表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜のとびら  作者: GenerativeWorks


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/19

第16話:戻らない声

呼び声は、返事をしないことで、強くなる。

夜は、静かだった。


静かすぎて、音の居場所が、なくなるほど。

こねずみは、歩いている。


どこへ、という目的は、ない。

ただ、歩けることを、確かめるように。


床は、少しずつ、硬さを、取り戻している。

足の裏に、重さが、返ってくる。


その重さが、うれしい。

でも、同時に、不安も、運んでくる。


夜の奥で、声が、した。

はっきりとした、言葉ではない。


音程も、意味も、定まらない。

それでも、呼ばれているという感覚だけが、胸に、残る。


こねずみは、立ち止まる。

耳を、すませる。


声は、もう一度、届く。


遠い。


でも、確実に、自分に向けられている。


──戻っておいで。


そう聞こえた、気がした。

でも、誰の声かは、わからない。


ふくろうでは、ない。

夜のともだちでも、ない。


もっと、外側。

もっと、古い。


胸の奥が、ぎゅっと、縮む。

こねずみは、口を、開きかける。


返事を、しそうになる。

名前を、呼び返して、しまいそうになる。


でも、声は、喉で、止まる。

返事をすると、道が、一気に、固まってしまう。


戻る道。

戻らない道。


どちらかに、決めなければ、ならなくなる。

夜は、まだ、それを、許している。


こねずみは、口を、閉じる。

声は、返さない。


返さないまま、聞く。

聞くだけで、胸が、熱くなる。


涙が、出そうになる。

でも、出ない。


涙は、境界を、越えるものだ。

今は、越えない。


声は、少し、弱くなる。

弱くなるけれど、消えない。


それが、やさしさか、残酷さかは、わからない。

こねずみは、その場に、座る。


床に、体を、預ける。

冷たさが、背中に、伝わる。

生きている、という感覚。


声は、それ以上、近づかない。

遠ざかりも、しない。


ただ、そこにある。


もどらない声は、責めない。

急かさない。


ただ、覚えている、ということだけを、伝えてくる。

こねずみは、目を、閉じる。


声を、胸に、しまう。

返事は、しない。


今は、しない。

それで、いい。


夜は、返事のない声を、追い出さない。

追い出さないから、声は、道にならない。


まだ。


こねずみは、ゆっくり、立ち上がる。


声の方向を、見ない。

見ないまま、歩き出す。


歩ける、ということは、留まっていない、ということだ。

もどらない声は、背中で、息をする。


その気配を、感じながら、こねずみは、夜の中へ、さらに、深く、進んでいった。


夜は、何も、決めさせない。


ただ、返事をしないという選択を、静かに、受け止めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ