第76話 海と薬膳の出逢い!〜潮風と貝殻のラーメン革命〜
王都から南へ数日の航路。その海上に浮かぶ光の都――海洋国家。
白い珊瑚と碧い波に包まれたその国は、「水の魔術」と「魚介の王国」として名高い美食の都でもある。
船のデッキに立った美月は、潮風にふわりと髪をなびかせながら、真剣な表情で手帳にメモを取っていた。
「エルマーレ名物:海水干し海苔、深海塩、月光貝……うん、これで塩ラーメンの出汁は……」
「美月さまー! やっぱりまたお仕事中ですの!? 到着前からもうレシピですか?」
リリアーナがカツカツとヒールの音を響かせて登場。
「観光もお忘れなく。今回は“外交ミッション”でございますのよ?」
「うん、でもね……潮の香りと風の湿度、今この感覚を逃すとスープの方向性を見失っちゃうから……」
「もう、ほんと職業病ですわ……」
その後ろから、クラリーチェが大きな貝殻を両手で掲げながら元気にやってくる。
「美月さまーっ! 見てください! こ、これは……“歌う貝”ですって!」
「えっ、貝が……歌う?」
「本当に、潮の満ち引きに合わせて、“キュゥ〜〜〜”って鳴くんですっ!」
「……それ、なんか鳴き砂と同じ原理じゃ……」
「ふも〜!」(訳:うまいの? 食えるの?)
「チグー、それ食材判定早すぎるわよ!」
港に着いた一行は、さっそくエルマーレの料理公使・ネリオの案内で、首都の市場へと向かう。
「おぉ、君が噂の“薬膳の女神”か。いやはや、まさか本当に船を降りてくれるとは!」
「ど、どちらかというと、栄養士出身のラーメン職人ですが……よろしくお願いします……」
「うんうん、その謙虚さがすでに海の塩味だね!」
「え、どういう例えですか!?」
ネリオの軽妙な口調と、港町特有の明るさに戸惑いながらも、美月は歩きながら気づいていた。
(この町……なんて素材の宝庫なの)
乾物から海藻、珍しい魚や、月夜にしか獲れない“銀光エビ”など、見たことのない食材が溢れていた。
そして。
「この国の塩は、時間と魔力で“味が育つ”んです。日によって塩気も甘味も変わる。まさに“生きてる塩”なんですよ」
「……生きてる塩……! それ、すごくワクワクする響き……!」
リリアーナは小声でつぶやいた。
「この人……もう完全に、塩に恋してますわね……」
「ふも〜」(訳:おいしい予感)
市場を歩き回った後、一行は浜辺の調理小屋で“初試作”に挑む。
「まずは、銀光エビの殻でブイヨンとって……乾燥月海苔で香り付けて……そこにこの育ち塩を少しずつ……」
「クラリーチェ、火加減見て! リリアーナ、貝を砂抜き!」
「はいっ! 火の番、得意ですっ!」
「まかせてくださいまし! 貝は伯爵家の宴会でも剥いてましたから!」
そして……
「いただきますっ!」
一口、すすると。
「……なにこれ……」
「か、海が……ラーメンに……」
「ふもぉ……」(訳:これは……天才の味)
「このスープ、名前をつけなきゃだめだわ。うーん……“潮香る月光塩拉麺”とかどう?」
「それ、絶対覚えられませんわ……」
「“うみしおらーめん”でいいんじゃないですか?」
「それはそれで直球すぎるかも……」
こうして、“海洋国家編”の幕は上がった。




