0:13 昔話④ 酒狂いをご褒美で釣る
翌朝、サーラとジニーは朝早くに、ゼルナート商会へと赴いた。正確には、嫌がるジニーをサーラが無理やり引っ張って来たのだが。かなり早くに来たのだが、すでに商会は営業を始めており、数多くの職員がすでに出勤している。入り口から入り、正面にある受付に向かう。美麗な人間族の受付嬢に木札を見せると、迅速に対応してくれた。
「では、こちらがご依頼なされた馬と荷馬車です。⋯⋯しかし本当に御者を手配しなくてよろしいのですか?」
彼女がそう心配そうに確かめてくるのは、二人が馬の手綱を上手く操れるとは思えないからだろう。一見簡単そうに見えるが、実際はそれなりに難しく、素人が即興で出来るものでは無いからだ。
しかし、その疑惑の声にサーラが答えた。
「はい、大丈夫です。それなりには出来る様には練習していますから‼」
続けて、
「 ⋯⋯それに⋯⋯御者を雇うお金がないし」
そう小さく呟いた。
「分かりました。では、道中お気をつけていってらっしゃいませ」
「行ってきますー」
*** *** ***
ゼルナート商会を出て、宿へ帰って来たサーラとジニーは、裏口に荷馬車を止め、裏口から店内に入っていく。彼らがそうしたのは、表通りは交通量が多いため、荷馬車を表口に置くと邪魔になってしまうからである。それに、裏口の方が倉庫に近いからでもある。二人は、倉庫から、サーラが預けていた荷物を取り出し、それを次々と荷馬車の中に積んでいく。しかし、案の定ジニーは、しっかり働かない。サーラが3つ、4つ運ぶ内にようやく、1つの荷物を積み終えるぐらいの速さで動いている。その様子に耐えかえたのか、サーラは肩をワナワナと震わし、叫ぶように声を震わした。
「いい加減にしなさいよっ、もっときびきび動いて」
「ちゃんと、いい加減にやってるだろう」
そんなサーラの怒声をジニーは右から左へと受け流す。
サーラは、一瞬、さらに怒声を吐き出しそうになったが、深呼吸し、自らの気持ちを落ち着かせた。
そんな彼女に、ジニーは訝しげな表情をする。まだ、出会って数日だが、おおよその彼女の性格は分かったつもりでいたからだ。いつもなら、怒りに任せて、もっと強く言うはずだからである。
ジニーの予想に反して、怒声を飲み込んだサーラは、無言で荷馬車に登り、積み込んだ荷物から一つの木箱を見つけ、蓋を外し中身を取り出し懐にしまい込む。そして、馬車から降りて、ジニーにきびきび動くように言う。
「ジニー、もっと動いて!」
「んーだよ、やる気が出ねぇんだからしょうがねぇだろ」
「そう、じゃあこれは欲しくないのね。せっかく頑張ったご褒美に上げようと思ってたのに」
そう言って、サーラが懐からそっと出したのは、緑色の瓶だった。
「そ、それは⋯⋯」
「そうあなたの大好物のルノール産の【マタタビ酒】よ」
「ちょっと待て、なぜ俺の好物を知ってやがる。⋯⋯その事は一部の奴しか知らねえはず⋯⋯ま、まさか!」
「店の主が教えてくれたわ。これを上げとけば、とりあえずは言う事聞くって」
「野郎、人の事ベラベラしゃべりやがって」
「それで、どうするの? ちゃんと働くの? それともご褒美いらないの?」
「クソッ ⋯⋯分かったよ。やってやるよ」
「じゃあ、これとこれを運んで。終わったら向こうに置いてある大きな樽達も馬車の中に積んでおいて!」
「ハァーーッ? 冗談だろ。この量を一人で運べっていうのかよ」
そう苦言を零すジニーの目前には、大量に積まれた木箱の山と一人では到底抱えきれない様な樽が所狭しと置かれていた。
「そんなわけないじゃない。私も手伝うわよ」
そう言いながら、身近にあった小型の木箱を両手で抱え、荷馬車へと積んでいく。ジニーもご褒美に釣られ、その重い腰をやっと上げた。
ジニーとの共同作業(荷馬車への積み込み)が終わる頃には、お日様はサーラ達の真上に来ていた。
一息付き、ようやくガンガルディアに向けて走り始めた。




