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エルドリア国物語 ― 帰れなかった騎士と、託された命 ―  (皇女の帰還ー約束の耳飾りー 外伝)  作者: 鶴見 日向子


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18/24

穏やかな日々

※本話は、比較的穏やかな日常の描写が中心となりますが、

後の展開に関わる要素を含んでおります。


※本作は『皇女の帰還―約束の耳飾り―』の前日譚にあたる外伝です。

※本編をお読みになってからの閲覧をおすすめいたします。

※本編よりも重い描写やつらい場面が含まれる場合があります。該当する話には、前書きにて個別に注意書きを記載いたします。

クラウスは、ロザーリアとカイレス、そしてフェルネスを連れて、町へ降りることが増えていた。


赤子を抱いた長身の三人は、庶民の服を着ていてもひときわ目立っていた。


「王族も、庶民の暮らしを知るべきだ」

クラウスが言う。


「フェルネスは、一人で過ごす時間が長すぎた」

少しだけ視線を落とす。


「……同じことを、カイレスにはさせたくない」


市場は活気に満ちていた。


「でかい兄ちゃんだなあ!魚どうだい!」


「まあ、かわいい赤ちゃん!この服どうかしら?」

次々と声をかけられる。


そのたびに――

若い女性が近づくと、クラウスとロザーリアが自然に前へ出る。


フェルネスに触れさせないように。


その時だった。


小さな子供が、クラウスの左手の指輪を掴んだ。


ぐい、と引き抜こうとする。


「やめなさい」


クラウスはその子の襟をつかみ、軽く持ち上げた。


「この指輪は外れぬ。試してみろ」


子供を下ろし、手を差し出す。


「あれ……?」

何度引いても抜けない。


「そういうことだ」

クラウスは淡々と言う。


「こういう真似はするな。相手によっては、その場で斬られていたぞ」

子供は顔を青くして逃げていった。


「……貧しいのね」

ロザーリアがぽつりと言う。


「ああ」

クラウスは短く答えた。


それ以上は何も言わなかった。


カイレスが指輪に手を伸ばす。


「これは、大事なものだ」

クラウスはやさしく言う。


「外すとしたら、私が死ぬ時だ」


「太ったらきつくなりません?」

ロザーリアが茶化す。


「これは魔道具だ」

クラウスは軽く笑う。


「サイズは魔力で調整される」

「細くなろうが太くなろうが、問題ない」


少し間を置く。

「……効果はよくわからぬがな」


フェルネスが興味深そうに見つめる。

「魔道具、あまり見かけませんね」


「エルドリアは職人は一流だ」

クラウスが答える。


「だが原料がない。すべてアストリア頼みだ」

「結果、良いものはすべて向こうに流れる」


「庶民には回っていないようですが」

フェルネスが首をかしげる。


「……そうだな」

クラウスは言葉を切った。

「この話はここまでだ」


少しだけ、空気が重くなる。


「帰ろう」

クラウスが言う。


三人は別邸へ戻った。


カイレスは二歳になっていた。


フェルネスが同じ年頃だった頃と比べると、ずっと“普通”だった。


(あの成長は……何だったのだろうな)

クラウスはふと思う。


やがてフェルネスは、アストリアの兵舎へ入ることになった。


そこでは男女の役割が厳密に分けられている。

――接触は、ほとんどない。


クラウスとロザーリアは、そのついでにアストリアで式を挙げた。


エルドリアでは、国王が最後まで許可しなかったからだ。


国王は今もなお、エリアスとロザーリアが続いていると信じていた。


現実を見ることを拒むように。


式はごく限られた者だけで行われた。


アストリア国王、公爵、エリアス、フェルネス、そして王太子夫妻。


「邪魔者は退散しますよ」

フェルネスが笑う。


「二人でゆっくりしてください」


「生意気になったな」

クラウスが額を軽く弾く。


「休暇には必ず邪魔しに帰りますから」

「覚悟していてくださいね」


「その時は私も付いて行こう」

エリアスが笑う。


「では、これで」

フェルネスは軽く手を振った。


「カイレスが待っていますので」

ロザーリアが急いで飛行魔獣に飛び乗った


「気をつけて」

エリアスが声をかける


クラウスは、三羽の飛行魔獣

王太子、王太子妃、自分のを、同時に操り、帰路についた。


「一度に三羽とは……」


公爵が呟く。

「並の魔力量ではないな」


「訳ありだろうな」


アストリア国王が答える。

「だが、詮索はせぬ方がよい」


最近、グランディル帝国の情勢が不穏だという報せが届いていた。


クラウスの姿を見るたびに――

その影がちらつく。


「……杞憂であればよいのだが」

国王は、遠い空を見上げた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


穏やかな時間は、長くは続きません。

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