12. 哀しき再会
スケルトンの大剣とバァンの斧が激しくぶつかり合う。
互いに譲らず、二人の武器は重なったまま拮抗し、動かない。
「ぐ……重い……!」
「バァンさん!!」
ルークとラティエが横から一撃を入れる。だが、ラティエの打撃はかわされ、ルークの斬撃も重鎧に防がれた。
「宝剣が効かない……?マルディシオン関係の魔物じゃないのか……?」
「ルークよ、そなたは我と共にレイヤカースを!」
「わ、分かった!」
メガルダンドがレイヤカースに向かって、眩く輝くブレスを吐く。ルークもそれに続いて飛び上がり、レイヤカースの目に剣を突き立てる。
剣とブレスが触れた瞬間、レイヤカースの身体そのものが霧のように掻き消えてしまった。
「え!?」
「ルーク、後ろだ!!」
ルークの背後から赤い光線が放たれた。
リレーミアの声で振り向くが、対処が間に合いそうにない。直撃すると覚悟したその瞬間、メガルダンドが瞬時に唱えた魔法障壁で弾く。
バリンと派手な音を立てて障壁が砕け散った。
「ルークよ、今見えているレイヤカースは実体では無いようだ」
「な……!?じゃあどうしたら……!うわ!」
メガルダンドと状況を確認していると、突然足元を這うように衝撃波が飛んでくる。それに気付いてルークはどうにか剣でガードした。
「この攻撃も……ヴォーマの……!」
スケルトンはバァンとラティエ、リレーミアを相手にしながらもルークに牽制をかけている。
「く……こいつ、ルークさえ倒せばいけるって分かってるのか?」
「なんですって!?そうはさせませんわ!」
ラティエがワンドメイスを振り抜く。スケルトンは大剣で受け止めようとするが、ラティエの一撃をまともに受ければ危険と判断したのか、身を翻してかわした。
「そこだ!」
その瞬間、リレーミアが両手を前へ突き出す。すると無数の光の矢が現れ、スケルトンへ向かって飛んでいく。
スケルトンは大剣を盾のように構え、それを次々と弾き飛ばしていった。
「チッ……!鎧も剣も魔法耐性付きか……」
リレーミアが苦々しい表情で呟く。しかしそれは全くの無意味ではなかった。スケルトンに一瞬の隙が生じたのだ。
「今だ!!」
バァンが一気に踏み込み、斧を振り下ろす。だがスケルトンは、大剣を横にして軽々と受け止めた。
ガキン!と派手な金属音が辺りに響き、両者の武器が再び激しくぶつかり合う。
「うぐ……!!」
今度こそ押し切ろうと、バァンが力を込めたその時だった。
「バァン!!」
急にリレーミアがバァンの近くまで飛んでくる。すると、リレーミアの見据える方向から赤い光線が、驚異的な速さでこちらにやってくるではないか。
リレーミアは光の壁を瞬時に展開。そのまま光線を受け止めた。
「くっ……!!」
どうにか受けきったが、リレーミアの両手は燃え盛る暖炉に突っ込んだようにボロボロになっていた。
「リレーミアさん!」
「だ、大丈夫……。回復はできる……!」
そう言うと、回復魔法を唱えてあっという間に治してしまった。だが、リレーミアの魔力も無限というわけではないので、このままでは少しずつ追い詰められていくのは目に見えていた。
「いい加減バァンさんから離れて!!」
ラティエがバァンと押し合いしているスケルトンに向かって、ワンドメイスを振り回す。またスケルトンは、剣や鎧で受ける事をせずに距離を取る。
打撃は弱点だと理解しているようで、ラティエの攻撃は当たらないように警戒しているのが見て取れた。
「ひゃあ!!」
スケルトンが距離を取ったのを見て、少し安堵したのも束の間、ラティエに向かって赤い光線が飛んでくる。
それを大げさにしゃがんでかわした。
「くそ……、レイヤカースの攻撃まで気にしないといけねぇのか……!」
「ルーク様達、レイヤカースに攻撃できていないようですわ……!」
ルークとメガルダンドの方を見る。向こうもレイヤカースの幻影に手こづっているようだ。バァンやラティエの額から汗が流れる。
その間にスケルトンが足元に大剣を突き立て、剣撃を飛ばしてきた。
「うお!?」
「今度はラティエが!」
ラティエがバァンとリレーミアを守るように前に出て、鎧に魔力を込め簡易的な魔法障壁を展開する。
そして剣撃が障壁に直撃した。
「きゃあ!!」
あっという間に障壁は破られ、衝撃でラティエが宙を舞う。それを慌ててリレーミアが受け止めた。
「あ、ありがとう……」
「その機能は一時凌ぎだ。この戦いでは恐らく通用しないだろう」
「……ラティエ、この戦いで役に立てますかしら?」
「それはラティエ次第だろ」
そう言ってリレーミアはラティエから手を離した。
急に落とされた為、焦ったラティエは飛行魔法を唱えるのが遅れる。
「やっ――!」
悲鳴を上げようとしたその時、ラティエは気付いた。真下にちょうどスケルトンがいる事を。
スケルトンは再びバァンと鍔迫り合いをしている。
「くそ……!くそ……!」
バァンは斧を押し込みながらスケルトンを睨みつけている。その目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「刃を交える度に分かっちまう……!こいつは……!!」
「やああ!!」
「!!」
その時、ラティエが落下の威力を乗せ、渾身の力でスケルトンの頭部を殴り付けた。
スケルトンは直前になって身体を逸らした為、致命傷は避けられてしまったものの、顔の半分を砕き、肩のプロテクター部分を損壊させる事ができた。
スケルトンは顎と全身をカタカタ震わせる。
効いているのだろうか?様子が先程とは違うように見える。
「やりましたわ!」
「兄貴!!」
「え……!?」
バァンの言葉に、ラティエとリレーミアが驚きで立ち尽くす。
その時だった。再びレイヤカースの攻撃がこちらを目掛けて飛んできた。
「危ない!!皆何してんだ!!」
ルークが叫ぶ。三人とも動く様子が無く、慌て駆け付けようとするが、どう考えても間に合いそうにない。
そのまま光線はバァン達を襲い、目がくらむ程の赤い光を放ちながら爆発した。
「みんなーーー!!!」
完全に直撃したかと思われた。
だが、それはスケルトンの捨て身の防御によって防がれていた。
全身の鎧と骨が風化したようにひび割れており、もはやどうやって立っているのかが分からない。
「ど、どうして……?」
ルーク達が戸惑っていると、スケルトンは震える手で大剣を構えた。
「そんな身体で……まだ戦うつもりですの?」
「兄貴!やめてくれ!」
だがその切っ先は誰にも向いていない、ルーク達とはまるで関係のない、闇の彼方へと向けられていた。
そして、何もない空間をただ一閃。
大剣が振り抜かれた――。
その直後、スケルトンの身体から力が抜け、グシャリとその場に崩れ落ちた。
「あ……兄貴……!」
バァンが今にも泣きそうになりながら駆け寄る。するとスケルトンは、何やら鎧の破片を探っている。指の骨が崩れてもはや取ることができないでいるようだ。
「……?こ、これがいるのか!?」
バァンが一つの鎧の破片を拾い上げ、スケルトンへ見せる。スケルトンの指が、ほんの僅かに動いた。
「これを……俺に渡したかったのか?」
スケルトンは何の反応も無い。ただゆっくりと、バァンへ顔を向けた。そしてその身体は、静かに塵となって消えていった。
「……!」
バァンが破片を見てみると、そこには戦死した兵士の身元を示す刻印が刻まれていた。
――フィグゼーヌ王国 魔法剣士隊 隊長 ヴォーマ・モリーローグ――
「くそ……!兄貴……!兄貴ぃ……!」
バァンは震えながら破片を握り締めた。
このまま涙を流し、ヴォーマの死を悼みたかった。だが状況は、そんな事を許してくれる筈も無かった。




