芽生えた想い
体は大きくても、まだちょっとは甘えたい年頃だったりします・・・
※本作は『皇女の帰還―約束の耳飾り―』の前日譚にあたる外伝です。
※本編をお読みになってからの閲覧をおすすめいたします。
※本編よりも重い描写やつらい場面が含まれる場合があります。該当する話には、前書きにて個別に注意書きを記載いたします。
フェルネスは十歳になった。
背はさらに伸び、すでに騎士の標準を超えている。
野生の飛行魔獣を捕らえ、それを自在に操れるまでになっていた。
そして気が向くと、姉のいるアストリア王国の公爵邸を訪れるようになっていた。
ある日――
公爵邸の庭に降り立つと、ひとりの少女が近づいてきた。
「あなた、また来たの?」
カトリーナだった。
公爵夫人にどことなく似た顔立ち。
背は平均的だが、ふっくらとした体つきで、どこか大人びた雰囲気を持っている。
しかし、口調はまだ子供らしかった。
「すみません……つい。ロザーリア姉上の顔を見たくて」
フェルネスは頭をかいた。
「うふふ。ロザーリアお姉さま、本当に素敵ですものね。
あこがれちゃう。気持ちはわかるわ」
カトリーナはにっこりと笑う。
「あなた、お名前は?」
「フェルネスです」
「私はカトリーナ。よろしくね」
フェルネスは少し戸惑った。
同じ年頃の女の子と話すのは、これが初めてだった。
「あなた、背が高いけど……いくつ?」
「十歳になったばかりです」
「ええええ!? 私より三歳も年下なの!?」
カトリーナは目を丸くする。
「じゃあ私がお姉さんね。ロザーリアお姉さまの弟なら、私の弟でもあるわ。“姉上”って呼んで」
「いやです」
フェルネスは即座に言い切った。
「私の姉上は、ロザーリア姉上だけです」
「あはは!」
カトリーナは楽しそうに笑った。
「気に入ったわ。言いなりになる男の子より、ずっといいわね。お友達になりましょう」
そう言って、いきなりフェルネスの手を取る。
その瞬間――
フェルネスの胸に、今まで感じたことのない感覚が生まれた。
(……なんだ、これは)
心臓が、妙に騒がしい。
「フェルネス、来ていたの?」
屋敷の中からロザーリアが顔を出した。
「二人とも中に入りなさい」
フェルネスとカトリーナは顔を見合わせ、そのまま屋敷の中へ入った。
室内でも二人の会話は尽きることがなかった。
そんな様子を、屋敷の者たちは温かく見守っていた。
特に公爵夫人は、優しい目で二人を見ていた。
「……あの子に、お友達ができたのね。うれしいわ」
「ええ。あの子、同じ年頃の子との交流が少ないものですから」
ロザーリアも微笑む。
そこへエリアスが現れた。
「あら、お兄様。今日もお部屋にこもっていたの?」
カトリーナがいたずらっぽく言う。
「仕事だ」
エリアスはぶっきらぼうに答えた。
「ふーん」
カトリーナはあっさり流す。
「お兄様って背は高いのに、騎士になる気もないし、飛行魔獣にも乗らないのよね」
「私は高いところが苦手だ」
「ロザーリアお姉さまとは正反対ね」
そして、にやりと笑う。
「お姉さま、兄のどこがよくて結婚したの?」
エリアスは言葉に詰まった。
フェルネスも気になって、じっとエリアスを見る。
立派な体躯、整った顔立ち。
なぜこの人が戦わず、内政に専念しているのか――理解しきれていなかった。
「そこは大人の領域よ」
ロザーリアが軽く笑う。
「いずれわかる時が来るわ。今はこれでいいの」
(……姉上は、もう――)
クラウスのことは、吹っ切れているのだろうか。
「フェルネス、そろそろ帰りなさい。屋敷の者が心配するわ」
「はい」
フェルネスは立ち上がる。
「今日はお話できてうれしかった」
カトリーナが少し照れたように言う。
「ずっと話しかけたかったんだけど、勇気が出なくて……」
「こちらこそ、ありがとうございました」
フェルネスは答えた。
「また来たら、話してくれますか?」
「もちろん!」
カトリーナがぱっと笑顔になる。
「楽しみにしてる!」
「では、また」
フェルネスは屋敷を後にした。
――だが。
いつもは姉のことでいっぱいだった頭の中に、
なぜかカトリーナの姿が残っていた。
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