0:11 昔話② 酒狂いとの契約
翌朝、サーラはいつよりも遅く起きた。寝間着から普段着に着替え、身支度を整え、一階の酒場へと向かう。しかし酒場は、営業してなかった。どうやら、この酒場は夜限定で開く店だったらしい。
階段をゆっくり降りるサーラに気付いたのか、店の主が顔を上げ、声を掛けて来た。
「おはよさん、昨日はよく眠れたかい?」
「はい、おかげさまで、頭がスッキリしました」
「それはよかった。⋯⋯そうだ、朝飯食ってくか? 無料で食わしてやるよ」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、昨日、俺の旧友があんたに迷惑かけたろ、その詫びって事でな」
「馬鹿⋯⋯ですか?⋯⋯それって誰の事ですか?」
「誰って、ジニーの事だよ。 あー、そっか。おめえさんそういや隣町から来たんだっけ。なら分からねーよな。ほらっ、昨日、このカウンターでおめえさんに絡んできた酔っ払いがいただろ。あいつがジニーって奴だ」
「あの人があのジニーさんなのですか?」
「あ、ああ たぶんおめえさんが知ってるあのジニーだ」
サーラと店の主が言うあのとは、ジニーの通り名の【酒狂いのジニー】の事だろう。
その名が示す通り、ほぼ一年中酒を飲んでいる。そのため、周りからは失笑や侮蔑を込めてその名で呼ばれている。しかし、彼はその蔑称を意に返さず、いつもの様に酒を飲んでいる。
また、不思議な事に、あれほど毎日の様に飲んでも一向に彼が破産しないのだ。一応、護衛という仕事をしてるが、その仕事ぶりは、彼に護衛の依頼をした依頼者の評価はすべて最悪というものだった。そんな彼の酒代がどこからくるのかは世の中の大半の人は誰も知らない。
それが彼に対する世間の認識だった。しかし⋯⋯店の主は、周囲に人の気配が無いことを確かめるとサーラに呟くように、囁いた。
「⋯⋯が、それは、真実じゃねぇ。ほんとのあいつはーー」
続きを、言おうと店の主が口を開こうとした瞬間。昨夜、そのジニーが運ばれた部屋の扉がバンッと音を立て開け放たれた。そこから現れたのは、
「あ~~ 頭痛え、昨日は飲みすぎたな」
件のジニーだった。頭に藁をくっつけながら、おでこを押えながら、こちらに向かって歩いてくる。衣服はよれよれで、まだ酒気を纏ってる。
「マスター、酒」
「うるせぇ、これでも被ってろ」
そう言って冷水をジニーの頭にぶっかけた。
「つ、冷た。⋯⋯何しやがる。おかげで酔いが覚めちまったじゃねーか」
「ほら、おめぇさんに客だよ」
「あぁ、客だー?」
そう言って隣に座ってるサーラに目をやる。しばらく互いに見つめ合った後、ジニーが主に向かって言い放った。
「マスター、ついにボケが始まったか? 客なんてどこにいる?」
「何言ってやがる。目の前にいるだろうが」
「目の前って言ったてな、お嬢ちゃんぐらいしかいねーぞ」
そうお嬢ちゃん呼ばわりされたサーラは我慢ならず、声を荒らげる。
「お嬢ちゃんじゃない、サーラよ。それにあなたと、あまり年は変わらないと思うけど」
「そう言われてもなー、その容姿じぁな⋯⋯」
「容姿についてはあなただけには言われたくないわよ。⋯⋯あなた、本当に護衛なんて高度な仕事出来るの?」
「出来るぜー」
「どうだか、本当は誰かの手柄を横取りしただけなんじゃないの? ⋯⋯こんなあなたに護衛の仕事を頼むなんて馬鹿なお客さんもいたのね」
そうサーラが口にした瞬間、ジニーの纏う空気がガラッと変わった。それまでの軽薄さはどこに行ったのかその表情は真剣そのものだった。
「俺を馬鹿にするのはいいが、俺の客を馬鹿にするのは誰であろうと許さないぜ⋯⋯」
「だっ、だったら、その他の依頼者が馬鹿じゃなかったって事を示してみなさいよ」
「⋯⋯分かったいいだろう。お前の護衛、引き受けてやるよ」
こうして、サーラの復路の護衛はジニーに決まったのでした。
評価していただけると今後の励みになります。また、直す個所などがありましたら、感想にてお願いします。参考にさせていただきます。




