交わされたもう一つの約束
「一応」結婚式です・・・
※本作は『皇女の帰還―約束の耳飾り―』の前日譚にあたる外伝です。
※本編をお読みになってからの閲覧をおすすめいたします。
※本編よりも重い描写やつらい場面が含まれる場合があります。該当する話には、前書きにて個別に注意書きを記載いたします。
ロザーリアは、新品のウェディングドレスを着せられていた。
長身の彼女に合わせた丈で仕立てられたそれは、上質な生地で作られており、思ったほど補正も必要なかった。
ただ、胸元にはしっかりと綿が詰められている。
そして――
結婚相手が、あの日クラウスと共に廊下ですれ違った、あの長身の青年であることを知る。
「祖父が、申し訳ないことをした」
エリアスは静かに言った。
「この結婚は形だけだ。しばらくの間、夫婦のふりをしてほしい」
ロザーリアは複雑な思いでその言葉を受け止めた。
(やっぱり……私には女性としての魅力がないのかしら……)
エリアスは自分よりもさらに背が高く、精悍な顔立ちで、いかにも男性らしい人物だった。
(この方なら……まあ、いいのかもしれない)
そう思ってしまった自分に、戸惑いを覚える。
式には、エルドリア王太子と、第二王子となったフェルネスが招かれていた。
クラウスとの約束は果たされたのだ。
そのことに、ロザーリアはわずかに安堵していた。
――クラウスの姿は、なかった。
式は神殿ではなく広間で執り行われた。
来客の前で、二人は形式通りに愛を誓う。
そして、二人は公爵邸へと向かった。
フェルネスも同じ馬車に乗っていた。
どうしてもロザーリアから離れようとしなかったため、エリアスが笑って許可を出したのだ。
「もう九歳なのですが……申し訳ありません」
ロザーリアが頭を下げると、エリアスはやわらかく笑った。
「そなたがフェルネス殿か。話は聞いている。第二王子即位、おめでとうございます。
これから義兄となるエリアスです」
フェルネスは鋭い目でエリアスを見た。
「……僕の兄上は、クラウスになるはずだったのに」
ぽつりとこぼす。
「ひどい」
その目には涙がにじんでいた。
公爵邸に到着すると、エリアスはフェルネスの手を取り、少し離れた場所へ連れていった。
ロザーリアから見えない位置で、静かに言う。
「……本当にすまない」
フェルネスの耳元で、そっとささやく。
「だが、時が来れば、クラウス殿がそなたの兄になる」
「……本当?」
フェルネスが目を見開く。
「約束する。必ず、姉上はクラウス殿のもとへ帰す」
真剣な眼差しだった。
フェルネスはその紫の瞳をじっと見つめる。
「……もし約束を破ったら、僕はここを壊します」
「かまわない」
エリアスはわずかに笑った。
「そのときは好きにするといい」
そこへ公爵夫人が近づいてきた。
「この方は?」
「ロザーリア殿の弟君です」
エリアスが答える。
「かわいらしいので、つい連れてきてしまいました」
一瞬、夫人の表情が曇るが、すぐに穏やかな笑みに戻る。
「まあ……お背が高いこと。おいくつなの?」
「九歳です」
「まあ……」
夫人は驚き、フェルネスを抱きしめた。
その柔らかさと温もりに、フェルネスは戸惑いながらも、これまで感じたことのない感覚を覚える。
サマンサは――
“本当の母親のように振る舞うことは控えます”
そう言って、手を握るだけだった。
「お母様は亡くなられたのね。まだ甘えたい年頃でしょう?」
夫人は優しく言う。
「よければ、私を母だと思ってもいいのよ」
フェルネスは一瞬うれしそうな顔をするが、すぐに照れたように視線をそらした。
「大丈夫です」
きちんと答える。
「お二人が姉上に危害を加えない方だとわかりました。……これで安心して帰れます」
「本当にいいの?」
「はい。その代わり……時々遊びに来てもいいですか?」
「もちろんよ。いつでもいらっしゃい」
夫人は笑顔でうなずいた。
フェルネスは、初めて“自分の年相応”に扱われたことに、静かな喜びを覚えていた。
「では、失礼いたします」
フェルネスは丁寧に頭を下げた。
王太子のもとへ戻るため、飛竜に乗って去っていく。
――その直後。
「エリアス」
公爵夫人の目が鋭くなる。
「あなた、あの子に何かするつもりだったの?」
「な、なぜそうなるのですか!?」
エリアスは慌てた。
「あなた、ロザーリア王女にまったくときめいていないでしょう」
夫人はじっと見つめる。
「……もしかして、男色なのでは?」
「違います!」
エリアスは即座に否定した。
「決してそのようなことは!」
そのとき――
「お義姉さま」
澄んだ声が響いた。
銀髪に紫の瞳を持つ若い女性――エリーナが現れる。
五歳ほどの男の子を連れていた。
「城に泊まる予定だったのですが……こちらに泊めていただけますか?」
「もちろんですわ」
公爵夫人はすぐに応じた。
「実は……父が少々おかしくて、気味が悪いのです」
小声でささやく。
夫人は深くうなずいた。
「カトリーナ、少しこちらへ」
エリーナは少女を呼び寄せ、小さく折った紙を手渡す。
「ロザーリア様に、こっそり渡してちょうだい」
「はい」
カトリーナは走っていく。
ロザーリアに近づき、そっと手渡した。
「これ、エリーナ様からです」
ロザーリアは戸惑いながらも、それを受け取る。
結び目をほどくと――
そこには、きれいな文字でこう書かれていた。
――エリアスはあなたを傷つけることはありません。
叔母として、お詫びいたします――
「……?」
ロザーリアは首をかしげた。
意味は分からない。
ただ――
少しだけ、不思議な安心感が胸に残った。
そしてそのまま、初夜を迎えることとなった。
フェルネスがかわいい
そして、謎の文・・・・
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