17. 聖なる光
「……でもラティエ、何でバァンが無事だって……」
「ルーク様が治されてたじゃないですの」
「何だって?」
そんなはずはなかった。
バァンは心臓に穴を空けられた上に肺も削られており、明らかに助からない状態であった。人間が扱う回復魔法で治せる範疇を越えていた。
「それにしてもその時のルーク様ったら!聖女様みたいな雰囲気で素敵でしたわ〜!」
恍惚とするラティエの横で、ルークはポカンとしていた。
「……もしかして、エテルナ……?」
ルークは宝剣を見つめる。ふとそこにエテルナがいて、笑っているような気がした。
「……ありがとう……」
すると、レイヤカースが再び触手でマルディシオーネを作り出す。そして小動物を誘うかのように、それをゆらゆらと揺らした。
「ルーク様……」
ラティエが不安げにルークを見るが、ルークは真っ直ぐな瞳でレイヤカースを見据えていた。
「大丈夫。もう惑わされたりしない」
ルークがレイヤカースの方へ一歩踏み出す。
その瞬間、レイヤカースの身体の至るところから触手が飛び出してくる。
それをルークがまとめて斬り払い、あっという間に霧散させた。剣の動きに合わせてキラキラと光の粒が舞う。
それがラティエの目に止まる。そして何を思ったか、今にも剣を振り回そうとしているルークにスッと近づき、宝剣に付いている宝玉にそっと手を添えた。
「ラ、ラティエ!?危ないって!」
「試してみたい事がありますの!」
「え?」
そう言ってラティエは、自身の魔力を宝剣に流す。
すると、宝剣を中心に温かな光の粒が渦を巻く。この場所が真っ暗な空間なのも相まって、星屑達がルークとラティエを守っているようだ。
「宝玉の力が強くなって拡散してる……?す、凄い!」
「ラティエは周りの魔力を利用するのは得意ですの。さっきまでレイヤカースが怖くて気付けませんでしたけど、この宝剣、魔力が感じられたのでもしかして……と思って」
光の渦はどんどんと早く渦を巻きつつ範囲を広げていき、やがて触手の群れも取り巻いていった。
それに対してレイヤカースは、魔法障壁を展開する。
「魔法障壁だと?一体どうしたんだ?」
「何にせよ、この光を嫌がっているみたいですわね!思ってた以上ですわ!」
「とりあえずあれを破壊すれば……」
「何かあるかもしれませんわね!」
ルークとラティエは互いを見て頷くと、レイヤカースに向かって距離を詰めていく。
レイヤカースは二人に対して触手で応戦する。だが光の粒が触手を侵食し脆くさせているようで、ラティエのワンドメイスでも簡単に対処できるようになっていた。
「はあああっ!!」
ルークがまた触手を一気に斬り払うため、身体中を思い切り捻り宝剣を大きく振り抜いた。
すると宝剣の周りを漂っていた光の粒が密集し、斬撃波となってレイヤカースに向かっていく。
レイヤカースは再び触手を寄せ集めて壁を作り出し、魔法障壁との二段構えにしたが、増幅し凝縮された浄化の力に触手の壁は何の意味も成していなかった。
触手の壁は斬撃波を止めることができず、ナイフで熟れた果実を切るようにいとも簡単に切り裂かれ、そのまま溶け消えた。
斬撃波はというと、レイヤカースの魔法障壁に当たった瞬間にパンと弾けて消えてしまった。
宝剣が通常に戻ったのを見て、レイヤカースは嘲笑うようにして魔法障壁を解く。
「こ、これじゃダメだ……。障壁は壊せなかったし剣の魔力も元に戻って……」
「ルーク様!もう一度やりましょ!勝手が分かったので今度はもっと魔力を流しますわ!」
「えっ?わ、分かった!」
ラティエが再び宝玉に触れようとすると、レイヤカースがラティエに向かって魔弾を放つ。
「危ない!」
ルークも魔弾を放ち、レイヤカースの魔弾を撃ち落とす。
魔弾同士がぶつかった瞬間、激しい光が放たれる。
ルークは一瞬目が眩んだ。
その時、ラティエの悲鳴が聞こえた。
「きゃあ!!」
「ラティエ!?」
視界が戻った瞬間、ルークの顔から血の気が引いた。
ラティエが、レイヤカースのすぐ近くで宙吊りになっていた。
「ラティエ!!」
両手首を黒い触手に掴まれ、頭上へと引き上げられている。
足は完全に宙へ浮き、身体を支えるものは何もない。
「ルーク様……!」
ラティエが身をよじるが、触手は離れない。
それどころか、ラティエの身体を引き寄せるようにレイヤカースへ近づけていく。
「ラティエに触るな!!」
ルークが飛行魔法で距離を詰めるが、やはり大量の触手が阻んでくるため、思うようにラティエの所まで行けない。
するとレイヤカースの巨大な口が、ラティエのすぐ目の前でゆっくりと開いた。
「あぁ……」
口の奥で赤黒い光が膨れ上がっていくのが見える。
「……!ブレスか……!」
ルークは直感した。
あれを至近距離で受ければ、ラティエは助からない。
「くそ!!早くしないと!!」
ルークが宝剣を構える。
「またあの斬撃波を放てば……」
だが先程とは違い、光の粒がほとんど渦巻いていない。準備が整っていない事は明らかだった。
「ルーク様!」
ラティエが叫んだ。
「仕上げはルーク様がやってくださいませ!」
「何だって!?」
「ラティエができるんですもの!理屈が分かればルーク様にもできますわっ!」
「……っ!」
レイヤカースの口の奥で、赤黒い光がさらに膨れ上がる。
迷ってはいられない。
「こうなりゃ、見様見真似だ!!」
ルークは宝玉へ手を添える。そして先程ラティエがやっていた様子を思い出しながら魔力を流していく。
その瞬間、ラティエが流していた魔力の流れへ、ルーク自身の魔力が重なった。
温かな光が一気に膨れ上がり、取り巻く光の粒の密度は先ほどとは比べものにならないほど高くなる。
ルークを阻んでいた触手の群れは、光の粒によって崩れ落ちていった。
レイヤカースは更に口を大きく開く。赤黒い光が限界まで膨れ上がる。
「ひっ……!」
「だりゃあああああっ!!」
ルークが宝剣を大きく振りかぶる。
その刃の周囲に、先ほどとは比べ物にならないほどの無数の光の粒が集まっていく。
星屑のようだった光は、やがて一本の巨大な光へと凝縮されていった。
「間に合ええええええっ!!」
ルークが宝剣を振り抜いた。
巨大な光の柱がレイヤカースへ向かって押し寄せる。
レイヤカースは即座に魔法障壁を展開した。明らかに先ほどより密度が高くかなり強固なものだった。
波がそのまま魔法障壁ごとレイヤカースを飲み込む。
一瞬、拮抗するが――。
ピシッ。
障壁にわずかな亀裂が走った。
一呼吸置いた後、その亀裂は蜘蛛の巣のように一気に広がる。
バキィィィン!!
魔法障壁がガラス玉のように砕け散った。
斬撃波はそのままレイヤカースの身体を通り過ぎる。ラティエを拘束していた触手も崩壊し、ラティエは解放された。
「ルーク様……!!」
「ラティエ!!よかった!!」
二人はレイヤカースの方を見る。
レイヤカースは頭部を上げたまま、身じろぎ一つせず静止していた。




