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9. 近付くその時

「ルークよ、戻ってきたな」


 ルーク達の姿を認識すると、すぐさまメガルダンドが声をかける。


「ルーク様ぁ!!」


 ラティエもリレーミアもいる。ルーク達は医務室に飛ばされていた。

 何があったかを話したい所だが、今は主任先生が心配だ。

 ルークは主任先生をベッドに寝かせた。唇の色は青白くなっており、息も荒い。命に関わるほど魔力が切れた時の症状だ。


「先生……!あんな状態で高度な転移魔法なんかするから……!」


「あはは……、後先考えずに唱えちゃった……。

 流石にもう……魔力すっからかんだよ……」


 そう言って震える手を懐に入れ、何かを取り出す。そこには魔力回復の丸薬が握られていた。


 それを口に含むが、口の中が乾いているのか中々飲み込む事が出来ない。ラティエが慌てて水を含ませ、どうにか飲み込ませると、唇の色に少し赤みが戻ってきた。

 その後すぐにメガルダンドからも魔力が分け与えられ、どうにか窮地は脱した。


「先生……よかったぜ……」


 ルークとバァンの肩の力がようやく抜けた。


 すると医務室のドアが勢いよく開かれ、校長先生が村長夫人、あとはメディナとテオ夫婦を連れ立って入ってきた。

 ルーク達の帰還を察知したようだ。


 皆口々にルークとバァンの無事を喜ぶ。


「皆、ありがとう。でも村長さんは……」


 二人の表情が曇る。それを見た周りは状況を察した。

 だが、村長夫人は優しい笑みをルーク達に向けた後、主任先生が寝かされているベッドを見ながら言う。


「ええ……。そちらの先生の様子を見れば、何となく分かります……。最期まで迷惑をかけましたね。ありがとう……」


 そう言って目を閉じる。一粒の涙が頬を伝った。




 だがこれで全てが終わったわけではない。

 人間が魔物化してしまった事を考えると、レイヤカースとの戦いがそこまで迫っている事は明らかだった。


「ラティエ達はもう大丈夫なのか?」


 穴だらけの鎧を脱ぎながらバァンが声をかける。


「お陰様でバッチリ休ませていただきましたわ!」


 軽装姿のラティエが、準備運動のように腕を伸ばしながら答えた。リレーミアもすっかり全快している様子だ。


「ルーク、メガルダンド様が言っていた物は?」


「ああ、バァン」


「おう、これだろ」


 バァンがリレーミアにお守りを手渡す。

 エテルナとの事を思い出したのか、手に渡ったと同時に目元が優しげに細まった。


 そしてリレーミアは無言のまま、ルークの剣も寄越すように手で促す。戸惑いながらも促されるまま、ルークはリレーミアに剣を手渡した。


 リレーミアはルークから剣を受け取る。すると、剣とお守りが青白い光に包み込まれた。


 そして、まるで意思を持っているかのようにお互いを引き寄せ合い、一つとなっていく。


 なんとも神秘的な光景に、ルーク含め周囲の人間は口と目を見開いた状態でただその様子を見ていた。


 やがて、剣の刀身に青白い光が走り、その表面に複雑な紋様が浮かび上がった。


「……っ!」


 ――カァァァンッ!


 鋭い金属音が医務室に響き渡ったと同時に、剣がその全容を表す。光の粒を纏いつつ、剣はルークの手元へ吸い込まれるように舞い降りた。


「我の加護を受けし剣と、エテルナの加護を持つ聖具が合わさった、レイヤカースをほふる為専用の宝剣だ。ルーク、エテルナの子孫たるそなたに託す」


 メガルダンドの言葉を聞いた瞬間、ルークの肩に何か重いものが託された感覚がした。


「ルーク、大丈夫だぜ!」


「そうですわ、ラティエ達も戦いますもの!」


 あまりにも難しい顔をしていたのか、バァンとラティエが寄り添う。レイヤカースと対峙する恐怖はすっかり克服した様子だ。


 二人の様子を見たルークの口元には自然と笑みがこぼれた。


「ルーク、その時までまだ少し時間はあるだろう。私に何かしてほしい事は無いか?」


 校長がルークに歩み寄り、穏やかに声をかける。


「え……?き、急に言われてもなぁ……」


 ルークは困ったように頭を掻いた。


「おっと、それもそうだね……。

 ……レイヤカースの事は、悔しいがルーク達に任せるしかない。だからできる限りの事で協力したいと思ってるんだ」


 後ろでメディナとテオ夫婦も一緒に笑いかける。


「えっと……じゃあ……」


「うん」


「ご、ご飯が食べたい……です……」


 いつも表情を崩さない校長先生が、見た事もないきょとんとした顔をする。時が静止したような沈黙が流れた。


 咄嗟だったとは言え変な事を口走ってしまったと、ルークは急に恥ずかしくなる。大笑いされるのを覚悟していたが、ルークの予想とは裏腹に校長は嬉しそうに優しくにっこりと笑った。


「分かった。備蓄の事もあるからそんなに豪勢にはできないが、今夜は避難した人達も含めて全員で宴をしよう」


 校長は振り返り、メディナ達の方を向く。


「すみません。そういう訳なので、お手伝いをお願いできないでしょうか?」


 その言葉を聞いたメディナ達は、力強く頷く。


「ええ、ええ。もちろんですとも」


「他にも手伝ってもらえそうな人達に声をかけようじゃないか!」


 その後、敷地内にいる人全員に今夜の宴の事が知らされた。

 ヘルト村の人以外にも学校の生徒とその家族達が、既に避難を完了させていた。


 バァンとラティエも久々に両親と会え、再会を喜んだ。

 一通り顔見せが済んだ頃、ルーク達は再び校長に呼び出された。


「皆に見てほしいものがある」

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