第69話癒しの湯けむり、ラーメン温泉郷へ!〜領主代行ギュスターヴ奮闘記〜
美月が天空都市から地上に戻って数日後。ついに、彼女は自らの領地へと初の視察に赴くことになった。
「ラーメン温泉郷……ほんとに、そんなものが出来てるのかな……?」
馬車の窓から見える景色に目を細める美月の隣では、リリアーナが書類をチェックしながらふんふんと頷く。
「どうやら、領主代行のギュスターヴさまが、温泉と薬膳スパを観光資源として整備したようですわ。報告書によれば、“世界初、麺湯蒸しフェイスパック”なる美容法まで開発したとか……」
「いや、それ絶対ギュスターヴさんの趣味じゃない!?」
美月が思わず身を乗り出すと、チグーがもふっとした鳴き声で同意したように見える。
「もふー!」
***
領地に着くと、そこには想像以上の光景が広がっていた。
立ち並ぶ湯煙の立ちこめる湯屋。露天風呂の横には、麺の湯切りを再現したかのような“打たせ湯”。さらに、屋外の足湯には、薬膳スパイスの香りがほんのり漂う。
「よくぞおいでなすった、我が主君!!」
どこか芝居がかった声で飛び出してきたのは、黒縁眼鏡におかっぱ頭、白いタオルを首に巻いた中年男――ギルド長の双子の弟にして、美月の領地の代行・ギュスターヴだった。
「温泉とラーメンを融合させた、未曾有の癒し都市……その名も“湯らら麺郷”!我、ギュスターヴ・ド・セントマルヌが陣頭指揮をとり、民に笑顔と毛穴開放を届けておりますぞ!」
「毛穴!? いや、そっち!? スープじゃないの!?」
美月のツッコミもなんのその、ギュスターヴは大真面目に胸を張る。
「安心なさい、美月殿。薬膳ラーメンの湯を用いた“ラーメン湯蒸しスパ”により、血行促進、美肌効果、そして胃袋の満足が同時に得られるのです。ちなみにリピーター率97%!」
「すごいけど……!方向性が!健康なのか、食欲なのか、エステなのか、よく分からないよぉ!!」
***
視察の終盤、美月は地元の人々と語らい、実際にラーメン温泉にも入ってみることに。
「あ、これは……悪くないかも……。ほんのり薬膳の香りがする……」
「もふ〜〜(気持ちいい〜)」とチグーが湯船のフチでごろんと横になる。
そこへ、湯上がりの村の子どもたちが手を振りながら駆け寄ってきた。
「美月さまだー!ラーメンスパありがとうー!」
「おばあちゃんの膝の痛みが、ちょっと良くなったって!」
嬉しそうな声に、美月はふと目を細めた。
「……そっか。ちゃんと、根付いてくれてるんだね、薬膳ラーメン」
背後では、ギュスターヴが竹の筆を構えながら叫んでいた。
「次は世界五大陸“薬膳ラーメン温泉”構想を立ち上げましょうぞ!目指せ、地球規模の癒し革命!サハラに、アンデスに、そして宇宙ステーションに――!」
「い、いや、宇宙はちょっと待って!?」
笑い声と湯気が立ちのぼる湯らら麺郷の空に、今日も一杯のラーメンが笑顔を届ける――。




