0:12 昔話③ 出発準備
護衛の仕事を引き受けたジニーはサーラに質問する
「それで、いつ出発するんだ?」
「明日中には、出たいわ。今日は、旅支度をしなきゃならないから」
「そうかい、じゃあ、護衛は明日からで、いいな?」
「ええ、そうして頂戴」
そう言うと、サーラは店の主に朝食の礼を述べ、酒場から出ていってしまった。
また、ジニーもグラスに入った酒を呷り、席を立った。そして、酒場の出入り口へと足を向ける。
「さーて、俺も、出かけるとしようかね」
「旦那に会いに行くのか?⋯⋯やっぱ、なんだかんだいって、おめえもあの嬢ちゃんの事気にかけてんじゃねえか」
店の主が口にする旦那に会いに行くとは、ジニーと店の主しか知らない、闇市に行く事を示す隠語である。闇市は、金さえ積めば、非合法の代物や流通していない希少品など手に入れる事が出来る場所だ。ジニーが多少本気を出さないといけない案件のみ行く所だ。
「そんなんじゃねーよ。ただ、最近物騒な連中や高位の魔物が現れ始めたらしいからな。それに、あんなサーラを背負ったままじゃ少し危ねぇしな」
「素直じゃねーなー」
「うるせー ⋯⋯行ってくる」
そう言いい残し出ていってしまった。残された店の主は、誰もいなくなった酒場で
「まさか、あのジニーにも、気になる女ができるとはねぇー ⋯⋯今回の案件は、あいつが、あそこに行くまでのもんじゃねえはずだ。それなのに行くって事は⋯⋯」
そう独りごちた。
その時の表情は、まるで面白いものでも見つけたかのようなニヤニヤ顔だった。
一方サーラは、荷馬車を借りに、ゼルナート商会支部へと来ていた。
ゼルナート商会は、近年、急速に勢力を拡大している新進気鋭の商会である。主に、このドレ・スタイン帝国の首都である帝都に居を構え、この町やガンガルディアのような大都市には必ずと言っていい程、支部を持っている。商会は、荷馬車の貸し出しを行っており、返却も、借りた場所ではなく、支部がある所ならどこでもいいという仕組みをとっている。
受付で要件を伝えると奥の商談室に通された。
「――では、本契約の確認をさせていただきます。 荷馬車の貸与期間を一週間ほどとし、支払いは、ガンガルディア支部で行う。また、こちらの【千年桜の苗】を担保にするという契約でよろしいですね?」
「⋯⋯⋯⋯」
「あの、聞いてますか?」
「⋯⋯あっ、はい。それで大丈夫です」
「では、こちらの書類にサインをーー。⋯⋯私の顔に何かついてます?」
彼女が、話の途中でそう尋ねるのは、サーラが彼女の顔(正確には、頭に付いてる猫の耳だが)を凝視していたからである。
「す、すみません。ただ、初めて獣人の方を目にしたものですから」
「初めてですか?⋯⋯ああ、そういえば、サーラさんはガンガルディア出身でしたね。確かにあそこの住人の方々は全員、人間族でしたね」
本来、このドレ・スタイン帝国は獣人が治める国である。また、獣人至高主義の国であるため、人間族を除く、他の種族は、在住していない。人間族に関しても、住める町は決まっていて、ガンガルディアの様な他国との境界線付近でしか許可されていない。帝都に近づく程、人間族の割合は減っていく。
一言に、獣人族と言っても、その中身は多種多様な種族が存在し、代表的なものとして、猫人族
・狐人族・犬人族・猪人族がいる。
「はい、そうです。 ⋯⋯あのー、失礼かと思いますが、その耳って本物なんですよね?」
「もちろんです。なんなら、触ってみますか?」
「えっ、いいんですか」
「はい、大丈夫ですよ。さぁ、どうぞ」
そう言ってサーラの鼻先にずいっと猫耳を差し出してくる。おそるおそる、触れるサーラ。触られた彼女は、一瞬ビクッとした。
「どうですか?」
「ふさふさしていて、気持ちいいです。肌触りも滑らかで」
「ありがとうございます。⋯⋯それでは、サインしてもらってよろしいですか?}
「はい」
「それでは、確かに承りました。では、出かける際に、こちらの木札を受付にお見せください。馬と荷馬車を用意してくれますから」
「ありがとうございます。では、失礼します」
「こちらこそ。旅路を無事に終わられる事を心からお祈り申し上げます」
「ありがとうございます。 では」
「はい、またのご来訪、心よりお待ち申し上げております」
こうして、ガンガルディアに帰る準備は整った。
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