第12話:とびらが 閉まる時
扉を閉める音は、守る決断の音だった。
音は、とても小さかった。
木がきしむ音でも、鍵が回る音でもない。
空気が、少しだけ、重くなる音。
こねずみは、それを、胸で聞いた。
夜のともだちは、何も変わらない顔をしている。
顔、というほどの形もないのに、変わらない、ということだけは、はっきりわかる。
ふくろうが、家の中央に立っている。
立っている、というより、影が、そこに落ちている。
翼は、広げていない。
目も、閉じている。
それなのに、夜全体が、ふくろうの呼吸に、合わせている。
すう。
はく。
その呼吸の切り替わりで、家の外の気配が、ひとつ、遠ざかった。
遠ざかる、というより、遮られた。
こねずみは、振り向く。
扉は、まだ、そこにある。
消えていない。
閉ざされてもいない。
ただ、触れなくなっている。
近づこうとすると、足が、止まる。
力ではない。
恐怖でもない。
「今は、違う」という感覚。
胸の奥が、きゅっと、鳴る。
ふくろうは、何も言わない。
言わないまま、翼の内側で、何かを、押さえ込んでいる。
それは、外へ向かう衝動。
呼び声に、応えてしまう衝動。
守る、ということは、応えない、ということでもある。
こねずみは、それを、理解してしまう。
理解した瞬間、胸が、少し、痛む。
夜のともだちは、動かない。
動かないことで、家の形を、保っている。
時間は、ここで、完全に眠った。
針のない時計が、それを、静かに、証明している。
──ここにいれば、もう、呼ばれない。
その考えは、やさしい。
でも、やさしさは、扉を、閉める。
ふくろうが、小さく、羽を鳴らす。
音は、合図ではない。
確認だ。
今夜、外へは、開かない。
それが、決まった。
森の外で、誰かが、名前を呼びかけた気がする。
音は、ここには、届かない。
届かないけれど、消えてはいない。
それが、一番、苦しい。
こねずみは、床に、座り込む。
膝が、少し、震える。
夜は、守ってくれている。
でも、守られているということは、選ばれない、ということでもある。
こねずみは、初めて、外を思う。
思っただけで、胸の奥が、少し、重くなる。
その重さは、悪くない。
重さは、戻るための、準備だ。
ふくろうは、それを、見ている。
見て、見ないふりをしている。
守る役目は、戻す役目ではない。
その線を、ふくろうは、越えない。
扉は、閉じられた。
でも、壊されてはいない。
閉じることは、終わりではない。
ただ、待つ形に変える、というだけだ。
夜は、それを、静かに、受け入れた。
しずけさが、もう一段、深くなる。
こねずみは、その深さの中で、初めて、戻りたい、という言葉を、心の奥で、転がした。
まだ、声には、ならない。
でも。
その言葉は、消えなかった。
扉が閉まった夜は、完全な夜ではない。
いつか、開く夜の、準備でもある。
ふくろうは、そう信じることで、翼を、静かに、畳んだ。
夜は、何も答えない。
ただ、閉じた扉の前で、呼吸を、続けていた。




