帰りたかった
※本話には、戦死および別れに関する描写が含まれます。
ご注意ください。
※本作は『皇女の帰還―約束の耳飾り―』の前日譚にあたる外伝です。
※本編をお読みになってからの閲覧をおすすめいたします。
※本編よりも重い描写やつらい場面が含まれる場合があります。該当する話には、前書きにて個別に注意書きを記載いたします。
フェルネスは懐に指輪と耳飾りを収め、アストリア国王のいる城へ舞い降りた。
「ご報告申し上げたき儀がございます。陛下にお取次ぎを」
「国王陛下がお待ちでございます。どうぞこちらへ」
侍従に案内され、部屋へ入る。
そこには、心配で眠れなかったのであろう、顔色の悪い国王が座っていた。
「報告してくれ」
フェルネスは跪いた。
「はっ。妹殿下エリーナ様と、そのご子息レオンハルト様は、クラウスにより救出されました。
しかし残念ながら、エリーナ様が宿しておられた胎児は死産にございました。
その後、エリーナ様のご容態も優れませんでしたが、アルベルト様も駆けつけられ、現在は安定しておられます」
「そうか……エリーナは助かったのだな?」
「はい。レオンハルト様もご無事にございます。
城内も混乱は残っておりますが、反乱は鎮圧されております」
国王は大きく息を吐いた。
「胎児は残念だったが、二人が助かってよかった。……クラウスはどうした?」
その問いに、フェルネスは一瞬視線を落とした。
だが、すぐに顔を上げる。
「お二人を守るため、追手と戦い……名誉の戦死を遂げました」
淡々と紡がれる自分の言葉が、真実とは思えなかった。
まるで、誰かが書いた脚本を読み上げているかのようだった。
「クラウスが……? まさか……」
国王は絶句した。
「遺体は損傷が激しく、連れ帰ることができず……現地の墓地に埋葬いたしました」
しばしの沈黙。
やがてフェルネスは続ける。
「それともう一つ。エリーナ様に衝撃を与えぬよう、
胎児は私が連れ帰ったことにしてほしいと、
レオンハルト様より申し付けられました。
話を合わせていただければ幸いに存じます」
そう言って、懐から耳飾りを取り出した。
「これを証として預かっております」
「……わかった。それはそなたが持っておけ。
ここに置いておけば、何かの拍子にエリーナの目に触れるやもしれぬ」
「かしこまりました」
フェルネスは耳飾りを丁寧に懐へ戻す。
「後の指揮は副団長が執っております。私からの報告は以上でございます」
国王は、安堵と喪失が入り混じったような表情でうなずいた。
「フェルネス……未成年でありながら、よく務めてくれた。ご苦労であった」
「ありがたきお言葉にございます」
「疲れているであろう。公爵家に寄って休むがよい」
「ご配慮、恐れ入ります。それではお言葉に甘え、失礼いたします」
フェルネスは一礼し、部屋を後にした。
飛竜で公爵邸に着くと、玄関には執事が立っていた。
フェルネスは静かに武装を解いた。
「フェルネス様!よくぞご無事で。帝国へ出撃されたと聞き、皆心配しておりました」
執事は玄関の扉を開けると、奥へ向かって声を張り上げた。
「フェルネス様がお帰りです!」
ほどなくして、公爵夫妻、そしてエリアスが姿を現す。
「そなた……怪我をしているのではないか?」
エリアスがフェルネスの姿を見て、目を見開いた。
クラウスに肩を貸した際についた血だった。
武装の下にまで染み込むほどの出血だったのだ・・・・
フェルネスはそれに気づき、茫然とした。
「怪我ではありません……兄上の……」
そこまで言うと、その場に崩れるように座り込んでしまった。
「しっかりいたせ。何があった」
「兄上が……戦死しました……」
「クラウスが?あのクラウスが、そのようなはずがあるまい。
何かの間違いであろう?」
フェルネスは何も言えず、ただ静かに首を振ることしかできなかった。
「……いったん私の部屋へ行こう」
エリアスはフェルネスを立ち上がらせ、肩を貸そうとする。
「義兄上まで汚れてしまいます」
「よい」
短くそう言って、エリアスはフェルネスを自室へと連れて行き、椅子に座らせた。
「クラウスの最期には立ち会えたのか?」
フェルネスはこくりとうなずく。
「『帰りたかった』……それが最期の言葉でした」
その瞬間――
フェルネスの瞳から、初めて涙があふれた。
エリアスは、そっとフェルネスを抱きしめた。
「よくぞ今まで耐えた。辛かったであろう。泣けなかったのであろう?」
静かな声で続ける。
「ここで、好きなだけ泣くがいい」
その言葉とともに、フェルネスの嗚咽が漏れ出す。
「思い切り泣くがいい。誰もとがめやしない」
エリアスは優しく背をさすった。
フェルネスは声をあげて泣いた。
その声は屋敷の中にもわずかに響き、
それを聞いた者たちも、そっと涙をぬぐった。
背が高く、大人びて見えても――
中身はまだ、十四歳の少年だった。
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公爵邸にて、数週間が経過した。
フェルネスは、だいぶ平静を取り戻していた。
公爵夫妻とエリアスの気遣いのおかげであった。
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国王からも、
「十四歳の少年にはきつかったであろう。ゆっくり休養するがいい」
という言葉があった。
フェルネスは、もうすぐ十五歳の誕生日を迎えようとしていた。
「そろそろエルドリアに戻った方がよいな。ロザーリアが心配しているであろう」
エリアスが言う。
「そうですね……」
フェルネスの心は、完全に癒えたわけではなかった。
それでも、姉に夫の死をいつまでも隠すわけにはいかない。
「私も一緒に行こう。そなたから伝えるのはきつかろう。私も手助けする」
「ありがとうございます。そうしていただけるとありがたく思います」
フェルネスは、義兄の厚意に甘えることにした。
二人は公爵夫妻に事情を話し、国王の承諾を得て、一度帰国することになった。
「フェルネスは、しばらく母国にて休むがよい。
エリアス、ロザーリア王女に寄り添ってやってくれ」
国王は、クラウスを失ったロザーリアを心配していた。
二人は飛行魔獣で国境を越え、ロザーリアの住む屋敷へ向かった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
この出来事が、後の物語へと繋がっていきます。




