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夜のとびら  作者: GenerativeWorks


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15/19

第15話:日々の外側

割れ目の向こうは、いつも思っているより近い。

夜の奥で、ひびは、静かに、広がっていた。


広がっている、というより、待っている。

こねずみは、その前に、立っている。


前に、という表現が、正しいのかは、わからない。

距離は、測れない。


でも、確かに、ここではない場所が、ある。

ひびの向こうから、風が、来る。


夜の風ではない。

少し、乾いていて、少し、冷たい。


胸の奥が、それに、反応する。

懐かしい、というほど、はっきりしていない。


でも、忘れていた、という感じが、強い。

こねずみは、手を、伸ばす。

触れられない。


ひびは、光ではなく、境界だ。

越えようとすると、形が、きつくなる。


胸が、詰まる。

呼吸が、少し、乱れる。


夜は、それを、止めない。

止めないことで、選ばせている。


──外に、行きたい?


問いは、声にならない。

こねずみは、答えを、探す。


行きたい。

でも、行ってしまえば、この夜は、変わる。


夜のともだちは、このひびを、越えられない。

ふくろうは、境界の内側に、留まる。


そのことが、胸に、重く、落ちる。


守られる、ということは、一緒には、行けない、ということだ。

こねずみは、ひびに、背を向ける。


一度。


それだけで、胸が、少し、軽くなる。

でも、背中が、熱い。


見られている、という感覚。

夜そのものが、見ている。


責めてはいない。

ただ、覚えておけ、と言っている。


こねずみは、歩き出す。

ひびから、離れる。


離れるほど、風は、弱くなる。

弱くなるのに、消えない。


それが、不思議だった。

風は、距離では、消えない。


記憶と、同じだ。

夜のともだちが、近づいてくる。


やさしさが、戻る。

でも、さっきより、少し、重い。


それでいい。

軽すぎるやさしさは、留めてしまう。


重さのあるやさしさは、送り出す。

こねずみは、その違いを、体で、覚え始めていた。

振り返る。

ひびは、まだ、そこにある。


閉じていない。

広がってもいない。


待っている。

こねずみは、ひびに、小さく、うなずく。


今は、行かない。

でも、忘れない。


忘れない、という約束は、夜に、ひとつ、影を落とす。

その影は、道になる。

 

まだ、見えない道。

こねずみは、その道の気配を、胸に残したまま、夜の中心へ、戻っていった。


夜は、何も言わない。

ただ、ひびの外側で、風を、止めずに、吹かせていた。

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