0:10 昔話① 出会い
ユーグとクレアが院の中に入ると、ちょうどサーラに出くわした。
「ようやく来たのね⋯⋯って、何でそんなに泥だらけなの?」
「子供たちが、抱き着いてきてそれで⋯⋯」
「そうだったの、じゃあ、お風呂に入って来たら。服は貸してあげるから。⋯⋯クレアさんもどう?一日中、外を出歩いていたのでしょう?」
「はい、私も入りたいです。少し汗を掻いてしまったので」
「自分は、やめとくよ。護衛が出来なくなるから。ただ、着替えの服を貸して欲しい」
すると、サーラはため息をこぼしながら、ユーグに、諭すように言った
「ハァーー、あなたは真面目過ぎるのよ。いくら仕事熱心だからってそんなにいつも気を張っていたら、体が持たないわよ。⋯⋯少し、昔話をしましょう。」
そう言って話始めるのは、サーラがまだ少女だった頃の話。
隣町に用事があり、サーラのみで行かなければならなかった。また、隣町までの道中では魔物が頻出していた。往路(行き)は、その隣町に向かう行商人の隊列--行商人はその職業から、盗賊や魔物に襲われやすく、危険なため、多くの場合は、傭兵に年間契約で護衛をしてもらってる--に同行させてもらい事なきを得た。
用事を終え、いざ元の町に戻ろうとするが、未だに魔物が頻発しており、護衛無しでの復路(帰り)は困難であるため、護衛を雇うことにした。しかし、当時は、余りお金を持っていなく、斡旋所にいくが、そんな少ない依頼料で受けてくれる所はないと断られる。他にも、色んな人に当たってみるがすげなく断られる。
宿に帰り、一階の酒場で酒を飲みながら店主に向かって愚痴をこぼしていると一人の男が近づいてきた。
「ヒック、おめえさん、護衛してくれる人を探してるだって~~ なんなら俺がしてやろうか」
「いえ、結構です。そんなに酔っぱらてる人なんかに頼みたくないです」
「おいおい、お嬢さん。見た目で判断してはいけないってお母さんにいわれなかったのかい?」
「そうですね。すみませんでした。では、酔ってないのですね」
「うぃ~、酔ってねー うっぷ 酔ってねぇよ~だ」
「酔ってるじゃないですかっ!」
「そんな事より~、おめえさん護衛が必要なんだろ? 俺はこう見えても結構強いぜ~」
「なんだよ、その目は、さては信じてねぇな~」
「だって⋯⋯」
サーラがそう言い淀むのも無理はない。目の前に佇んでいる男は、一応、腰に長剣を携えているが、片手にはお酒が入って瓶を持ち、その身につけている服や吐息からはおびただしい酒気が漂ってくる。ふらふらと千鳥足で歩く様子を見ていると、その腰に携えている長剣に意味はあるのかと思ってしまう。
そんな事を思ってると突然、後方でガシャンとグラスが落ちる音が聞こえ、怒鳴り声が聞こえた。
「あぁっ、もういっぺん言ってみろ、このチビザル」
「ああ、もう一回いってやる。このゴリラが」
「てっ、てめ~ ぶっ殺してやる」
そう言うと、大柄の男が卓上にあったまだ空けてない酒瓶をそのチビザルと呼んだ相手に向かって投げた。しかし、それは相手にひょいと避けられてしまう。そして、その酒瓶が向かう先にいたのは、サーラだった。咄嗟の事に体を硬直させてしまい回避する事が出来ず、目を瞑ってしまう。しかし、一向に酒瓶が当たる気配がない。不審に思い、うっすらと目を開けるとそこには、空いた手で、酒瓶を掴んでいる酔っ払いの姿があった。彼は、瓶を掴んだ反対の手にある空瓶を投げ捨て、手にした酒瓶のコルク栓を口に咥え、抜いた。酒を仰ぎながら、未だに喧嘩を止めない二人に近づいていく。
「よぉ~御二人さん。どうしたってんだ~そんなに顔を赤くしてしまって」
「なんだ、てめ~。関係無い奴はすっこんでろ」
「関係なくは無いぜ~。なんたって俺ら親友だろ!」
そう言いながら気軽に大柄の男の肩に手を置き、酒をあおる。
「何言ってんだこの野郎。寝言は寝て言え。だいたい今日初めて会ったじゃね~か」
「気にするなよ~。些細な事だぜ、うぃ~~」
「ああっ、うぜぇな もう寝てろよ」
そう言い放ち、男は、肩に置かれた手を振り払い、酔っ払いに向かって右フックを放つ。しかし、酔っ払いが後方にふらついたため、むなしく空を切る。そして、男が正面を向くと、今度は前にふらついていきた酔っ払いの頭突きが顔面に突き刺さる。その痛みに思わずのけ反ると、顎を酔っ払いの足が穿ち、その衝撃で、男は宙を舞った。どうやら、酔っ払いも頭突きの反動で後方にこけてしまい、その時偶然、足が上がってしまい、その足が男の顎に直撃したようだ。脳天に響く衝撃に彼は、意識を手放した。
余りにも一瞬の出来事に周囲は呆然とするが、チビザルと呼ばれた小柄の男がいち早く、我を取り戻し、起き上がった酔っ払いに殴りかかる。男が放った拳は見事酔っ払いの右頬に当たり、衝撃が突き抜ける。だが、その反動で酔っ払いは一回転し、握っていた拳がたまたま男の後頭部に裏拳という形で直撃した。
この小柄の男も同じく、沈黙した。
そして、酔っ払いもまた地面に伏した。慌てて駆け寄るサーラ
「ちょ、ちょっとあなた大丈夫?」
「グゥ⋯ーガ~~」
「あ~あ、寝ちまったな、これは。おい、お嬢さん、こいつの面倒を看てやってくれ」
そう言ってそれまで飲んでいた多くの客がぞろぞろと店を出ていってしまった。
「あっ、⋯⋯ちょ ちょっと逃げないでよ」
その制止の声も聞く暇もなく、彼らは出ていってしまった。
サーラは、まだ酒場に残ってる人達を見回すが、全員が全員、決してサーラと目を合わせないようにしていた。やがて、彼女はため息を零し、彼をどうしようか悩んでると店の主が声を掛けて来た。
「災難だったな嬢ちゃん。まあ、こいつの事は俺に任せておけ。それよりも、もう遅い時間だぞ。見るからに若えもんがこんな夜遅くまで起きてちゃいかん。さあ、はよ寝た」
「はい、わかりました。その人の事、よろしくお願いします」
そして、二階に通じる階段へと足を掛け、登っていく。その途中、店主の方を見ると、ちょうど、酔っ払いを担いで、出口とは別の扉へと入っていくとこだった。その扉の先が気になったが急に眠気が襲ってきてので部屋に戻る事にした。こうして、サーラの怒涛の一日は終わったのでした。
6/28 酒瓶の開ける場面の修正




