1. ない!ある!
見覚えのある校舎が目に入った瞬間、ルークはふと身体に圧迫感を感じていた。
「ルーク様!ラティエ達、帰ってきましたわ!生きて……!」
見ると、ラティエが感極まりルークをギュッと抱き締め、胸に顔を埋めていた。
ラティエってこんなに身長低かったっけ?と思いつつルークは答える。
「そう……だね」
「……え?」
ラティエの動きがピタリと止まり、油切れのからくり人形のようにゆっくりと、顔を見上げる。
そして、ルークの顔が目に入った瞬間、
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ラティエが悲鳴をあげ、ルークから距離をとる。
「ラティエ、どうし……ってうわぁっ!!」
ふと自分の身体が目に入る。辛うじて尊厳は守られているものの、レイヤカースに何度も身体を貫かれたせいで、鎧はほぼなくなっており、裸同然の状態になってしまっていた。
ルークは驚くが、もっと驚いたのが下を向いた時の視界が実にスッキリしており、久しぶりに自分の腹をハッキリ見れた事だ。
それになんだか体付きも逞しくなっているし、そういえばさっきから声だって、普段と違和感があるような……。
「ま、まさか……俺の身体……!!ラティエ!」
「きゃああぁぁぁぁ!!近寄らないでくださいましぃぃぃぃ!!」
「ひいぃ!?」
ラティエが半狂乱でワンドメイスをルークに向かって振り上げる。何を考えているのか分からないという点で言えば、レイヤカースと同じくらい怖い。
「ラティエ落ち着け、そいつはルークだ」
リレーミアはそう言いながら、スッと鮮やかにラティエの獲物を取り上げた。
「ル、ルーク……さ……ま……?」
ラティエが状況を理解できず目を白黒させていると、上方からメガルダンドの声が降り注ぐ。
「ルークよ……」
見上げると、朝日を背に白銀に光り輝く守護龍の姿があった。
「うむ……。エテルナに似ている……」
「え?そ、そう……ですかね……」
メガルダンドがしみじみと目を細める。なんだかちょっと気恥ずかしい。
その時だった。
「う、ううん……。なんだようるせぇな……」
休みの日に無理矢理起こされたようにしてバァンが目を覚ます。まだ少し辛そうな様子だが、顔色は良さそうだ。
「バァンさん!!目が覚めましたのね!」
ラティエが泣きそうな顔で駆け寄るので、その後をルークが追う。
「おう……」
ルークに気付いたバァン。
「……ああ」
二人の間に微妙な空気が流れる。これまで一緒に旅をし、命の危険を乗り越えてきて、今や無二の相棒のような存在のはずだが、いざ改めてこの姿でバァンと向き合うと、ルークはどんな顔をしていいか分からない。
「なんだルーク……。久しぶりじゃねぇか……」
「バァン、お前……!」
目の前のルークが、今まで一緒に旅をしたルークと同一人物だと思っていないのだろうか?
だがルークに向けたバァンの表情は、以前のルークに向けていたものとは違い、長年の親友に会ったかのような表情だった。
その時、後ろから空間転移の魔力を感じた。
「皆!よく無事で!!」
振り返ると、そこには校長先生が立っていた。
「校長先生!」
「……さぞ、恐ろしかったろう。さ、早く医務室へ」
涙を堪えている校長先生に促され、ルーク達は医務室へ転移した。
「皆ー!頑張ったねー!!」
転移が終わるやいなや、主任先生がルーク達をまとめて抱き締め、頬を寄せる。そこにはリレーミアも含まれていた。リレーミアは戸惑いながらも受け入れる。
「先生!?もう大丈夫なの?」
「うん!もうすっかり回復したよー!そんな事より、次は君達だよ」
そう言われ、ルーク達は順番に診察と治療が行われる。
ラティエは幸いにも大きな怪我はなく、校長先生の回復魔法ですっかり元通りとなった。
バァンも致命傷を受けた場所が分からないくらいになっており、治療の跡を調べた主任先生も驚いていたが、念のためしばらく安静という事になった。
そしてルークはと言うと――。
「校長先生……これ……」
主任先生が慎重な面持ちで言う。
「ああ……」
大人二人に真剣な顔で全身を見られ、ルークはつい縮こまる。
「えっと……」
「ルーク君、よかったねー!」
主任先生の口元がにっこり笑う。
「じゃあ……!」
「うん、マルディシオンの呪いはもちろん、封印の呪いも消えてるよー!」
「……!」
そう言われ、ルークは試しに魔力を込めてみる。
手の平が段々熱を帯び、やがて――。
「ルーク!危ない!!」
「え?」
校長先生が止めに入った瞬間、ドンッと小さく爆発が起き、仕切りの布の一部を焦がしてしまった。
布が燃えた臭いと煙が辺りに漂う。
「大丈夫か!?全く何をやってるんだ」
煤を払いながら校長先生が言う。
「ゲホッゲホッ!ごめんなさい、こんな事するつもりじゃ……。な、なんだか感覚が変わって加減が……」
「マルディシオンの魔力強化がなくなったからかもねー。これから慣れていってねー」
すると、先ほどの爆発音に驚いた人々が駆け付けてきた。
「ルーク!大丈夫かい!?」
「イルマおばさん!?ばあちゃんにテオおじさんも!」
「ルークのその格好……?女装はもうしなくて大丈夫なのかい?それをしないと魔法が使えないんじゃ?」
「え、えーと……」
そういえばテオとイルマには呪いの事を言っても信じてもらえず、学校生活の辛さから女の格好をしていると思われていたのだった。
二人が心から心配そうにルークを見るので、どう説明しようか考える。
「レ、レイヤカースとの戦いを通じて、自信がついたからもう大丈夫……とか?」
我ながら聞いていて恥ずかしい理由だな、とルークは思った。
「そうだったんだね!ああ……、大変だったろうに。でもよかったね、魔法が使えるようになって……」
イルマは目に涙を浮かべながらルークを抱き締めた。
ひとしきり喜び合った後、祖母のメディナが静かに語りかける。
「ルーク……」
「ばあちゃん……」
「アタシはあんたを誇りに思うよ……」
そう言って優しく抱き締めた。
「うん……」
ルークの頬を一筋の涙が伝った。




