表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜のとびら  作者: GenerativeWorks


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/19

第19話:動き出す時間

時間は、動こうとした瞬間に、音を立てる。


夜は、まだ、夜だった。

けれど、同じ夜では、なかった。


空気の中に、わずかな向きが、生まれている。

前でも、後ろでもない。


流れ、と呼ぶほど、強くもない。

ただ、止まっていない、という感触。


こねずみは、それを、足の裏で、感じていた。


一歩、踏み出す。

床が、ほんの少し、遅れて、応える。


遅れ。

それは、時間の、兆しだ。


以前は、同時だった。

踏み出す前に、床が、そこにあった。


今は、踏み出してから、床が、ついてくる。

こねずみは、立ち止まる。


息を、する。

夜が、すぐには、応えない。


ほんの、わずか。

その、わずかが、胸を、ざわつかせる。


不安、ではない。

期待、とも、違う。


──はじまってる。


なぜか、そう思った。

はじまり、というほど、はっきりしていない。


でも、終わりでは、ない。

夜のともだちが、遠くで、動く。


動く、というより、位置を変える。


集まらない。

散らばらない。


ただ、それぞれが、自分の場所を、探している。

それは、時間が、戻ってきた、証拠だ。

時間が、あるということは、待つ、ということが、意味を持つ。


こねずみは、小さな、段差に、気づく。

今まで、なかった。


いや、あったのに、越えなくて、よかった。

段差は、低い。


でも、確かに、足を、上げなければ、ならない。

こねずみは、一瞬、迷う。


迷いは、もう、怖くない。

足を、上げる。


体が、わずかに、前のめりに、なる。

その、傾きが、心地いい。


落ちそうで、落ちない。

越えられる。


越えた瞬間、胸の奥で、何かが、かちりと、鳴る。

音は、外には、出ない。


内側だけの、音。

時間が、歯車を、ひとつ、噛み合わせた。


夜は、それを、止めない。

止めないどころか、少しだけ、後ろへ、下がる。


夜が、後ろへ、下がる。

それは、道が、前に、できる、ということだ。


こねずみは、振り返る。


来た道は、消えていない。

でも、同じ形では、ない。


少し、遠くなっている。

遠くなる、ということは、切れる、ということではない。


伸びる、ということだ。

時間は、伸びる。


戻ることも、進むことも、できる長さを、持ち始める。

こねずみは、胸の奥の、あたたかさを、思い出す。


すきまの光。

それが、今、拍動している。


小さく。

でも、確かに。


夜のともだちは、もう、こねずみを、囲まない。

並んでいる。


並ぶ、という関係は、時間がなければ、成り立たない。

こねずみは、そのことを、理解する。


理解した瞬間、少し、さびしい。

でも、同時に、少し、誇らしい。


時間は、別れを、含んでいる。

でも、出会いも、含んでいる。


夜は、まだ、続く。

でも、動きだした夜は、留める夜ではない。


こねずみは、歩く。

今度は、確かに、前へ。


時間が、その後ろを、静かに、ついてきていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ