表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
89/93

10. 嵐の前の静けさ

 普段ルーク達が過ごしている校舎の外れに、生徒の侵入が固く禁じられているエリアがあった。


 校長はそこへルーク達を案内し、不自然な形にせり出している壁に手を当てると、ぶつぶつと詠唱をする。

 それが唱え終わると、壁が異空間に吸い込まれるようにして消えた。


「さあ、こっちだ」


 校長に促され、先の敷地に足を踏み入れる。あまり手入れをしていないのか、雑草が好き勝手に伸び放題だ。


 少し進むと、錆びた金属製の扉が見えてきた。

 ここも魔法で施錠されているようで、先ほどと同じように校長が詠唱によって解除した。


 ゴゴゴ……と何とも重そうな音をさせながら扉が開かれる。そこには下へと続く階段が。


 地下室だった。

 中を進んでいくと、石造りの壁と天井に囲まれており、かなりジメジメとしていた。涼しいはずなのにじっとりと汗が肌に滲む。


 構造はシンプルに一本道。最深部には複雑な術式で作られた魔法の扉が、怪しい光を放っていた。


「ウチの教員証を持つ者のみが入れる仕組みでね。今解除しよう」


 そう言うと、いとも簡単に扉を消し去ってしまう。

 中に入ると、壁や床の至る所に魔法陣が描かれており、その中心にはたくさんの異様な姿の魔物達が縛り付けられていた。

 マルディシオン関連の魔物であるとすぐに分かった。


「先生、ここは……もしかして……」


「……ルーク、それにバァン。覚えているかな」


 校長はそう言って一匹の魔物の所へ案内する。忘れもしないその姿。


 筋肉質の身体と、赤黒く変色した皮膚と爬虫類のような鱗、肩へめり込んだ元の顔……。


「ジ、ジニアス……」


「え!?」


 ラティエが驚きで思わず声をあげる。


「ヴギァー!」


「!!」


 ラティエの声に反応し、グロテスクな牙を剥き出して威嚇するジニアス。クラスは違えど、同じ学び舎の生徒が魔物化した事実は衝撃だったのだろう、ラティエは両手で口を押さえたまま震える。


 ルークはあの時の先生とのやり取りを思い出していた。


「じ、じゃあ……ここにいる魔物達は……」


「そう、ジニアスと同じ。我が校の生徒達だ」


 校長はルーク達が旅立った後、教師陣総出で失踪した生徒達の行方を捜した。尽力の甲斐あって全員を保護できたが、やはりマルディシオンを飲んで魔物化してしまっていた。


「こんなにたくさん……ひでぇや」


 バァンも見ているのが辛くなったのか、ずっと目線を落としたままだ。


「あの……先生、この人達のご両親は?こちらに避難されてるんでしょ?子どもが見当たらないとなったら……」


 不安げな表情でラティエが言う。


「うん……。受け止められそうな人にだけは真実を伝えているよ。君達が解決の鍵になりそうな事もね」


「あ……」


「だからね……」


 校長が三人に向き直る。


「どうかこの生徒達を、この世界を……お願いします。どうか平和へ導いて……」


 そう言って深々と頭を下げた。校長先生としての立場ではなく、この世界に住む一人の人間としての純粋な願いだった。





 ルーク達が戻ると、既に宴の準備が整っていた。四人に気付いたイルマが、意気揚々と駆け寄ってくる。


「おやまあ、ちょうど良い所へ!もう始められるよ!さあ座った座った!」


 強引に一番目立つ卓に連れて行かれる。ルークは、人間が多くて嫌そうにしているリレーミアの横に座った。


「流石にこういう時は参加するよな」


「エテルナの記憶を見てるだろう?あの時同様、一応空気は読むさ」


 頬杖をついて不機嫌そうに言う。そんな態度なら参加してもしなくても同じでは?とルークは思った。


「そんなしけた面すんなよ、今は楽しもうぜ!」


「そうそう、バァンさんの言う通りですわ」


 バァンとラティエはそう言うと、運ばれてきた料理に手を付ける。

 本格的に宴が始まると、ルーク達を激励しようと様々な人が代わる代わる卓を訪れる。

 そしてその中には、魔物にされてしまった生徒の親もいた。


 どの親も、雰囲気をできる限り壊さぬよう気丈に振る舞ってはいるが、その悲しみと不安はどれだけのものだろう。

 声をかけられる度に、その思いが背中に乗っかってくる感覚がした。


 色々な人から託された責任と重圧。それに真正面から向き合ってしまうと、身体が強張り動かなくなってしまう。

 ルーク達は今だけそれを紛らわせるように、食べて、笑って、たくさん楽しい話をした。


 リレーミアはいつの間にかメガルダンドの側に退避していた。メガルダンドと一緒に高い場所から宴の様子を見守っている。


「やれやれ……彼等のような子どもに運命を託さねばならぬとは……。守護龍が聞いて呆れるな……」


「メガルダンド様……」


「我々もできる限りの事はやろう。エテルナの思いを無駄にせぬよう」


「……はい」


 やがて夜の闇が深まってくると、宴は終わりに近付いてきた。人々はいつの間にかその場で眠ってしまっていた。

 ルーク達も医務室のベッドに戻ると、心地良い疲労感からすぐに眠ってしまった。


 少し前まで、人々の賑やかな声が聞こえていたが、今はかがり火がパチパチと燃える音しか聞こえない。不気味な程の静寂が辺りを包んでいた。





「は!?」


 ルークは突然飛び起きた。身体が勝手に反応したのだ。全身に汗をかき、心臓がかつてない程脈動している。


「はぁ……はぁ……!

 ……どうしよう、今は休んでおきたいのに……」


 胸の辺りがざわざわしてすぐに眠れそうにない。今どれくらい寝たのだろうか?月の位置を確認しようと窓の外を見ると、月を眺めているメガルダンドが見えた。


 メガルダンドと話せば、気が紛れて眠れるかもしれない。ルークはメガルダンドへ近付く。


「メガルダンド様……その……。胸がざわめいて寝れなくって……」


「……ルークよ」


 メガルダンドは厳しげな口調だ。神に近い存在である守護龍様に、しょうもない事で話しかけて失礼だったと、ルークは後悔した。


「……はい」


 叱られた子どものように遠慮がちに返事をする。


「……すぐ準備をするのだ」


「え?」




「来たぞ。レイヤカースだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ