第17話:重さの在り処
重さは、持ったままでも歩ける。
夜は、前よりも、少しだけ、低くなっていた。
天井が、下がったわけではない。
ただ、胸の位置に、夜が、来ている。
こねずみは、それを、息で、感じる。
吸うと、夜が、胸に入る。
吐くと、重さが、残る。
残るけれど、苦しくはない。
むしろ、確かだ。
歩く。
一歩。
床が、きちんと、鳴る。
鳴るたびに、体の中で、何かが、揃っていく。
夜のともだちは、少し、遠い。
遠いが、消えていない。
距離が、生まれただけだ。
距離は、切断ではない。
重さを、持ったまま、近づくための、余白だ。
こねずみは、自分の胸に、手を当てる。
鼓動が、わかる。
早くも、遅くもない。
ただ、続いている。
続いている、ということが、急に、ありがたくなる。
──おもい。
言葉が、浮かぶ。
思い。
重い。
どちらも、同じ音だ。
同じ音なのに、逃げるものと、抱えるものに、分かれる。
こねずみは、逃げない。
でも、抱え込まない。
重さを、置きどころに、探す。
床に、小さな、くぼみが、ある。
昔、何かを、置いた跡。
こねずみは、そこに、座る。
重さが、少し、沈む。
体から、完全には、離れない。
でも、分け合えた。
分け合う、という感覚に、胸が、ゆるむ。
夜は、重さを、奪わない。
奪わない代わりに、置く場所を、残している。
それが、この夜の、やさしさだ。
ふくろうの気配が、高いところに、ある。
見下ろしていない。
見守ってもいない。
ただ、そこにいる。
こねずみは、その在り方を、まねる。
立ち上がり、歩く。
重さは、まだ、胸にある。
でも、足取りは、遅くならない。
むしろ、少し、安定する。
重さが、軸になる。
夜のともだちが、遠くで、動く。
呼びは、しない。
それで、いい。
呼ばれなくても、進める。
進めることが、わかる。
こねずみは、小さく、息を、整える。
重さは、敵ではない。
道を、選ぶための、目印だ。
そのことを、体が、先に、理解している。
夜は、低く、静かに、続く。
こねずみは、その中で、自分の重さを、失わないまま、歩き続けた。ま
だ、外へは、行かない。
でも、戻れない、わけでもない。
重さのありかを、知った夜は、それだけで、ひとつ、進んでいた。
夜は、答えを、与えない。
代わりに、足元を、確かにしてくれる。
こねずみは、その確かさを、踏みしめながら、次の夜へ、向かっていった。




