支え合う二人
※本話は、比較的穏やかな日常と人物関係の描写が中心となります。
※本作は『皇女の帰還―約束の耳飾り―』の前日譚にあたる外伝です。
※本編をお読みになってからの閲覧をおすすめいたします。
※本編よりも重い描写やつらい場面が含まれる場合があります。該当する話には、前書きにて個別に注意書きを記載いたします。
カイレスは三歳になった。
後から生まれた王太子夫妻の息子とも、よく遊ぶようになっていた。
ロザーリアと王太子妃アンドレアは、育児仲間としてすっかり親しくなっていた。
アンドレアは、国王の側近リチャードの娘である。
そのため、父から国王の予定を聞き出し、隙を見てはロザーリアの元を訪ねていた。
「王太子殿下は、なかなか自由に動けませんの」
アンドレアがため息をつく。
「国王陛下が、次に何を言い出すかわかりません。父と王太子殿下で、なんとか見張っている状態です」
「前はふんぞり返っているだけでしたのに、最近は妙に人使いが荒くて……」
ロザーリアも顔を曇らせた。
「クラウスもぼやいていたわ。やたらとアストリアへ使いに出されるって」
「アストリア国王陛下は、行けばきちんと休ませてくださるそうだけれど……」
「国に戻れば、何でもかんでもクラウス様頼り。あれでは体がもちません」
アンドレアは言葉を選ぶように続ける。
「いっそ、あのお話を受けられては?」
「アストリアの騎士団長に、という話ね」
ロザーリアはため息をついた。
「そうなれば、別居生活になってしまいます。
でも、このままでは本当にクラウスが倒れてしまう」
視線を落とす。
その先では、カイレスが王子たちと遊んでいた。
濃い紫の瞳。
見るたびに、ロザーリアの胸はざわつく。
「エリアスや公爵家の方々は気にしないでしょう。
けれど、周囲はそうはいきません」
「どういうことですの?」
「アストリアでは、紫の瞳が濃いほど魔力が強い証だとされています。
カイレスは……王太子殿下よりも濃いのです」
アンドレアは息をのんだ。
「将来、今の国王陛下の養子になるかもしれない、ということですか」
「ええ」
ロザーリアは小さくうなずく。
「せめて幼いうちは、私がお育てしたいのです」
しばらく、二人は黙り込んだ。
「……国王は、あれだけ不摂生をしているのに、お元気ですね」
ロザーリアは、時折、父を“国王”とだけ呼ぶことがあった。
アンドレアも苦く笑うしかない。
子供たちの無邪気な声だけが、部屋に響いていた。
「いつまでも、この平和が続けばよいのですけれど」
二人は顔を見合わせる。
「カトリーナちゃんが元気だったら、きっとこう言ったと思うの」
ロザーリアは遠い目をした。
「“お姉さま、大丈夫ですよー”って」
カイレスの表情に、ふと亡きカトリーナの面影を見ることがある。
「私は、元気だった頃のあの子にどれだけ救われていたか……」
「私が会った時とは、ずいぶん違っていたのですね」
「ええ。あの子がいるだけで、周りが明るくなったの」
ロザーリアは静かに言う。
「簡単に忘れることなんてできません。
この子を立派に育てることが、あの子に報いることだと思っています」
そして、アンドレアを見た。
「今は、アンドレアお姉さまがいてくださる。それがどれほど心強いか」
「ありがとうございます」
アンドレアは目を見開いた。
「私こそ、ロザーリア様とこうして親しくなれて幸せです。
私は元々、臣下の娘。王太子妃に迎えられただけでも奇跡ですもの」
「お兄様が、お姉さまに惚れたのですわ」
ロザーリアは笑った。
「お兄様は、人を見る目がありました」
アンドレアの頬が赤く染まる。
「ずっと、仲良くしてくださいね」
二人は、穏やかに笑い合った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
この時間が、後の出来事へと繋がっていきます。




