俺の気持ちなんて関係ないんだな・・
「俺の気持ちなんて関係ないんだな・・」
いつものように騒がしい大通りを歩きながら俺は呟いた。
俺1人の心が穏やかじゃないからと言っても街がそれでどうこう変わることがない。
俺1人がいてもいなくても世界は回ってる、まして俺は余所者。いてもいなくてもそう変わらない。
(でも俺は死ぬわけにはいかないんだ)
大通りでの買い物は多少ぎこちなかったかもしれない、顔を包帯で覆っていなければその緊張、恐怖、意地が混ざり合った表情は誰もが異様と思っただろう。
覚えかけの表情隠匿スキルではどうしようもないほどの感情が俺の頭の中を支配していた。
大通りでの買い物は前回と同様食料を買った、備蓄はまだあるのだが買い物しているところをやつらに見せつける必要があった。だから少量ずつではあるが多くの店を回った。荷物は手提げの布袋に入れいつでも手放せるようにしていた。
まだ昼下がり、だいぶあちこち歩いた気がするが今日は時間が立つのが遅い。
ロノリアの助言で後ろを気にしたり急に振り返ったりしないように念を押されていた。聞いたときは当たり前だろうと鼻で笑っていたが今になって思う。
(リアさんが言葉にしてくれてなかったら絶対振り返ったりして警戒してるのばれてたな)
次にレソートの言葉を思い出す、俺は囮、囮役は演技しないことを演技するように。
緊張状態で自然体でいるということはとても難しい。自然にと意識すれば意識するほどぎこちなさが出てくる。だから自然にしてる自分の演技をすると意識した方がいくらかマシということだった。
(助けられっぱなしだ、これが終わったら二人を家に招待して晩飯でもご馳走しよう)
そんなことを考えていると少し気持ちが軽くなった。
俺は日が傾くまで大通りを歩き回った。昼に比べると通りを歩く人は減った気がする、けれど喧騒は増していた。夜はこれからってことだろうな。
そう考えながら俺は大通りを出た。
大通りから出ると急に足取りが重くなった、覚悟を決めたと言ってもまだまだ恐怖がある。
背後に全神経を集中させ、どんどん大通りから離れる。
目の前にはあの日門を開いた人目につかない裏路地。
(よしいくぞ!えっ・・!?)
心で気合をいれて路地に入ろうとすると、その先にはやつらの片方がいた。退屈そうに欠伸をしてなにかを待っているようだった。
(やつらからしたら俺はここで消えたように見えてる!!だから待ち伏せしてたっていうのか!?)
頭の中がごちゃごちゃになる、俺は背後から襲われると思ってその対策をしていた。
襲われたから返り討ちにした。ということでなくてはいけないのだ。
しかし目の前のいる自分の命を狙う男は、演技なのか素なのか俺には敵意がないように見える。
もしあれから数日も姿を消した俺を襲うのを諦めていたら?
いやここでこうして待っている以上俺は狙われている。
でももし本当に俺のこととは関係なく偶然ここにいただけなら?
だとしても1度は確実に狙われている、殺してしまえば襲われたと嘘をついても誰もなにもいえない
でもそれなら俺はただの殺人犯になってしまう
葛藤の中俺は裏路地に足を踏み入れる。あの男はこちらに気付いたようだ。
ニヤリとした表情で俺を見ていて、腰にある剣に手を伸ばしている。
(よかった・・)
俺はその男の喉を護衛剣で一突きにした、最速で剣を抜き、そのまま瞬時に懐に飛び込むような突き。修行のときよりは少し遅かった、力んでいたしかし確実に殺した。殺せた。
するとほんの一瞬放心した俺の背後から怒声と共に熱気が迫ってくる。
振り返るとそこには炎の球がこちらにまっすぐに飛んできていた。
「貴様!!よくもアマロを!!」
(後ろにもいた、しかもこれって魔法か!?)
俺は飛び込むように地面に伏せてその炎の球をよけ、すぐに体を起こしてもう一人の盗賊の男に目を向けた。
「よくも!よくも!大事な兄弟を!!殺してやる!!」
右の手のひらをこちらに向けて何かを唱え始めた。
(また魔法か!)
狭い路地では左右に避けることはできない、さっき回避できたのは炎の球が上ずっていたからでまっすぐに来られたら回避は不可能。
(いや、避けれる!!)
2度目の炎の球が俺に向かって飛んでくる、路地の壁に背を付けると助走をつけてそのまま逆の壁に駆け上った。できるとわかってた、おそらく靴に名前を入れていたおかげだ。
「日本人が異世界で最初に遭遇する盗賊に負けるわけないだろうが!!」
大声をあげながら、そのまま壁を走り盗賊の男との距離をつめて右腕を切り落とした。
盗賊の男は奇声をあげてのたうち回った。
俺が止めを刺そうと近づこうとすると、足音に反応して男はこちらを睨みつけて大声をあげた!
「なんで殺した!!俺達はまだなにもしていなかっただろうが!!」
「今まで奪って殺してきて、俺のことも殺そうとしておいて自分が殺されそうになったらそう言うのか?」
「仕方ないだろ!!殺さないと!!奪わないと俺達が食えなくなる!!」
「じゃあお前を殺さないと俺が生きていけないから殺してもかまわないな?」
「違う!!そしたら俺が死ぬだろ!!バカなのか!!」
「もういい殺す!」
「やめろ!!俺が死ぬんだぞ!?この街が、国が、世界がどうなるとおもってやがる!?」
「お前が人を殺した次の日それは変わったか?人1人死んだくらいでなにも変わらないただそいつがいなくなるだけだ。知らなかったのか?」
「やめろ!!やめてくれ!!助けてくれ!!もう何もしない!!おとなしく捕まる!!今までのことも全部謝るだから!!」
「お前は・・お前らはいままで襲った人間が命乞いをしたら助けたか?それとも笑ったか?」
「やめてくれ!!やめてくれえええええぇぇ!!」
俺は男に見えるように剣をゆっくり剣を振り上げた。
その時背後から笛のような音が複数聞こえ、衛兵らしき人達が駆け寄り槍をこちらに構えて叫ぶように問いかけてきた。
「そこでなにをしている!?」
俺は剣を下しその場に投げ捨て、返事を返した。
「襲われそうになったので返り討ちにしました」
「本当か!?」
衛兵達は俺が武器を捨てたのを確認すると近寄ってきて数人が俺を取り囲んだ。
残りは盗賊の男の方へ行き、話を聞き始めた。淡い光が見える、回復魔法をかけているようだった。
「どうしたんだ?」
「あいつが金を持ってるから奪って殺そうとした。そしたらあいつ弟を殺しやがった!だから殺してやろうとしたら手を切られて俺のことも殺そうとしやがったんだ!!」
真犯人でも突き付けるような勢いで俺を睨みつける盗賊の男。
衛兵達はその話を聞いて俺への包囲を解いてそのうちの一人が話しかけてくる。
「疑ってすまない、その剣はもう拾ってくれて構わない」
「いえ、あの状況みたら俺が殺人犯に見えるのは当たり前です」
「彼らの身元を調べたりしなければならないな。懸賞金のかかった盗賊なら報酬がでる、それに君にも話をきいておきたい。同行してもらえるかな?」
「同行は大丈夫ですよ。でも残念ならがらそいつらは懸賞金がかかってません」
「彼らを知ってるのかい?」
「とある人物から俺がヴェルマ兄弟に狙われている、と忠告を受けていたのできっとそいつらでしょう」
「ヴェルマ兄弟か・・」と衛兵が呟くと、俺についてくるようにと言って路地を後にした。
おれは衛兵の背中を追うように歩きながら、頭の中に盗賊の男の声を思い出していた。
(なんで殺した・・・か)
狙われていた。俺を殺そうとしていた。殺される前に殺した。いろいろな理由が思いつく。
でもあの時確かに俺はあいつが剣に手を伸ばしたのをよかったと思った。
最初の男を殺した時、殺したことへの恐怖ではなく緊張から解き放された開放感と安堵する気持ちで放心したことは事実だった。
自分自身に対する恐怖に押しつぶされそうになりながら、この気持ちに整理がつくまで絶対に武器振るわないと俺は心に決めた。




