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18. 因縁の終焉

 レイヤカースはこちらを見る事もせず、見上げたまま巨大なオブジェのようになっている。


 あの攻撃ですら駄目だったのか?


 そう思った瞬間だった。






 レイヤカースの巨大な身体に、一本の亀裂が刻まれた。


 その亀裂の奥から、まばゆい光が漏れ出す。


「あれは……っ!?」



 その時レイヤカースが初めて、大きく身体を震わせた。






 そして――









「ルーク……」





 亀裂の向こうから威厳のある声が響いた。


「その声は……メガルダンド様!!」


「先ほどの一撃が綻びとなったようだな。今奴の魔力に干渉し、一時的ではあるが動きを抑えている」


「じゃあ……!」


「ああ、今の内に奴を――」


 ここでメガルダンドの声が途切れ、レイヤカースの巨大な身体が再び震え始める。


「まだやれるってのか……!」


 その身体からまた無数の触手が、一斉にルークに向かって伸びてくる。


「この程度なら!」


 ルークは宝剣を構え、迫り来る触手へ向かって駆け出した。


 次から次へと襲い来る触手を宝剣で斬り払い、そのままレイヤカースとの距離を詰めていく。


 だが、その瞬間――

 レイヤカースの首が、あり得ない角度へと捻じ曲がった。


「――っ!」


 開いたままの巨大な口が、さらに開いたかと思うと、そこから赤黒いブレスが放たれた。


「ルーク様!!」


 避けられない。


 そう判断した瞬間、ルークの左肩が赤黒い光に呑まれた。


 左肩は肉が消し飛び、骨すら残っていない。


「……っ!!」


 気を失いそうなほどの激痛がルークを襲う。

 それでも、ルークは止まらない。


「この程度……俺には……!」


 失われた左肩から肉が急速に再生していく。


 だが、レイヤカースも最後の力を振り絞るように身体を蠢かせる。そして無数の触手がルークを取り囲み、一斉に襲いかかってきた。


「今さらこんなもの!」


 ルークは再び宝剣に魔力を流す。

 聖なる光が刀身に纏わり、それに触れた触手が次々と崩れ落ちていく。


 しかし、その隙にレイヤカースは首を大きく引いたかと思うと、背後に空間の亀裂を作り出した。


「あそこに逃げるつもりか?そうは……!」


 ルークがさらに踏み込んだその時だった。


 レイヤカースにできた光の亀裂がさらに広がり、そこから強烈な光が走った。


「うわ!」


 ルークは思わず目を閉じる。


「メガルダンド様!今の内に!」


 リレーミアの声が響いてくる。


「でかしたぞリレーミア」


 すると、亀裂から無数の光の蔦が飛びだし、レイヤカースをがんじがらめにする。


 レイヤカースは抵抗しようと身をよじるも、光の蔦は振りほどけない。


「ルーク様!今の内に!!」


「――!!」


 ルークは宝剣を強く握り締め、レイヤカースに向かって跳躍し、身体をねじ切らんばかりに捻り上げた。


 これまでの事が次々と頭をよぎる。





 校長先生との訓練の日々。マルディシオンを飲んでしまったあの日から全てが始まった。



 バァンと旅立ち、ラティエも加わり……。



 数々の旅の出来事が駆け巡る。




 そして、エテルナとの因縁も……。





 ――これで、全てが終わる――






「俺は、元に戻るんだ!!」


 そしてルークは、レイヤカースの首に向かって宝剣を一気に振り抜いた。








 だがレイヤカースの首に刀身が触れた瞬間、ガキンッ!という金属音が響き、刃が止まる。


「な!?」


 見れば、刀身が触れている部分にのみ魔法障壁が展開されていた。恐ろしく繊細かつ精密な魔力操作が要求される芸当を目の当たりにし、ルークは驚愕する。


「こ、この状況でまだこんな事ができるのか!?」


 すると、少しだけ障壁が軋んだような気がした。


「ルーク、今メガルダンド様と障壁へ干渉している!どうだ!?」


「……くっ!あまり進まな……!」


 すると、横から宝剣へ手が伸びてくる。


「ルーク様……!!」


 ラティエがルークの目を見て力強く頷く。次の瞬間、宝剣の輝きが増した。


 これならきっと――!




「いけえぇぇぇぇぇぇ!!」


 ルークがさらに力を込める。





 パキンッ――!!






 小さく精密な魔法障壁が砕け散った。


 刃の勢いを止めるものは、もう何もない。


 宝剣はそのままレイヤカースの肉体へと進んでいく。

 固い障壁とはあまりにも対照的な、ブヨブヨとした肉の感触。





 それすらも構わずルークは宝剣を振り抜き、その巨大な首が、一刀のもとに断ち切られた。


 レイヤカースの首は断末魔をあげる事なくズルリと下に落ちた。


 不定形の身体は形を維持できずその場で溶けていき、やがて中からメガルダンドとリレーミアが現れた。


「メガルダンド様!リレーミア!」


「ルークよ、よくぞ成し遂げた。お主は数々の人を救ったのだ」


 メガルダンドがレイヤカースの方を見るように促す。すると、黒いドロドロの水たまりから淡い光が次々と立ち昇っては消えていくのが見えた。


「取り込まれていた者たちの魂だ。これでようやく解放される」


「あ……」


 ルーク達が魂の安寧を願っていると、空間全体が揺れだし、次々と亀裂が入っていく。


「この空間ももう限界であるな……。二人とも、我につかまるのだ。リレーミアはバァンを頼む」


「はっ!」


 ルークとラティエはメガルダンドの身体にしがみつき、リレーミアはバァンを担いでメガルダンドの上に乗った。

 やがて亀裂はどんどん広がり、砕け散ったかと思うと眩い閃光に包まれ、空間転移をしている時の感覚が襲う。







 これでやっと元の世界に戻れる――。











 そんな事を考えていると、ルークの耳に突然エテルナの声が聞こえてきた。





「ルーク……本当にありがとう……」






 気が付くと辺り一面真っ白な空間に、エテルナと二人きりになっていた。


「エテルナ……」


「これでやっと……ロウやロアンのところにいけるわ……」


「ああ……」


「あんまり長い時間離れてたから、二人とも私の事は分からなくなってるかもしれないけどね」


「大丈夫だよ、きっと……」


「ふふ、そうね。そうだといいな」


 エテルナはロアンに向けていたのと同じ表情で笑うと、ルークに背中を向けた。


「行くのか?」


「ええ。あ、そうそう」


 エテルナは思い出したかのように振り返る。


「私の加護なんだけど、実は運命の人と絶対結ばれるおまじないをしてたんだけどね?ルークにはもうそれがなくなっちゃうから……」


「?」


「これから頑張ってね、色々と!」


「ちょっ……!どういう意味だよ!?エテルナ!」


 そして、再び目を開けていられない程の光に包まれる。

 気が付くと、そこはルーク達の学校であった。

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