第18話:隙間に光るもの
光は、見ようとした瞬間に、遠ざかる。
夜は、以前より、静かではなくなっていた。
音が、増えたわけではない。
間が、増えた。
こねずみは、その間を、歩いている。
歩くたび、何かが、起こりそうで、起こらない。
その感じが、胸を、少し、ざわつかせる。
床と壁の、あいだに、細いすきまが、ある。
今まで、気づかなかった。
気づかなかった、というより、見る必要がなかった。
こねずみは、しゃがむ。
目を、近づける。
暗い。
でも、完全ではない。
すきまの奥で、何かが、ひかっている。
強い光ではない。
星でも、灯りでもない。
まるで、思い出しかけの記憶のような、あいまいさ。
こねずみは、指を、伸ばす。
触れると、少し、あたたかい。
驚いて、指を、引っ込める。
あたたかさは、残る。
胸の奥で、同じ場所が、同じように、あたたかくなる。
──これ、なんだろう。
問いは、声にならない。
声にした瞬間、消えてしまいそうだから。
夜のともだちは、遠くにいる。
近づいてこない。
このすきまは、ひとりで、見つけるものなのだと、わかる。
こねずみは、すきまを、もう一度、覗く。
光は、さっきより、弱い。
でも、確かに、そこにある。
近づくほど、見えなくなる。
離れると、また、ひかる。
距離が、必要だ。
こねずみは、一歩、下がる。
すると、すきまの中で、小さな、かたちが、見える。
丸い。
完全ではない。
欠けている。
欠けているから、ひかっている。
──全部だったら、見えなかった。
なぜか、そう思った。
完全なものは、光を、外に、出さない。
欠けたところから、漏れる。
こねずみは、そのことを、胸に、落とす。
落ちた光は、胸の中で、静かに、留まる。
持ち帰れる。
でも、持ち出せない。
今は、それでいい。
すきまは、閉じない。
広がりもしない。
ただ、存在している。
こねずみは、立ち上がる。
すきまから、目を、離す。
離しても、光は、消えない。
見えなくなるだけだ。
見えなくなっても、なくなったわけではない。
その感覚が、胸を、少し、強くする。
夜は、すきまを、塞がない。
塞がないから、光は、育つ。
ゆっくり。
気づかれない速さで。
こねずみは、歩き出す。
胸の中に、ひとつ、あたたかさを、残したまま。
それは、希望、と呼ぶには、まだ、小さい。
でも、暗闇だけではない、という証拠としては、十分だった。
夜は、その小さな光を、誇らない。
誇らないまま、隙間を、そのままに、しておく。
こねずみは、そのやり方を、覚え始めていた。
まだ、言葉には、しない。
光は、言葉より、弱い。
弱いからこそ、消えずに、続いている。
こねずみは、その続き方を、胸で感じながら、次の夜へ、歩いていった。




