第68話天空都市から地上への凱旋編 〜王子と薬膳、そして再び地に足を〜
「……はぁー、地面って、いいわねえ」
美月は長靴の先で土をキュッと踏みしめた。天空都市での浮遊生活も悪くはなかったが、やはり地面を踏んでいるという安心感は格別だった。
「美月殿。まさか空の上で“地面に恋する女”とあだ名されていたとは……」
そう言って苦笑するのは、ゼファル王子。天空都市での“密着修行”を経て、地上へと降りることを決意したばかりである。
「そ、それって誰が言ってたの!? あの衛兵たちね!? あの、“あの人また地面恋しがってます”とか言ってた……!」
「わたしじゃないですわよ」
後ろから涼しげに声をかけたのは、クラリーチェ。クラリーチェもリリアーナも、一緒に帰還する一行の中にいた。王都へ戻る道中、彼女たちは再び旅装を整え、まるで冒険者のように馬車に揺られている。
「それにしても……」
リリアーナが窓の外に視線を投げながら、ぼそりとつぶやく。
「空の上ではあれだけ静かだったゼファル王子が、帰り道ではずっと美月様の隣をキープしておられますわね……」
「き、キープって言い方……!」美月が顔を赤らめる。
「ふふっ。だって、ずっとぴったり。ね、ゼファル殿?」
クラリーチェが軽く王子の肩を肘で小突いた。
しかしゼファル王子は、真面目な顔で、むしろ堂々と返す。
「私は、学びたいのです。薬膳と、ラーメンと、そして――人のために料理を作る心を。……それを、美月殿から」
「ゼ、ゼファルさん……真面目か!」
美月が思わずずっこけたその瞬間、チグーが「もふぅん」と伸びながら、馬車の荷台から頭を出した。
「チグーまで真顔でうなずかないで! 誰か笑って!!」
「もふ、ふも……!」
「それ絶対“そろそろ正式にプロポーズしろ”って言ってるわよね!?」
馬車の中は、笑いと照れと、もふもふとしたチグーの鼻息で満ちていた。
王都への帰還は間もなく。
天空からの凱旋は、決して仰々しいものではなかったが――
美月たちの笑顔が、空から地上へと“ぬくもり”を連れて帰ってきたのだった。
そして、美月の新たな“多面任務”の再始動も、すぐそこに迫っていた。




