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エルドリア国物語 ― 帰れなかった騎士と、託された命 ―  (皇女の帰還ー約束の耳飾りー 外伝)  作者: 鶴見 日向子


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託された願い

※本作は『皇女の帰還―約束の耳飾り―』の前日譚にあたる外伝です。

※本編をお読みになってからの閲覧をおすすめいたします。


※本編よりも重い描写やつらい場面が含まれる場合があります。該当する話には、前書きにて個別に注意書きを記載いたします。

その頃、エルドリア側では――


「あんまりですわ!」

ロザーリアが声を張り上げた。


「全く知らない相手と、いきなり結婚なんて!

クラウスとの婚約は、お父様も認めてくださったからここに来たのではありませんか!」


「うるさい!」

国王が怒鳴る。


「素性の知れぬ男より、本国の王族に嫁いだ方がよい。……のう、クラウス」


クラウスは、ただ静かにうなずくしかなかった。


「その代わりだ」


国王が続ける。

「望みを言え。叶えてやろう」


クラウスは一瞬考え――


ロザーリアの顔を見て、決意したように口を開いた。


「……王弟殿下の実子、フェルネス殿を、王子として扱っていただきたく存じます」


「ああ、あの子供か」


国王は軽く鼻を鳴らす。


「母親が死んだとかいう……」


「よかろう。第二王子の称号を与えてやる」


ロザーリアが息を呑む。


「ただし、称号だけだ。権力は与えぬ。王太子がおるからな」


クラウスは唇を噛みしめた。


――それでも、何もないよりはいい。


「……それで結構にございます」


「話は決まったな」


国王は満足そうに言う。

「明後日が楽しみじゃ」


そのまま部屋を出て行った。


「クラウス!!」

ロザーリアが叫ぶ。


クラウスは振り返らずに言った。


「ロザーリア……私などより、本国の王族と結ばれた方がよい」

「将来も安泰だ。王太子殿下のためにもなる」


ロザーリアは俯いた。

「……それに、フェルネスを王子にできる」


「本来なら――」


クラウスは絞り出すように続ける。

「素性の知れぬ私と、王女であるそなたでは釣り合わぬ。もともと縁がなかったのだ」

「国のために、耐えてほしい」


そして静かに言った。

「そなたは王女だ」


それだけを残し、部屋を出て行った。


ロザーリアは、その場に崩れ落ちた。

________________________________________


――王太子との対面――


クラウスが廊下に出ると、侍従が待っていた。


「王太子殿下がお呼びでございます」


案内された部屋。


そこには、銀髪に紫の瞳を持つ中年の男が座っていた。


クラウスの顔を見て――


一瞬だけ、目を見開く。


だがすぐに表情を戻した。

「……そなた、グランディル帝国の関係者ではないか?」


「いいえ」


クラウスは静かに答える。

「そのような者ではございません」


「……そうか」


王太子は小さく息を吐いた。

「妹がな。グランディル帝国に嫁いでおる。

皇帝陛下の甥である婿殿と髪の色が似ていたのでな、少し気になっただけだ」


クラウスの胸がわずかに揺れる。

――兄上は、無事だったのか。


「ところで、本題だ」


王太子が姿勢を正す。

「今回の婚約破棄の件……父に代わり、詫びよう」


深く頭を下げた。


「おやめください」

クラウスはすぐに言う。


「もともと私は、路頭に迷っていた身。王弟殿下に拾われた素性の知れぬ者です。

王女と婚約できたこと自体が、過分なものでした」


「そうは思わぬ」

王太子ははっきりと言った。


「“黒髪の魔獣”の名は、我が国にも届いている。会うのを楽しみにしていたのだ」


「……」


「安心せよ」

続ける。


「エリアスの父とも話した。式は挙げるが、夫婦にはしない」


「父は……少しおかしい」

苦く言う。


「家臣たちとも話し、近いうちに退位を促すつもりだ」

クラウスは息を呑んだ。


「それまで……待ってくれぬか?」


「……」


「ロザーリアが戻るのを」


クラウスは静かにうなずいた。


「承知いたしました」


「それと――」

王太子は声を落とす。


「亡きターシャ王妃の件、知っているな?」


「……はい」


「その子の所在は?」


「我が義父、ルドルフ様の実子として育てられております」


「……なんと」

王太子が驚く。


「それほど近くに……」


クラウスは続けた。


「今回の件の代償として、フェルネス様を王子として扱うよう願い出ました」

「称号のみ、との約束ではありますが……」


「それで十分だ」

王太子は力強く言った。


「私からも念を押そう」


「ありがたき幸せ」

クラウスは深く頭を下げる。


「では、帰るがよい」

王太子は穏やかに言った。


「偽であっても……元婚約者の婚礼など、見たくはあるまい」


「ご配慮、感謝いたします」

クラウスは部屋を後にした。

________________________________________

王太子の独白


「……あの男」

王太子はぽつりとつぶやく。


「かつて、グランディル帝国の皇帝の甥が、国境で行方不明になった事件があったな」


「はい。遺体は見つかっておりませんが、死亡とされております」

側近が答える。


「……妹が無事ならよいのだが」

王太子の胸に、疑念と不安が渦巻いていた。


アストリア王太子、後の国王はクラウスの正体に薄々気が付いています

本編では語られなかった部分です

お読みいただきありがとうございます

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