7. 覚悟の一撃
「じゃあバァン君、これまでの状況を聞かせてくれるかなぁ?」
主任先生は魔力回復の薬をバァンに手渡しながらそう言うと、バァンと自分を大きな光の球で覆い、フワリと浮かせた。
そして全体の様子がよく見える位置まで移動する。
相変わらず凶暴化した魔鳥が横槍を入れてくるが、光に触れた瞬間に苦しみだしそのまま墜落していく。
主任先生の魔法技術を初めて目の当たりにし、なんだかよく分からないが、凄い事をしている事だけは分かった。
だが驚いてばかりもいられない。幸い、今なら落ち着いて話ができそうだ。
バァンはこれまでの事を話した。あの巨大樹が村長である事。ルークが危険かもしれない事。
「……先生、村長を助けるにはどうすりゃいい?」
「うーん……」
主任先生は改めて巨大樹の方へ顔を向ける。
そして、いつも上がっていた口角が段々と下がっていき、震えながら真一文字にキュッと結ばれた。
嫌でもどういう事か分かってしまう。
「……他に方法は無いんだな」
「最終的な事は大人である先生の役目だねー……。
って言っても戦場じゃそんな事言ってられないか……。大丈夫、もしそうなったら先生が責任負うからね」
「は、はい……」
主任先生は普段は明るくゆるい雰囲気だが、こうやって話していると先生が務まる程の立派な大人なんだなと改めて思えた。
普段は強気なバァンも、思わずしおらしくなる。
「……そういや先生。
先生はなんで魔物化しないし平気なんだ?俺達はメガルダンド様の鎧があるから大丈夫だけどさ……」
「ああー、これのお陰だよー」
主任先生はおもむろに片袖をまくり、白銀に輝く不格好な形のブレスレットをバァンに見せた。
「メガルダンド様の鱗で急いで作ったんだよー。バァン君達の鎧程じゃないから、あんまり長居は出来ないんだけどねー」
「じゃあ、早く決着をつけないとダメっすね!」
バァンはそう言って光の球から飛び出していく。
それを見た魔鳥達がバァンの後を追うが、主任先生が次々と魔弾で撃ち落としていった。
巨大樹の枝も次々と伸びてくる。
バァンは身体を翻しながらかわそうとするが、避けきれずに横薙ぎに振り抜かれた枝が当たり、大きく弾き飛ばされた。
「バァン君!」
「こんのぉ!!」
バァンはどうにか空中で留まり、今一度斧を両手でしっかり握り直すと、迫ってきた別の太い枝へ向かって思い切り振り下ろした。
斧の刃が樹皮へ食い込む。
そしてその斧を支点にして身体を引き寄せ、飛行魔法の合わせ技で大きく飛び上がり、その勢いで斧を抜く。
それからまたすぐ上に伸びる別の枝めがけて再び斧を振り下ろす。
それを繰り返し一歩、また一歩と巨大樹の枝を足場にしながら村長の元へ近付いていった。
「おおー、バァン君やるねぇー」
主任先生が魔法で周囲の魔鳥や枝を粉砕しながら感心する。
魔鳥は塵となり、枝はじわじわと再生する。
「……!?さっきより明らかに再生力が増してやがる!?
周りの魔物を取り込んだせいか?」
横目で見ていたバァンが驚きと焦りを滲ませる。
「急がねぇと!」
それを阻もうと複数の枝がバァンに向かってくるが、主任先生がすぐさまそれを光線のような魔弾で一気に消し飛ばした。魔弾はそのまま巨大樹の幹に激突し、周囲に強烈な爆風を撒き散らす。
危うくバァンも振り落とされそうになってしまった。
「ああ!ごめんねー!
うーん……風穴を開けるつもりで撃ったんだけどなー」
魔弾が当たった箇所は、巨竜が激突したかのような大きな円形に抉れており、再生し始めてはいるもののその威力の大きさを物語っていた。
それを見たバァンは今後、主任先生には逆らうまいと心から誓った。
「せ、先生。ダメそうか?」
「そうだねー……、攻撃魔法にもそれなりに耐性ある感じだねー。やっぱり村長さんの身体を直接狙うしかないかー」
そう言って主任先生は滑るように村長の元へ飛んでいく。
枝はまだ再生しきれていないようで、村長の攻撃は止んでいた。
今が好機とばかりにバァンも必死で村長のところへ向かい、村長の近くにある再生途中の枝に斧を引っ掛け、ぶら下がった。
「おい!!村長!!」
バァンは村長に向かって叫ぶ。その声に反応して、村長の瞼が開かれた。
「ヴヴヴァ……!!」
涎を垂らしつつ歯を剥き出し、左右別方向に目玉をギョロギョロと動かしている。
「くそ……!!やっぱりもう手遅れかよ……!!」
「……バァン君は優しいね。我が校自慢の生徒だよ」
主任先生はそう言って村長に向けて魔弾を撃とうと手をかざした。
その瞬間だった。
いきなりツタのようなものが主任先生の首を絞め上げ、上空へさらっていった。
「先生!?」
見ると、木の枝と葉で形作られた不気味な怪鳥が足の部分をツタ状に変え、主任先生の首へ絡めていた。
更に、同じような造形の鳥達が何十羽と先生の周りを取り囲んでいる。
主任先生は急いで片方の手で首のツタを焼き切り、もう片方の手の平から村長へ向けて魔弾を放つ。
しかしそれは、複数の木の鳥が絡み合った盾によって防がれてしまった。
それでも木の鳥を対処しつつ、何度か村長へ向かって攻撃を試みるが、全て木の鳥によって阻まれてしまう。
「こいつら……さっきまで取り込んでた鳥達を利用して?
……いや、今はそんな事よりも村長だな」
バァンが村長に狙いを定めた事を察知したのか、木の鳥はバァンの方にも群がってくる。
ナイフのような葉でできた羽根が、バァンの身体を切り刻む。
「くそおぉぉぉ!いい加減にしやがれぇぇぇ!!」
バァンは斧に魔力を込め、ぐるぐると大回転する。やがてそれは小さな竜巻となり、周囲を取り囲んでいる木の鳥達の羽根や首を一斉に斬り裂いた。
そしてその勢いのまま、村長の首目掛けて斧を振り抜いた。
ガツンっ!!
鈍く重い音が周囲に響いた。
斧は村長を通り過ぎ、巨大樹の幹に深くめり込んだ状態で止まった。
村長の首は胴体から綺麗に切り離され、宙を舞っていた。




