0:21 メルドの森
薬草以外にも負傷者を治療する方法ーー精霊術は存在するが、高位の人しか扱えなく、また使える人は貴族や神教国が囲んでいるため
薬草による治療が一般的である。
そして、薬草を用いて治療する薬師には、資格が必要で、高難度の試験を突破しないと正式な薬師と認められない。その中でも特に突破するのが困難だと言われているのが第一級薬学試験である。この試験は、第一種医師になる為の試験である。
その第一種薬師とは、薬師の種別の呼称であり、総合的に患者を治療出来る者の事を指す。
それ以外にも身体の中、つまり内科を専門分野とする第二種薬師、身体の外、つまり外科を専門分野とする第三種薬師がいる。彼らはそれぞれ、内外と外科を専門分野とする。
そして、サーラは、その最難関の第一級薬学試験を突破した者である。
そのサーラから手渡されたメモには数種類の薬草の名前が書かれていた。
一つ目は、シラネ草-熱傷に対して効能がある.(魔物はドレットノート火山帯から来るため、火属性が多く、よく熱傷をする)
二つ目は、オトギリソウ(外傷によく効く。止血作用と鎮痛作用を併せ持つ)
三つ目は、アマチャズルの葉(滋養強壮(栄養をつけ強い体にする)の効果がある)
四ツ目は、セルナートの実-(自然治癒力を高め、通常よりも早く、熱傷や外傷を直すことが出来る) の四つである。
*** *** ***
ガンガルディアの西門から出て、ドレッドノート火山の方向へ、半刻ほど歩いたユーグとクレアは、目的地であるメルドの森へと来ていた。
目の前に広がる広大な森に、それを目にしたクレアを感嘆の声を上げた。
「これは、凄いですね。私も父と一緒に各地を回りましたが、これほど大きな森を見たのは初めてです!」
「そうなんですか……やはり、この森は大きいんですね」
「でも、どうしましょう。これ程広大な森でだと、サーラさんに頼まれた薬草を見つけられませんね」
「それは、大丈夫ですよ。自分は、小さい頃に良く母さんに連れられてここに来ましたから、自生している場所は分かると思います」
「ここにですか!? えっ、でも、サーラさん、この森は危ない場所だっておっしゃてましたけど……」
「それは、ドレッドノート火山に近い最深部ですよ。この付近なら、それ程危なくないですよ! ここ付近に住んでいる魔獣も、余り強くありませんから。まぁ、本当ごく稀に、今の自分でも戦ったら相当厳しいぐらいの魔獣が出現しますけど、貴方は自分が、護りますから、安心してください」
「はい、頼りにしてます。ただ、私も少しは手伝えると思いますよ」
その後、二人はメルドの森へと入って行った。森の中は、入り口に近いほど明るく、奥に連れて暗くなっている
ユーグは、しばらく、森の中を見渡すと、迷いのない足取りで、進んで行った。
「こっちです。足元に注意してください」
「あっ、ありがとうございます。……これがシラネ草ですか⁉︎」
「はい、こうやって良く日の当たる場所に自生しているんですよ」
「そうなんですか〜」
クレアは、相槌を打ちながらユーグと共に薬草を摘み取った。そして、メモに記載されて量を摘み取り、次の薬草を採りに、また、歩き始めた。
そんな、ユーグとクレアの後をこっそりと追跡する人影があった。その正体はセリナだった。セリナも、よくサーラと共にこの森へと薬草を採りに来ているため、どこに何の薬草が生えているという事は既に概知である。
セリナが、ユーグ達が出てから数分後に出たにもかかわらず、彼らに追いつけたのはそのためである。
*** *** ***
ユーグ達がサーラから渡されたメモに書かれている薬草を順調に採取し、最後の薬草を採りに向かう一方で、その後を追うセリナがいた。
「でもやっぱり、クレアさん綺麗だなぁ……あの、煌びやかな白銀の髪に、透き通る様な肌、そして、完璧なプロポーション」
恋敵としてライバル視しているセリナであったが、やはりクレアは、女の自分から見ても美しく、凛とした表情は思わず見惚れてしまうほどだった。
「あんな美人の女の人がいたら、ユーグ兄だって惚れちゃうよね」
そう落ち込み気味に呟くのは、仲睦まじく、共に薬草を採るユーグ達がセリナの視線の先にいたからだ。
「でも、私は、ユーグ兄を諦めないよ……だって私の……」
そう胸中に複雑な想いを抱えながらも、その二人の後を尾行するセリナであった。
そんなセリナの背後の茂みからのっそりとヘルハウンドが現れた。
それは、巨大な犬の魔獣で、魔獣の特徴である赤い眼は、この世の全て対してを怒りをんでいるかの様な憎悪と狂気を宿し、セリナを睥睨していた。それを直に目の当たりにした彼女は、驚愕と恐怖から後退り、尻餅をついてしまった。
そして、ヘルハウンドの巨躯は、周囲の木々をバキバキと音を立てながら薙ぎ倒し、セリナの目前へと姿を現した。
*** *** ***
ユーグは、自身の背後から聞こえてくる木々の悲鳴を耳にし、背後を振り返ると、そこにはセリナがヘルハウンドに襲われそうになっていた。
「な、なんで此処にセリナが? くっ……いや、そんな事よりも」
硬直を解いたユーグは、剣の柄を掴みながら、駆けるが、それでも、彼我の距離は、20メトルも離れており、到底間に合う訳がなかった。セリナは、必死にこちらに向かって走って来てくれるユーグに、手を差し出し助けを求めた。
「助けて、ユーグ兄……ッ」
しかし、無情にも、ヘルハウンドは、爪を振り下げた。差し迫る命の危機にセリナは目を瞑り、死を覚悟した。
「セリナァァァァアア」
ユーグの叫び声が森に木霊した。




