6. 巨大樹の猛攻
二人は武器を構えつつ、村長の身体を呆然と見上げる。
絶望的な程に巨大だ。
こうやって対峙していると、自分達はなんとちっぽけな存在なのだろうかと思えてくる。
「く……、ここからどうすりゃいいんだ……」
「だあ!!」
ルークがどうしようかと考えていると、バァンは突然村長の身体を支える太い幹へと斧を振り下ろした。
ドンッと重苦しい音と共に斧の刃が樹皮を抉り、硬い木片が周囲に飛び散る。
だが浅い部分を少し削った程度なうえに、やはり即座に修復し始めた。
村長も特に反応が見られない為、その攻撃は何の意味もなさない事はすぐに予想できた。
「小虫か何かに刺された程度って事か?くそ……」
バァンはぐっと歯を噛み締め、村長を睨んでいると、ルークが飛行魔法で村長の方へ飛んでいくのが見えたので、自身も慌てて後を追った。
二人が村長へと接近するその瞬間だった。
頭上から、飛び回る虫を叩き落とすかのように巨大な枝が振り下ろされる。
「バァン危ない!!」
ルークがバァンに思い切り体当たりし、軌道を大きくずらした。
直後、幹のような極太の枝が二人を襲う。
バァンは直撃は免れたものの、凄まじい風圧にきり刻まれつつ錐揉み回転しながら露出した木の根元へ墜落していった。
一方でルークは村長の枝が直撃。
村外れの方まで大きく吹き飛ばされ、バァンとの距離は大きく離された。
メガルダンドの鎧が無事なせいで見た目だけは普通だが、内臓は溶き卵のようにかき混ぜられ、全身の骨は粉々になった。
「ぐ……うぅ……」
ルークはピクピクと痙攣しながら呻く。
頭はかろうじて守れた為、身体はすぐさま再生していくが、痛みまでは軽減してくれない。
途切れゆく意識をどうにか繋ぎ止めようともがいていた。
「ル、ルーク……う……!!」
バァンは墜落の衝撃からか上手く声が出せない。ルークは無事なのだろうか?ここからは様子が全く分からない。
(くそ……まただ……。またルークに……!!)
「ギ……!!」
自分の不甲斐なさを怒りに変え、勢い任せに身体を起こす。
まだ激突の余韻が全身を駆け巡る。
まさかと思い、恐る恐る腕を動かし愛用の斧を握り直してみる。
腕の奥に激しい痛みを感じた。
「いぎっ……!お、折れてはいねぇか……」
バァンは脂汗を滲ませながらも安堵する。ルークと離れてしまった今、大怪我をしてしまうと自分の回復魔法では心もとがなさ過ぎる。
ルークがこちらに戻ってくるまではこのまま耐えるしかない。
バァンが再び飛行魔法で飛び立ったと同時だった。
ギャアァ!!
「うおわっ!!」
今やすっかり魔物と化した小鳥達が、バァンを覆い隠すように群がってくる。
バァンも斧を振り回し、襲い掛かってくる魔鳥を次々と叩き落としていくが、数が多すぎる。
一羽を叩き落としたと思えば、すぐに別の魔鳥が横から襲い掛かってくる。
しかも、空中では思うように踏ん張れない。
身体中の痛みも重なり、徐々に飛行魔法への集中が乱れていく。
ゆっくりと高度が下がってきた。
「くそぉぉっ!!このおぉぉぉ!上がれぇぇ!!」
バァンはまるで溺れかけているようにもがく。
そうしている間に、木の枝がバァン目掛けて鞭のように伸びていき、バァンに纏わりつく魔鳥ごと振り払う。村長の攻撃だ。
「ぐぁ!!」
先程の枝よりはずっとか細い為、バァンは咄嗟に左腕でガードするが、衝撃までは殺しきれず魔鳥と共に地面へ叩き付けられた。
魔物化した者が絶命したとき特有の黒い塵が、砂埃のようにバァンの周囲に立ち込めた。
「一気にこれだけ死んだってか……?
あ――!?」
遅れて来た痛みでバァンは悟る。
恐る恐る左腕を見ると、肘ではない場所が曲がっており、まるで関節が一つ増えたかのようになっていた。
「ぐああぁ……!!」
改めて自身の状況を認識した瞬間、それ相応の痛みが襲ってくる。
痛みに悶えつつも、バァンは必死で回復魔法を唱える。
だが、苦手な魔法な上に痛みで集中を乱される。
無駄に魔力を消費しているだけだった。
それでも諦めずに回復を続けていると、茂みから一匹の野ウサギが飛び出してきた。
野ウサギは周囲の様子を探るように鼻をヒクヒクさせながら、バァンの所へ近付いてくる。
「はは……。おい、ここは危ねえぞ……」
バァンが逃がそうと野ウサギに手を伸ばしたその瞬間、野ウサギの身体が膨れ上がり、草食動物とは思えない鋭い爪と牙が伸びる。
「な……!!」
そのままバァンに喰らいつこうとするその時、野ウサギの頭が突然弾け飛んだ。
「……え?」
突然の事で口を開けたまま呆然とするバァン。
すると、バァンの身体がじんわりと心地良い温かさに包まれ、痛みが消えていくではないか。
折れた腕もすっかり元通りだ。
「ルーク!!無事だったんだな!!」
瞳に光が戻ったバァンが勢いよく振り返る。
そこには紋章だらけの布で顔を隠し、白いマントとローブを纏った人物が。
「あ、主任先生」
「おーまーたーせー!
ごめんねー、ルーク君じゃなくてさー」
相変わらず気の抜ける明るさと共に、両手で手を振りながら主任先生がやってくる。
気が立っていたバァンもすっかり気分が落ち着いた。
「本当によかったあ、無事で。よく頑張った!」
小さな子どもを褒めるように言う先生。
普段なら馬鹿にされているような気がしてならなかっただろうが、今は純粋に嬉しい。
「へへ……ども……。でもルークがまだ……」
「そっかあ、まあルーク君はあの身体だから大丈夫だと思うけど、問題は…あれだよねえ……」
二人は巨大樹を見上げる。
上部の葉が生い茂る部分は触手のように禍々しくうねり、寄ってくる魔鳥を捕らえては取り込んでいっている。
「ここは先生に任せてー……」
「そんな!!危険だ!!」
「――って言いたい所なんだけど」
主任先生はパチンと手を叩く。色々言いかけていたバァンは一瞬で止まってしまった。
「ごめんけど先生だけじゃ無理。バァン君にも手伝ってほしいなー」
すっかりペースを乱されてしまい、バァンは反応するのが一瞬遅れる。
「あ、ああ!!もちろん!!よろしくお願いします!!」
バァンは武器を構え直し、主任先生と改めて巨大樹を見上げた。




