残された者たち
※本話には、つらい展開および死に関わる描写が含まれます。
ご注意ください。
※本作は『皇女の帰還―約束の耳飾り―』の前日譚にあたる外伝です。
※本編をお読みになってからの閲覧をおすすめいたします。
※本編よりも重い描写やつらい場面が含まれる場合があります。該当する話には、前書きにて個別に注意書きを記載いたします。
「私が……私がいけないのでございます。もう一人、侍女を付けていれば……」
気絶させられた侍女が、泣き叫ぶ。
「いいえ、私です……。私がお止めできなかったから……」
授乳をしていた侍女も、声を押し殺して泣いていた。
「どちらも悪くはないわ」
ロザーリアが、拳を握りしめる。
「……私が油断しました」
その声は震えていた。
カトリーナの亡骸は、穏やかに微笑んでいた。
それが、残された者にとって、唯一の救いだった。
公爵夫人は赤子を抱きしめ、声もなく泣いていた。
フェルネスは、何が起きたのか理解できなかった。
「なぜ……」
かすれた声がこぼれる。
「元気になったら、一緒に遠出をしようと約束していたのに……」
「事故だ」
クラウスが静かに言った。
「カトリーナ嬢は、バルコニーでめまいを起こし、転落した」
だが――
「フェルネス殿下の婚約者が身を投げた」
その噂は、瞬く間に広がっていった。
国王は、いつもの外面の良さを見せた。
自国で療養中の本国の娘が身投げをした――そんな事実は許されなかった。
「事故死である」
「身投げと申す者は罰する」
そう布告された。
その知らせは、アストリア王国にも届いた。
「……まさか、こんなことになるとは」
国王はうつむく。
脳裏に浮かぶのは、あどけない笑顔だった。
その目に、涙が滲む。
「弟よ……」
公爵もまた、力なく言う。
「もっと早く……廃位させておけば……」
「養女とはいえ……本当の娘のように思っていた」
扉が叩かれる。
「エリアス殿が参りました」
「……通せ」
国王はかすれた声で答えた。
「失礼いたします」
エリアスは跪く。
「葬儀は内密に執り行われました」
「エルドリアでは『事故死』として処理されております」
「赤子は問題なく育っております」
一拍置く。
「お名前を頂きたく存じます」
「今後は、ロザーリアと私の実子として育てます」
「……それでいいのか?」
国王が問う。
「はい」
エリアスは迷わず答えた。
「それと同時に、予定通り、ロザーリアとの離縁の許可を願います」
「赤子はエルドリアで育てるのが最善かと」
「……あの瞳は、こちらでは目立ちすぎます」
沈黙。
「……わかった」
国王はゆっくりとうなずく。
「ロザーリアに……よろしく伝えてくれ」
「名は……どうする」
しばし考える。
「カトリーナの父の名から取って……“カイレス”というのはどうだ」
公爵がうなずく。
「よろしいかと」
「エリアス」
「異存ございません」
「では……そのように」
「しばらく後、母と共に帰国いたします」
「……頼んだぞ」
「はい」
エリアスは静かに頭を下げた。
そして、再び飛行魔獣でエルドリアへ向かった。
「我らに……弟ができるとはな……」
国王がぽつりと呟く。
「息子でも孫でもなく……弟、か……」
公爵も苦く笑う。
新しい命と、失われた命。
そのどちらもが、重くのしかかっていた。
それをどう受け止めればよいのか――
二人には、わからなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
残された者たちの物語は、まだ続いていきます。




