え?天使?
「え?天使?」
目覚めた俺の目の前には白いバスタオルを巻いただけのロノリアが椅子に座ってこちらを見ていた。風呂上りにしては火照った様子はない。普段のメイクが落とされた素顔は少女と言っても差し支えない顔立ちをしていた。
露出している白い肩はそれだけで普段のイメージする彼女とはかけ離れた華奢な雰囲気を醸し出していた。
「おかえりなさい。いつまで見ているの?」
「いや、そんな恰好でいられたら見るのが礼儀かと」
上半身を起こしながら俺は答えた。
「仕方ないじゃない?せっかく綺麗にしたのに勿体なくて着てきた洋服なんて着れないわよ」
「じゃあしばらくそのままで?」
そういうと俺は再び視線を落とした。久々に頭の中にアナウンスのようなものが響く。
『眼力スキルを習得しました』
(えろのちからってすげー!)
「うーん、でもリーシェくんがいればまたお風呂入れるわよね?なら今日は我慢して着ることにするわ」
そういうとロノリアは立ち上がり部屋の扉に向かった、ガッカリ半分ホッとしたの半分で視線を自分の手のひらに向けた。
(霊格の力・・・試したい!)
興奮をおさえきれず2つの開いた手のひらを何かを掴むようにグッと握った。
その直後バサッという音がする、本能的に音の方を見ると部屋の入り口に落ちた白い布の塊そして―
(しr・・・いやこれは桃だ・・・白桃に違いない・・・)
その天国への門はすぐパタンと音を立てて閉じてしまった。
興奮をおさえきれず2つの握った拳を頭上に掲げた。再度頭の中にアナウンスのようなものが響く。
『眼力スキルの熟練度が上がりました』
ロノリアは服を着て戻ってくると仕事の準備があるので「今日は」帰るとという。
(さっきも言ってたけどまた理由つけて押しかけてくる気なんだな・・)
それと髪と肌を見せびらかしたいのか、今日は客を取るから部屋には出ないように言われた。
いつも思っているのだが、俺の異空間ハウスの出入り口を地下の修行部屋にしてはダメなのだろうか?そんなことを考えながらロノリアを見送った。
俺はすぐに家には入らず倉庫へと向かった。
(恩恵の強さってやつの実験をするか)
なんの加工にも使えない倉庫転送の実験で拾った握りこぶしサイズの石をいくつか用意した。
第1実験、石に名前を書いて、なにもしていない同じサイズの石とぶつけてみる。
結果、1度目の衝突で名前を書いていない石が砕けた。
第2実験、名前を書いて1度だけ形を整えるイメージで砥ぐように削った石と名前を書いただけの石をぶつける。
結果、3度目の衝突で名前を書いただけの石が砕けた。
―どれくらい手間をかけたか手を加えたかで恩恵の強さが変わること―
詳しいところまでわからないけど、なんとなく体感できたのでいいことにした俺は護衛剣を取り出した。
(少しでも手を加えれば俺の恩恵が宿る、俺が俺の恩恵の宿ったものを使うと使いこなせる。それなら・・。)
俺は護衛剣の柄と鞘の部分に石ナイフで名前を彫った。
試しに剣を鞘にもどして修行でいつもしている抜刀をしてみる。
剣がまるで自分の一部になったような感覚、いつもなら抜刀しながら刀身に触れないようにと反射的に動く身体が動かなかったのが自分でもわかった。
つぎに右手から左手へ投げるようにして行う持ち替え。
普段は投げるようにと言ってもほとんど離れていないような幅でやっているが、感覚的にできる気がして肩幅程度の幅で試してみる。いつもより持ち替えた瞬間のフィット感がいい。
(明日、ロノリアさんに砥石を貰おう)
俺はこの後も靴や服、など身の回りのありとあらゆるものに目立たないよう名前を書いた。
(子供の頃よくものを失くすから親にこんなふうに色んなものに名前かかれたっけな・・)
そんな思いでに浸りながら、作業を終えた俺は家に戻り夕食を食べた。そして若干興奮した気持ちで、すでに湯の張られた風呂にはいって眠れない夜をすごしたのだった。
(ひ、昼間あの薬で寝たから眠れないだけだから!勘違いしないでよね!!)
翌朝、いつもより少し遅めの時間に目覚めた俺は少し足早に門をでて地下へ向かった。
地下の扉を開けるとそこにはいつもならまだいないはずのレソートが待ち構えていた。
「ふふふ、待ってたよーリーシェ~」
両手をこちらに向けわきわきと動かしながら近づいてくるレソートに嫌な予感しかせず俺は扉を閉じた。
「ちょ、なんで閉めるの!?リーシェ!!」
「いや、嫌な予感しかしなかったから」
扉の向こうから響く声に反射的に扉を抑えると、向こう側から必死に扉を開けようとする力が伝わってきた。
「話くらい聞いてくれてもいいでしょ!?師匠よ!?ウチ師匠よ!?」
「だったらちゃんと話せよ!どう見ても話す前に実力行使しようしてただろ!!」
「話すから!なにもしないでちゃんと話すからここ開けてよ!」
「話聞くだけなら今この状態で十分できるだろ!開けるのはそのあとだ!」
扉越しの攻防は半刻ほど続いたという。




