2. これからの自分
ルークがメディナ達との再会を喜んでいる間、バァンとラティエも家族と会っていた。
その際、バァンが両親にヴォーマの形見を渡していた。
「元々『死んだもの』と思って過ごしていたが……。こうやって突き付けられると辛いものだな……」
バァンの父、ホーテンは鎧の破片を強く握り締めた。
「オヤジ……」
その様子を見ていたバァンは、何か思うところがあったのか、ベッドの上で父親をじっと見つめていた。
「お父様ぁ! お母様ぁ! うわぁぁぁぁん!」
ラティエは両親に抱き着いて、小さな子どものようにわあわあと泣いていた。
「あらあら、ラティエちゃんたら……。レディが台無しですよ」
ラティエの母は泣きそうになりながらも穏やかにそう言うと、ハンカチでラティエの顔を拭いてやった。
「まあまあ、こんな時ぐらいいいじゃないか」
ラティエの父は嬉し泣きしながら、ラティエの頭を愛おしそうに撫でていた。
「三人とも」
ひとしきり喜び合い、落ち着いた頃を見計らって、リレーミアが話しかけてきた。
「世界を……本当にありがとう……」
「なんだよ、改まって? らしくねぇぜ?」
リレーミアから丁寧なお礼を言われ、バァンが戸惑いを隠すように軽い口調で言う。
「私はそろそろ、メガルダンド様と聖域に戻ろうと思う」
「そうか……。それもそうだよな」
寂しそうにルークが呟く。
「聖域には、遊びに行っても大丈夫ですの?」
「そんなノリで行く所じゃないんだが……」
ラティエの言葉に呆れたように言うリレーミア。
だが、その後フッと鼻で笑うと、
「お前達なら大歓迎だ」
そう言って、ルーク達に向かって初めてにっこりとした笑顔を向けた。
その後――。
避難していた人々は自宅に戻され、徐々に普段の生活を取り戻していった。
魔物化していた生徒も身体検査の後、家族の元に帰された。
それから数日後。
ルーク達が通う学校も今は再開しており、多くの学生が寮に戻ってきていた。
いつもの日常がまた始まる。それはルークやバァン、ラティエも同様だった。
「いーち、にーい、さーん……」
ルークは朝練のため、木剣を振っていた。あのエテルナの像の側で。
その剣筋は洗練されており、美しさすら感じられるものだった。
「よお、ルーク。模擬戦しようぜー」
バァンが後ろから話しかけてくる。
「バァン、またかぁ? この間の傷、まだ治ってないんだけど」
「なあ頼む、他の奴らじゃ手応えなくてよ。お前以外じゃ相手にならねぇんだよな」
「しょうがないなあ。ちょっとだけだぞ」
そう言ってルークは木剣を置くと、バァンに向かって迷いなく拳を振る。
それをバァンはギリギリで避けると、すかさずしゃがんで足元を払う。
ルークはそれに当たってしまうものの、咄嗟に手をついて側転で距離を取り、その勢いで小さな火球を放つ。
「ルーク達、またやってる……」
「何度見ても、凄すぎて何してるか分かんないよ……」
あまりの高度なやり取りに、周囲の生徒は思わず足を止める。
「なあ、ルーク」
身体を動かしながらも、バァンがルークに話しかける。
「ん?」
「お前、ここ卒業したら城に行くんだろ?」
「ああ、バァンもだろ? 王様だって是非にって言ってたし」
「いや、俺は行かねぇ」
「え!? ――あがっ!?」
驚きのあまり、ルークはバァンの攻撃を避け損ねてしまった。慌ててバァンが駆け寄る。
「おい、大丈夫か!?」
「痛ててて……。ああ。それにしても何で? あの時、あんなに喜んでたじゃないか」
バァンに助け起こされながらルークが尋ねる。
「……俺、実家継ぐ事にしたんだ」
「え!? あんなに嫌がってたのに!?」
「んー……。何かあの時のオヤジとおふくろを見てたら……何となく……なあ……」
バァンは言語化するのが難しいのか、頭をかきながら歯切れ悪く答える。
「バァン様! 何してらっしゃいますの!?」
模擬戦の騒ぎに気付いたラティエが、慌てた様子で駆け付けてくる。
「模擬戦はこの間ルークさんとしたばかりじゃありませんの! あまり無茶させてはダメですわ!」
「へいへい……」
ラティエがバァンを子どものように叱る。だが、妙に距離が近い気がする。
ルークは違和感を感じた。
「ルークさん……? バァン……さ……ま?」
「報告が遅くなってすまねぇ、ルーク。実は俺達……」
「お付き合いする事になりましたの」
そう言ってバァンがラティエの肩に手を回し、ラティエがにっこりと笑う。
「……え?」
ルークだけ時が止まったように固まった。
「ええええええええええっ!?」
ルークの驚きの声が学校中に響き渡り、それに驚いた周りの小鳥達が一斉にバタバタと飛び立っていく。
「バ、バァン!?だって、お前は俺の事が好きなはずじゃ!」
「は!?そんな趣味ねぇよ!確かに友達としては信頼してるけど……」
「ルークさんはまさかバァン様を……?」
恋敵を見る目でルークを見るラティエ。バァンを取られまいと、しっかりとしがみつく。
「大丈夫だぜ、ルーク!例えお前が俺の事をそっちの意味で好きだとしても、俺はお前を軽蔑したりなんか――」
「そうじゃない!!そうじゃないんだけどさあ!!」
「そうですわ、いつかルークさんを理解してくれるいい人が現れますわよ」
「ラティエまで……!だから違うって!!」
その時、ルークはエテルナに言われた事を思い出していた。
「『色々と頑張る』ってこういう事なのか!?どうなんだよ、エテルナ!?」
天使のような翼を背中から生やしたエテルナの像は、剣を掲げてルーク達を見守っているのだった。
その表情は、どこか微笑んでいるようにも見えた。
――完――




