断ち切られた約束
※本作は『皇女の帰還―約束の耳飾り―』の前日譚にあたる外伝です。
※本編をお読みになってからの閲覧をおすすめいたします。
※本編よりも重い描写やつらい場面が含まれる場合があります。該当する話には、前書きにて個別に注意書きを記載いたします。
――翌月――
エルドリア国王はクラウスとロザーリアを伴い、アストリア王国を訪れた。
クラウスは騎士の正装。
ロザーリアは体の線を隠す、ふわりとしたドレスをまとっていた。
胸元には補正の綿が入れられている。
「よく似合うぞ」
クラウスが微笑む。
背の高さもあり、その姿はよく映えていた。
王宮の控室へ向かう途中――
一人の長身の男とすれ違った。
銀の長髪を腰近くまで伸ばし、精悍な顔立ち。
濃い紫の瞳が、この国の王族であることを示していた。
軽く会釈し、すれ違う。
「あの方は?」
クラウスが尋ねる。
「さあ……初めて見るわ。騎士ではないわね」
ロザーリアは首をかしげた。
「合同訓練で見ればすぐわかるでしょうけど……あの背ですもの」
「準備はいいか」
エルドリア国王が振り返る。
「婚約の報告だけだ。すぐ終わる。失礼のないようにせよ」
――こういう時だけ、外面がいい。
だが本来の目的であった王女は、すでに他国へ嫁いでいた。
そのため、機嫌は最悪だった。
やがて名を呼ばれ、謁見の間へ。
アストリア国王は、老いていた。
どこか焦点の合わない目をしている。
そして――
「その娘、我が孫の嫁とする」
唐突に言い放った。
「孫が気に入ったようでな。あれは長らく女に興味を示さなかったが……『よい女性だ』と言っておる」
「これを逃せば、二度と機会はなかろう」
場が凍りつく。
エルドリア国王は一瞬目を見開き――
「なんと光栄なご縁」
すぐに頭を下げた。
「ロザーリア、感謝を述べよ」
「お待ちください。私はクラウスと――」
その言葉を、父が遮る。
「アストリア王家に嫁げるのだぞ。これ以上の幸運はない」
低く言い放つ。
「クラウスのことは忘れろ」
クラウスは息を呑んだ。
相手は本国の国王。
逆らうことはできない。
「……ロザーリア王女」
静かに言う。
「おめでとうございます。私は身を引きます。どうかお幸せに」
「待って……!」
ロザーリアの目に涙が浮かぶ。
理解が追いつかないまま――
「婚礼は明後日とする」
国王が告げた。
「エリアスは婚期を逃しておるからな」
こうしてロザーリアは、
訳も分からぬまま結婚が決まった。
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リラインド公爵家
「どういうことなのです!?」
公爵夫人が声を荒げる。
「明後日とは……あまりにも急すぎます!」
「私にも分かりませぬ」
エリアスは困惑していた。
「ただ……廊下ですれ違ったお二人を見て、仲睦まじそうで……『素敵な女性だ』と申し上げただけで」
それ以上の意図はなかった。
なぜそれが婚姻話に発展したのか――理解できない。
「お兄様が結婚しないから、こんなことに」
横から口を挟む少女。
カトリーナ――十三歳。公爵夫人の姪で、養女である。
そこへ、公爵が戻ってきた。
「兄とも話したが……無理だ」
深く息をつく。
「父上はおかしい。エリアスが見初めたと言い張っている」
「そんな……!」
「エルドリア王も受け入れている。もう引き返せぬ」
「私は見初めてなどおりませぬ!」
エリアスは悲鳴のように叫んだ。
「ただ褒めただけでございます!」
「……もう遅い」
公爵は目を閉じた。
「婚約の挨拶に来ていたそうだ。相手の男は身を引いた」
「孤児出身で王弟の養子。今や騎士達を束ねているらしい」
再びため息。
「……王女が気の毒すぎる」
そして言い切る。
「エリアス。これは“仮の結婚”だ」
「時期が来たら戻す。その前提で受けよ」
「決して王女に手を出すな」
「大丈夫ですよね?」
カトリーナが意味深に笑う。
「……誓います」
エリアスは静かに答えた。
エリアスと公爵夫妻登場、本編や番外編にも登場します
本編をお読みの方はここで「ああ」になるところです
お読みいただきありがとうございます




