えないの、ごめんね」と言ってはぐらかされたそうだ。
レソートは昨日のロノリアの行動範囲から俺が関係しているはずと決めて、腕尽くで聞き出そうと早起きして待機していたらしい。
「えぇ~違うの~?」
「確かに俺は昨日薬を飲んで寝てるときリアさんが叩いてくれる役として近くにいてくれた。だから俺が関係してると思うのはしょうがないと思う。でも本当に何も知らないんだ」
「そっか~・・じゃあやっぱり店長から聞き出すしかないのか~・・」
(リアさんも面倒なことをしてくれたもんだ、ってかどんだけ嬉しかったんだよ!)
レソートはガクリと肩を落とした。
次の瞬間俺の首にはレソートの護衛剣が当てられていた。
「えっ?」
声をあげたのはレソートの方だ。なぜならレソートの首には俺の護衛剣が届きそうになっていたからだ。
「指1本分届かなかったかぁ」
「リーシェ?あんたあの薬でなにをみたの?」
「俺の正しい使い方かな」
「納得いかない」
そういうと剣をしまい少し離れて、頬を膨らましてレソートは睨みつけてくる。
しばらくそうしてると、面白くなさそうにレソートは話し始めた。
「これでもうウチが教えられることないよ、あとは自分で使い方を考えろって話だったんだけどリーシェはもうそれもわかってるみたいだしね」
「師匠の教え方がよかったからな、修行楽しかったよ」
「ウチはもう少しリーシェと修行したかったんだけどなぁ~」
「自分を知っただけで俺はまだまだだよ、だから何かあったらまた頼むよ!黒パンtじゃないレソちゃん師匠!!」
「ふぇ?」
レソートは後ろを向いてゴソゴソとなにかを確認すると、頬を赤くして若干涙目になりながらこちらに向きなおした。
「リーシェ・・覚悟はできてるよね?」
次の瞬間、俺の視界にはスカートの中の黒いパンツと引き抜かれる護衛剣が見えた。
レソートは右手で護衛剣を持つと最短距離で俺に突き出してくる、狙いは首。
(最速で抜刀して最短最速で首をガードしないと間に合わない)
俺はすでに動いている、左手で抜いてそのまま樋の部分でレソートの突きを受け止める。
(マジかよ・・)
確かに突きは受け止めた、しかし完全に意識の外から護衛剣が飛んできて俺の首の左側をかすめて、すでに俺の後方へと過ぎていた。
(スカートの中には1本しかなかったぞ・・どっから出しやがった・・)
「切られてから気づいたんじゃ遅いよ、リーシェはやっぱりまだまだだな~」
悪戯に笑いながら護衛剣を拾いあげるとレソートは振り返る。
「また何かあったらこのレソちゃん師匠を頼りなさい!」
そう言ってレソートは地下を出て行った。
「指1本どころじゃなかったな・・」
俺は一人呟くと護衛剣の持ち替えの修行を始めた。
夕暮れ前、ロノリアの店が準備で忙しくなる前に俺はロノリアの部屋に行く、そこから門を使って家に帰るように躾けられたからだ。
部屋に入るとロノリアが準備をしていた。
「おかえりなさい、修行終わったんだって?」
「ただいま、もう聞いてたんですね。おかげさまで合格しましたよ、その後すぐに完敗しましたけどね」
「いつここをでるつもり?」
「明日にでも出ようかと思ってます」
「わかってると思うけどここを出たらもう引き返せないわよ?」
「やると決めたんです、必ず生きて。今度はまた客としてきますよ」
「そうね。その時はまた私がお相手するわね」
「楽しみです、では今日は・・・あっそうだリアさん」
「なに?」
「砥石ってありませんか?明日のために気合いれたいんで」
「砥石ならここにあるわよ、修行の最初の日に買っておいたんだけどレソちゃんに打ち合いはしないって言われたから・・」
「貰ってもいいですか?」
「元々あなたの為のものだもの、お好きにどうぞ?」
「では遠慮なく貰っていきますね、おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
門を通ってから俺は倉庫に向かった。
護衛剣を砥ぐ、全神経を集中して1回2回と刃を滑らせる。
終わって倉庫を出るとは夜になっていた。
俺は庭で砥いだ護衛剣を抜く、あの犯罪者面兄弟はあの時俺を背後から襲う気でいた。
相手の兄の方は隠密を使う、気配を探るのは不可能に近い。しかし襲ってくる場所がわかってるなら気配はなくてもなんとかなるはずだ。
素早く振り返りながら剣を振る動きや背を向けたまま背後に剣を突き出し隙なく振り向く動きなど背後への対応として思いつくだけの動きを確認する。
その演武のような動きは深夜まで続いた。
翌朝、俺は久しぶりに偽装皮膚をつけてから全身に包帯を巻く。巻きながら今日の行動を考える。まず冒険者ギルドの前を通って大通りで買い物。そして日の暮れるころこの街で最初に門を開いた人気のない裏路地に向かう。
もしかしたら今日やつらに俺が見つからないで俺の一人相撲になるかもしれない、しかし気は抜けない。なにか1つでも失敗したらそれは死に繋がる。
心臓が痛いほど高鳴る。死ぬかもしれない恐怖、それだけならもう何度か経験した。
でも今回は1つ違う。それは―
(俺は今日人を殺すかもしれない・・・)
目を背けることは出来ない。死なないために殺さなきゃいけない。捕縛を諦めて殺す基準、それを見誤ってはいけない。捕縛がほんの少しでも難しいと判断したら殺す、武器を持っていたら殺す、殺されないために殺す、殺す、殺す。
覚悟を決めて門を出るとそこにはロノリアが立っていた。
「お見送りいたします。お客様こちらへどうぞ」
「お客様なんて呼ばれたのは初めてですよ、来た時から名前で呼んで俺を弄んだ癖に」
俺の憎まれ口を無視するようにロノリアは先導する。
そして入口の狭い空間に着くとレソートが受付に座っていた。
レソートはこちらを見ると立ち上がる。
「お客様、当店のサービスは満足いただけたでしょうか?」
「えぇ、楽しませてもらいましたよ」
「それは重畳。よろしければまた当店をご利用くださいませ、従業員一同お待ちしております。」
そういうとレソートは深く頭を下げた。
俺は小さく「ありがとう」と呟くと店の外に出た。
街は10日前となにも変わらない活気に満ちていた、でもなぜだろう少しだけ寂しいようなそんな感じがした。




